30 / 124
リリィ・ブラック2
しおりを挟む
読み終わったサナリアは魔導書を閉じ、厳重に封印をして、片づけた。
横に置いてある強めの酒の入ったグラスを一気に煽り、両手で握り締めたグラスに額を預けてうなだれる。
「リリィ・・・・。」
一人きりの部屋で一度だけその名を呼んだ。
サナリアが読んでいた魔導書の『黒い子熊の様な子供』は、間違いなくかのリリィ・ブラックの事だ。
動画が添付されていた。
それは、サナリアの記憶の中のリリィと寸分とた違う所が無かった。
クイブは当時、幼いサナリアに保護した幼体は『違法キメラ』だと教えた。
当時未だ子供だったサナリアに本当の事を言えなかったのだろう。
おあつらえ向きに、リリィは生まれて此の方言葉なんて教えてもらった事も無かったので、動物の様にあーとかうーとかしか声を発しなかったのでサナリアは師匠の言う事をすんなり信じてしまった。
これについては、サナリアはクイブを責める気はない。こんな残酷な話、サナリアだってとても声変わりもしていない子供には話す事すら出来ない。
「自分の尻尾を食う程の空腹なんて・・・・どれほど・・・。」
しかし、結果として、今の今まで騙されていた怒りも無い訳ではない。
知っていたら、もっと沢山抱き締めて、もっと沢山美味しいご飯をあげて、もっと沢山甘やかして、もっとたくさん・・・っ。
真実は、ただ、ただ、サナリアの心を締めつけるばかりだ。
魔導書には、子供はウロボロスに保護されたとされ、それ以後の行方は記されていなかった。
そこはやはり、クイブ・ラッセンの良心なのだろう。
しかし、サナリアは昨日見つけてしまった。
自分がリリィにお守りとして施した筈の、自分の印である黒い百合の特性魔法陣を、ガルゴの口の中に。
アレを見つけた時の驚き様と言ったら、無かった。
よくぞ、表に出さなかったモノだと自分で自分を褒めた。
幼いサナリアは、リリィに出会った時、お守りとして、いざと言う時リリィを一回だけ守れるような魔術と、ある映像を組み込んでリリィの口の中に黒百合を模した特製魔法陣として刻んだ。
世界に一つだけの魔法陣だ。
それを昨日ガルゴの口の中を診た時に見つけた。
「今更分かったって、名乗れもしないじゃぁ無いか。」
子供の頃の嘘は仕方ないとして、後にサナリアがリリィの行方を聞いたとき、クイブは『八方てを尽くして探したが、行方は解らなかった』などとぬかしやがったのだ。
その頃ガルゴは既に騎士団で活躍していた。
直ぐ近くに居るではないか!。
それが昨日の二人の大喧嘩の原因だった。
あのクソジジィ!、とサナリアはやけ気味に毒づいて、ふらりと起ち上がると。
「今日はもう何にも考えたくない。丁度いい、アレにエサをやりに行くか。」
と云い、フラフラと千鳥足で施設の外へと続く扉を開けると、建物の目の前の大きな洞窟に入って行った。
◆
その頃ガルゴは、サナリアが突然いなくなってしまったショックからか、急に兆候が激しくなった発情期のサインに慌て、計画を前倒しして森にやってきていた。
とりあえず、発情期真っただ中のキツイ状態の時に、なるべく楽に過ごせる様に、体を冷やせる様な湖が近くて暖かくて、雨風が最低限しのげる所が無いかと森の中をさ迷い歩いている内に、森の奥に入って来てしまった。
森は奥にいけば行くほど危険な獣が増える。
まぁ、ガルゴの敵に成る程の強さの魔獣はこの森には居ないので、特別神経質に成る程の事は無いのだが、サナリアに『不用意に殺すな』と言われているし、遭遇しないに越した事は無いだろう。
ここらで今日は夜営をしようと辺りを見回したところで、五十メートル位先に岩肌の小高い丘の様な物が見えた。
「洞窟かなんか有るかも知れねぇな。」
ガルゴはゆっくりと丘へと歩いて行った。
横に置いてある強めの酒の入ったグラスを一気に煽り、両手で握り締めたグラスに額を預けてうなだれる。
「リリィ・・・・。」
一人きりの部屋で一度だけその名を呼んだ。
サナリアが読んでいた魔導書の『黒い子熊の様な子供』は、間違いなくかのリリィ・ブラックの事だ。
動画が添付されていた。
それは、サナリアの記憶の中のリリィと寸分とた違う所が無かった。
クイブは当時、幼いサナリアに保護した幼体は『違法キメラ』だと教えた。
当時未だ子供だったサナリアに本当の事を言えなかったのだろう。
おあつらえ向きに、リリィは生まれて此の方言葉なんて教えてもらった事も無かったので、動物の様にあーとかうーとかしか声を発しなかったのでサナリアは師匠の言う事をすんなり信じてしまった。
これについては、サナリアはクイブを責める気はない。こんな残酷な話、サナリアだってとても声変わりもしていない子供には話す事すら出来ない。
「自分の尻尾を食う程の空腹なんて・・・・どれほど・・・。」
