魔獣の姫に黒の騎士

鈴紐屋 小説:恋川春撒 絵・漫画:せつ

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魔導士と騎士2

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「自己管理、怠らないで下さいね。それから其処まで口腔内が荒れるのはちょっとおかしいと思います。一応医療棟に行って診て貰った方が良いですよ、『アルテミナに行け』と言われたと言えばちゃんと検診してもらえるハズです」
「有難う。助言痛み入る」
礼を言ったガルゴを尻目に、サナリアは躊躇なく起ち上がった。
そのまま膳を持って去ろうとして、逡巡し、言い添える。
「医療棟が遠くて面倒だからって、魔道三課へ行ってはダメですよ、三課は飽く迄も研究が目的の課です。体を切り刻まれて実験動物の様に扱われかねません」
「・じっ・・・・あい、分かった」
武闘部門や運営部門の者達の間によくいるのだ、面倒がって近くの医療魔道研究を行っている魔道三課へ行ってすまそうとするバカ者が、実践と技術研究では重視しなければならない事が違うのだ。
サナリアは一応ガルゴに釘を刺し、別れの挨拶もせずに立ち去った。
サナリアが去ると、副団長のバルと第一飛行隊隊長のグールがやってきた。
「良かったですね、団長」
「あぁ」
グールの言葉に生返事を返すガルゴに
「エロかったな」
サナリアの消える方を見つめながらバルが呆然というと
「何がですか!?」
グールが突っ込んだ。
その後、暫くウロボロスグイネバルド支部では、気の有る魔道部門メンバーの前で熱い物を食べて火傷して見せるという変な軟派手口が流行ったが、成功した者は殆ど居なかった。
「いきなり目の前で大して親しくも無い人に火傷されてもねぇ」
「キモイよね」
「順番を間違えてるのよ、順番を」
とは騒動を冷静な目で見ていた者達の話。

     ◆

騒動が起きたのはそんな出来事が有った日の午後のお茶の時間近くになった時の事だった。
医療課で検診を受けた帰り、第一騎士団に緊急招集が管内配声管から流れて来た。
『緊急事態発生、緊急事態発生、諜報部門第一諜報隊にてトラブルが発生いたしました。緊急度黒、第一騎士団団長及び副団長ほか団員は大至急現場へ急行されたし、繰り返します。緊急度黒、第一騎士団団長、副団長他団員は大至急諜報部門第一諜報隊へ急行されたし』
ウロボロスでは緊急度を色で表しており、色は団員の正装制服の色に当てはめる事が出来る。
黒が最も緊急かつ危険な状態で、今回はしかも第一騎士団指名、という事は国が一つ焼け野原になりかねない大ごとという事である。
ウロゴボロス敷地内でそんな大ごとが起きるとは、
「おいおいおいおい何事だぁ?!」
急ぐガルゴに途中で団員達が合流する。
先ほど食堂で別れたばかりのバルが片手を挙げて無言で挨拶する。
「急ぐぞ」
ガルゴの檄に、集まった団員達が地響きを起こしそうな声で『応』と気合を入れた。
・・・かくして、現場に駆け付けた第一騎士団団長ガルゴ及び団員達の目前に広がったのは、
「恩義ある師匠に向かってその聞き方は感心せんのぉバカ弟子がー!!!」
サナリアとその師匠の一人で、現在第一諜報隊第一隊隊長を務めるクイブ・ラッセンの・・・・・喧嘩だった。
クイブ・ラッセンはウロボロスの古参こさんの間では有名な人物で、サナリアの師匠だっただけ有って変わり者だ。
実力は魔道を志す者達の最高資格『魔導師』級なのに資格を取らず、各部門の隊長や課長、室長職を渡り歩いてる。ウロボロス上層部の者も昔クイブの部下だった者がちらほら居る。サナリアもその一人だ。
最も、魔道を志す者達なんて皆変わり者だらげだが。
どんな一大事かと覚悟を決めて駆け付けたモノの、単なる師弟の喧嘩だった現場に呆気に取られている第一騎士団面々を他所に、ウロボロス・グイネバルド支部の実力者二名による子供の喧嘩の様な争いはヒートアップしていった。
お互い通り道を挟んで誰の机とも分からない机でバリケードを作り、物や罵倒を激しく投げつけ合っている。
「バカとは聞き捨て成りませんねぇ!こんの、ポンコツジジイ諜報員!!!」
その場にいるクイブ以外の誰も聞いた事が無いサナリアの怒号が響き渡った。

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