魔獣の姫に黒の騎士

鈴紐屋 小説:恋川春撒 絵・漫画:せつ

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リリィ・ブラック2

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読み終わったサナリアは魔導書を閉じ、厳重に封印をして、片づけた。
横に置いてある強めの酒の入ったグラスを一気に煽り、両手で握り締めたグラスに額を預けてうなだれる。
「リリィ・・・・。」
一人きりの部屋で一度だけその名を呼んだ。
サナリアが読んでいた魔導書の『黒い子熊の様な子供』は、間違いなくかのリリィ・ブラックの事だ。
動画が添付されていた。
それは、サナリアの記憶の中のリリィと寸分とたたがう所が無かった。
クイブは当時、幼いサナリアに保護した幼体は『違法キメラ』だと教えた。
当時未だ子供だったサナリアに本当の事を言えなかったのだろう。
おあつらえ向きに、リリィは生まれて此の方言葉なんて教えてもらった事も無かったので、動物の様にあーとかうーとかしか声を発しなかったのでサナリアは師匠の言う事をすんなり信じてしまった。
これについては、サナリアはクイブを責める気はない。こんな残酷な話、サナリアだってとても声変わりもしていない子供には話す事すら出来ない。
「自分の尻尾を食う程の空腹なんて・・・・どれほど・・・。」
しかし、結果として、今の今まで騙されていた怒りも無い訳ではない。
知っていたら、もっと沢山抱き締めて、もっと沢山美味しいご飯をあげて、もっと沢山甘やかして、もっとたくさん・・・っ。
真実は、ただ、ただ、サナリアの心を締めつけるばかりだ。
魔導書には、子供はウロボロスに保護されたとされ、それ以後の行方は記されていなかった。
そこはやはり、クイブ・ラッセンの良心なのだろう。
しかし、サナリアは昨日見つけてしまった。
自分がリリィにお守りとして施した筈の、自分のである黒い百合の特性魔法陣を、ガルゴの口の中に。
アレを見つけた時の驚き様と言ったら、無かった。
よくぞ、表に出さなかったモノだと自分で自分を褒めた。
幼いサナリアは、リリィに出会った時、お守りとして、いざと言う時リリィを一回だけ守れるような魔術と、ある映像を組み込んでリリィの口の中に黒百合を模した特製魔法陣として刻んだ。
世界に一つだけの魔法陣だ。
それを昨日ガルゴの口の中を診た時に見つけた。
「今更分かったって、名乗れもしないじゃぁ無いか。」
子供の頃の嘘は仕方ないとして、後にサナリアがリリィの行方を聞いたとき、クイブは『八方てを尽くして探したが、行方は解らなかった』などとぬかしやがったのだ。
その頃ガルゴは既に騎士団で活躍していた。
直ぐ近くに居るではないか!。
それが昨日の二人の大喧嘩の原因だった。
あのクソジジィ!、とサナリアはやけ気味に毒づいて、ふらりと起ち上がると。
「今日はもう何にも考えたくない。丁度いい、アレにエサをやりに行くか。」
と云い、フラフラと千鳥足で施設の外へと続く扉を開けると、建物の目の前の大きな洞窟に入って行った。

      ◆

その頃ガルゴは、サナリアが突然いなくなってしまったショックからか、急に兆候が激しくなった発情期のサインに慌て、計画を前倒しして森にやってきていた。
とりあえず、発情期真っただ中のキツイ状態の時に、なるべく楽に過ごせる様に、体を冷やせる様な湖が近くて暖かくて、雨風が最低限しのげる所が無いかと森の中をさ迷い歩いている内に、森の奥に入って来てしまった。
森は奥にいけば行くほど危険な獣が増える。
まぁ、ガルゴの敵に成る程の強さの魔獣はこの森には居ないので、特別神経質に成る程の事は無いのだが、サナリアに『不用意に殺すな』と言われているし、遭遇しないに越した事は無いだろう。
ここらで今日は夜営をしようと辺りを見回したところで、五十メートル位先に岩肌の小高い丘の様な物が見えた。
「洞窟かなんか有るかも知れねぇな。」
ガルゴはゆっくりと丘へと歩いて行った。

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