しかし、結果として、今の今まで騙されていた怒りも無い訳ではない。
知っていたら、もっと沢山抱き締めて、もっと沢山美味しいご飯をあげて、もっと沢山甘やかして、もっとたくさん・・・っ。
真実は、ただ、ただ、サナリアの心を締めつけるばかりだ。
魔導書には、子供はウロボロスに保護されたとされ、それ以後の行方は記されていなかった。
そこはやはり、クイブ・ラッセンの良心なのだろう。
しかし、サナリアは昨日見つけてしまった。
自分がリリィにお守りとして施した筈の、自分の印である黒い百合の特性魔法陣を、ガルゴの口の中に。
アレを見つけた時の驚き様と言ったら、無かった。
よくぞ、表に出さなかったモノだと自分で自分を褒めた。
幼いサナリアは、リリィに出会った時、お守りとして、いざと言う時リリィを一回だけ守れるような魔術と、ある映像を組み込んでリリィの口の中に黒百合を模した特製魔法陣として刻んだ。
世界に一つだけの魔法陣だ。
それを昨日ガルゴの口の中を診た時に見つけた。
「今更分かったって、名乗れもしないじゃぁ無いか。」
子供の頃の嘘は仕方ないとして、後にサナリアがリリィの行方を聞いたとき、クイブは『八方てを尽くして探したが、行方は解らなかった』などとぬかしやがったのだ。
その頃ガルゴは既に騎士団で活躍していた。
直ぐ近くに居るではないか!。
それが昨日の二人の大喧嘩の原因だった。
あのクソジジィ!、とサナリアはやけ気味に毒づいて、ふらりと起ち上がると。
「今日はもう何にも考えたくない。丁度いい、アレにエサをやりに行くか。」
と云い、フラフラと千鳥足で施設の外へと続く扉を開けると、建物の目の前の大きな洞窟に入って行った。
◆
その頃ガルゴは、サナリアが突然いなくなってしまったショックからか、急に兆候が激しくなった発情期のサインに慌て、計画を前倒しして森にやってきていた。
とりあえず、発情期真っただ中のキツイ状態の時に、なるべく楽に過ごせる様に、体を冷やせる様な湖が近くて暖かくて、雨風が最低限しのげる所が無いかと森の中をさ迷い歩いている内に、森の奥に入って来てしまった。
森は奥にいけば行くほど危険な獣が増える。
まぁ、ガルゴの敵に成る程の強さの魔獣はこの森には居ないので、特別神経質に成る程の事は無いのだが、サナリアに『不用意に殺すな』と言われているし、遭遇しないに越した事は無いだろう。
ここらで今日は夜営をしようと辺りを見回したところで、五十メートル位先に岩肌の小高い丘の様な物が見えた。
「洞窟かなんか有るかも知れねぇな。」
ガルゴはゆっくりと丘へと歩いて行った。
10
お気に入りに追加
323
あなたにおすすめの小説
Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜
天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。
彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。
しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。
幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。
運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
【完結】雨降らしは、腕の中。
N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年
Special thanks
illustration by meadow(@into_ml79)
※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。
【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています
空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。
『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。
「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」
「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」
そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。
◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる