魔獣の姫に黒の騎士

鈴紐屋 小説:恋川春撒 絵・漫画:せつ

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サナリアの現在の研究魔獣6

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「ったく仕方しょうが無ぇなぁ!。オラ、売店閉まらねぇ内にこれで適当に摘み買って来い!俺の分の酒五、六本もな!」
奮発して金貨を三枚もチラつかせると
「あ、俺、行ってきます。」
「俺、も」
力自慢が多い陸行りくこう水行すいこう隊の新参の隊員が立候補して出て行った。
「お前ら、どんちゃんするなよ、隣は他の団の団長だからな!」
「あ、気にせんで良いよ、ガルゴ。」
「何か面白そうな事してるから遊びに来ちゃった♪。」
いつの間にか両隣の第二、第五の団長が宴会に混ざっていた。
ガルゴは『あー』と額に手を当てて天井を仰いだ。
大宴会の始まりのゴングが、音も無く鳴り響いた。
次の日から、『第一騎士団団長ガルゴが、ウロボロス一の変人に恋煩いしている』という噂は瞬く間に広がり、三日と経たずにウロボロス全騎士団員全員の知る所になった。

         ◆

一方その頃サナリアは、森に引きこもる準備を粗方整え、一人軽く酒盛りをしていた。
今日は本当に散々だった。
ハンス達は祭り見物に来たと言っていたから、未だ当分居るのだろう。
まぁ、もう仕入れに行かなければならない程必須の物は無いので町に行かなければもう会う事も無いだろうと、諦めの溜息を一つ突いた。
酒の肴に見ていた魔獣の生態辞典をのページを静かにめくる。
現在サナリアが研究しているのはスライムだ。
世界最弱の魔獣の一つだが利用価値はとても高い。捌いて干せば高たんぱくの食材に、干してすり潰して粉にすれば液体に混ぜるとトロミを加える事が出来る。これが万能で、抗菌性も高い為、食材から医療、文具、セックスの時の潤滑液まで、多種多用な製品に材料として使う事が出来る。
所がこのスライムという魔獣、世界各国何処にでも生息しているのに、一匹、二匹飼うのは簡単だが、養殖となると大変難しい生物だった。
繁殖の仕方が長らく不明だったのだ。
というのも、スライムの有用性に人間が気が着いたのが近年で有る為、子供の魔獣狩の練習台位にしか考えられておらず、誰も本気で研究していなかったのだ。
サナリアは、そのスライムの養殖方法を模索していた。
本を膝の上で開いたまま、チビリと酒を一口飲んで、気分を変えようと夕方の嵐が嘘の様に晴れた夜空を窓から見る。
今日は満月だから、人も獣も落ち着かない。
町を警護している第七騎士団のメンバーはきっと大忙しだろう。
・・・・騎士団と言えば、『それにしても』、と本日最後に有った出来事を思い起こす。
『騎士団の連中はよ、落ち込むとケンカしたりセックスしたりするのが一番ストレス発散になる奴が多いんだけど、お前らガリ勉組は違うんだろ?何か聞く所によるとぬいぐるみとかフワフワしたものに体を埋めたりしてふて寝するのが良いらしいじゃねぇか。アンタ俺の腹の手触り気に入ったみたいだし、思う存分触っていいぞ?。』そう言いながら天下のウロボロス第一騎士団団長殿は腹を見せた。
大概の人間はそうだが、中でも猫科やイヌ科の獣人は、極端に他人に腹を触られるのが嫌いな筈なのに。
一体ガルゴ団長殿の野生は何処に置いて来たんですかね、とか考えると、知らず口角が少し上がった。
『くふり』と漏れた笑いを誤魔化す様にもう一口酒を飲んだが、グラスの酒を煽った拍子に視界に入った丸い月がまるでガルゴのその時の瞳を思い出させて余計笑いがこみ上げて来てしまった。
背中を丸めたサナリアがクスクスと一人で笑う。
「もう・・・本当、あの、顔ったら・・・・」
笑い過ぎて、涙が出て来た。
『・・・・貴方、アホなんですか?』そういったサナリアをガルゴは怒るでもなく、ちょっと考えてからこう言った。

      ◆

「だって、お前、今凄い悲しいじゃん。匂いがさ。だから・・・何かこう元気になれば良いと思って。」
そういえば、猫科とイヌ科の獣人は、匂いで他人の機嫌をかぎ分ける特技が有るんだったか、とサナリアは昔読んだ文献の記述を思い出した。
「嵐は未だ止みそうにねぇしな、何だったら俺の腹で温まりながら昼寝でもするか?色んな奴に好評だぞ!ガルフの腹ベッドは安眠できるって。」
そりゃ、安眠も出来るだろう、何せこの人は戦場の『黒い悪魔』、一人で一国の軍隊も殲滅出来るなんて嘯かれる程のウロボロス最強無敵の第一騎士団団長殿だ。
こんな安眠できる所はそうそう有るまい、味方である限り。
「見返りに・・・・。」

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