魔獣の姫に黒の騎士

鈴紐屋 小説:恋川春撒 絵・漫画:せつ

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サナリアの現在の研究魔獣5

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「・・・・・・・・・・・は?」
サナリアが『何言ってんだコイツ』という感情を隠しもせず聞き返したが、ガルゴは気にもせずに、近くにあった丈夫そうな木製のテーブルに、巨体に似合わぬ身軽な身のこなしで、ひらりと上がると同時に肱を立てて掌に頭を乗せた状態で横になり、サナリアに腹を向けてた。
開いた片手は自分の腹の毛皮を撫でて見せている。さぁ撫でろと言わんばかりだ。
「騎士団の連中はよ、落ち込むとケンカしたりセックスしたりするのが一番ストレス発散になる奴が多いんだけど、お前らガリ勉組は違うんだろ?何か聞く所によるとぬいぐるみとかフワフワしたものに体を埋めたりしてふて寝するのが良いらしいじゃねぇか。アンタ俺の腹の手触り気に入ったみたいだし、思う存分触っていいぞ?」
しばしの沈黙。
ガルゴの首にかかっている、三連のネックレスがシャラリと音を立てた。
サナリアは静かに口をひらきこう言った。
「・・・・・・貴方、アホなんですか?」
厚い雲に覆われて、いつもより早く真っ暗になった家の外では、轟音とともに稲光が走っていた。
嵐は当分止みそうにない。

               ◆

「この、とんちきがああぁぁぁぁっ。そぉっじゃねぇっだろうがぁ!」
夜半にサナリアと連れ立って寮に帰ったガルゴは、それを見咎めた部下達に部屋まで押しかけられ、根掘り葉掘り質問さる破目を見た。
正直に話したところ、先輩部下の副団長バルに激しく突っ込みをいれられた。
『ナゼ?』と首をかしげるが、他人の恋バナ恋愛話を酒の肴にしようと集まった他の団員達も一様に繰り返し頷いている。
銘々持ち寄った、酒や摘みを片手に悶えている。
「そこはっ、そこはそっと優しく抱き寄せてオデコにキスとか!」
「熱烈な口づけとか!」
「ダメ押しに、『俺だったら、お前をそんな泣かす様な真似しねぇ』と宣言するとか!」
「強く抱きしめてやさしく『今は俺の胸で泣けよ、泣き声は外の嵐が消してくれるさ』とか囁くとか!」
「あぁぁぁっ、せっかくのチャンスだったのに団長のバカー!」
キャーキャー無責任な助言をしているのは飛行部隊と救護隊の若い面々。
恋愛に関しては百戦錬磨がそろう各隊の隊長達は
「センスゼロですね」
「アホだ、アホ過ぎる」
「そんな千載一遇のチャンスを!」
「食えたのに!、絶対ヤれたのに。」
「甲斐性なし、ここに極まれりですね」
「恋愛に関しては、ホントこの人ポンコツですよね。」
「前代未聞超絶底抜け絶望的敵無唐変木」
明確に、蔑んだ目で見ている。
「うるせえな、俺だって水商売のヤツが寝物語に話した話だったら優しく抱きしめて思う存分慰めてやるさ、だがなぁ、相手は『人間嫌いの魔獣の姫』だぞ!下手に手ェ出してホ、ホントに泣かれたらどうすんだよ!」
「・・・アルテミナ研究員相手なら、・・・魔術で隕石落とされる心配する方が先じゃねぇっすかね?」
第一飛行隊隊長のグールが呆れて言うと、バルが
「あれが世に言う恋は盲目ってヤツだよ」
っと解説した、一同『あぁ・・・!』っと珍しい物を見る目でガルゴを見つめる。
なぜ人間は他人をオチョクルとなると妙に団結するのか。
「良いんだよ、今回はこれで、アルテミナ研究員も俺の腹モフってなんか元気になって帰ってったし」
ガルゴがヤケ気味に言うと、今度はガルゴの腹の毛が、そんなに素晴らしいのかという話に発展した。
「結局あの人、腹の毛モフってったんだ」
「またブチ切れて又蹴り飛ばされたんじゃ無いんだ?。」
「え?じゃ、『腹なでろ』がマサカの正解ど真ん中?」
「あははは、まさか!・・・そんなに団長の腹って触り心地良いんですかね?え?オレも触って良い?」
わいわい、寄って来た部下達を一睨みしてガルゴが追い払う。
「バーカーやーろーう。俺の腹はそんな誰にでも触らせる様な安いモンじゃねぇんだよ。散れ散れ」
集まってきた者達もバカではないので、潮時を心得ておりさっさと自分達の盃の有る場所へ戻って行った。
しかし、誰一人孵る素振りも無い。
「お前ら、帰る気無ぇな?」
呆れるガルゴに酔っ払いたちが『えへぇ』っと笑って返す。
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