203 / 220
壊れた玩具と伝説の狼2-5
しおりを挟む
アヤの声を聴きながら、セイラは自分みたいに逃げられなくなった場合はどうしたら良いのかしらなんて意地悪な事を考えていた。
口には出さなかったけれど、だって答えなんて見つからない。
仮にセイラみたいな千載一遇のチャンスを見計らって現状に耐えるとしたって、どれだけの人間が耐えられるだろうか・・・。
だから、他の事を言った。
「アヤは強いのに戦えって言わないんだね」
「逃げるのだって立派な戦いだ。生き残る為なら、狼だって飼い犬のフリもする」
アヤは真面目に、でも自分が犬のフリをした事をちょっと茶化しながら言った。
だからセイラも真面目に、でも、茶目っ気も入れて
「気持ちよかったよ。僕の愛しいバター犬」
と言ったら、アヤは尻尾を振って『ウォフ!』と犬の鳴きまねをしてセイラを笑わせた。
セイラは笑いながら、初めて山の王となったアヤに出会ったあの日の事を思い出していた。
確かに、あれは戦いだった。
逃げていたけれど、戦いだった。
何の偶然だったのか、動かなくなった筈の体が動いて、一瞬の隙をついて馬車の扉を開けて転げ出して。
必死で逃げた、こんな体が残るのが嫌で、死ぬために逃げた。
だから馬車から落ちた時、それで死んでも良いと思っていた。
あの時セイラは死ぬために逃げたけど、同時に自分を守る為に戦ってもいたと、今なら分かる。
自分の尊厳を守る為に戦っていた。
このまま自分の全てを踏みにじられたまま、都合の良い様に片付けられて堪るかと必死だった。
多分、今まで生きて来た中で一番一心不乱に戦っていた。
そしてセイラは勝ち取ったのだ、アヤという自分を大事にしてくれる最良の生涯の相手を。
口には出さなかったけれど、だって答えなんて見つからない。
仮にセイラみたいな千載一遇のチャンスを見計らって現状に耐えるとしたって、どれだけの人間が耐えられるだろうか・・・。
だから、他の事を言った。
「アヤは強いのに戦えって言わないんだね」
「逃げるのだって立派な戦いだ。生き残る為なら、狼だって飼い犬のフリもする」
アヤは真面目に、でも自分が犬のフリをした事をちょっと茶化しながら言った。
だからセイラも真面目に、でも、茶目っ気も入れて
「気持ちよかったよ。僕の愛しいバター犬」
と言ったら、アヤは尻尾を振って『ウォフ!』と犬の鳴きまねをしてセイラを笑わせた。
セイラは笑いながら、初めて山の王となったアヤに出会ったあの日の事を思い出していた。
確かに、あれは戦いだった。
逃げていたけれど、戦いだった。
何の偶然だったのか、動かなくなった筈の体が動いて、一瞬の隙をついて馬車の扉を開けて転げ出して。
必死で逃げた、こんな体が残るのが嫌で、死ぬために逃げた。
だから馬車から落ちた時、それで死んでも良いと思っていた。
あの時セイラは死ぬために逃げたけど、同時に自分を守る為に戦ってもいたと、今なら分かる。
自分の尊厳を守る為に戦っていた。
このまま自分の全てを踏みにじられたまま、都合の良い様に片付けられて堪るかと必死だった。
多分、今まで生きて来た中で一番一心不乱に戦っていた。
そしてセイラは勝ち取ったのだ、アヤという自分を大事にしてくれる最良の生涯の相手を。
0
お気に入りに追加
85
あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。


塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。


男子寮のベットの軋む音
なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。
そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。
ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。
女子禁制の禁断の場所。

ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる