壊れた玩具と伝説の狼

鈴紐屋 小説:恋川春撒 絵・漫画:せつ

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壊れた玩具と伝説の狼2-5

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アヤの声を聴きながら、セイラは自分みたいに逃げられなくなった場合はどうしたら良いのかしらなんて意地悪な事を考えていた。
口には出さなかったけれど、だって答えなんて見つからない。
仮にセイラみたいな千載一遇のチャンスを見計らって現状に耐えるとしたって、どれだけの人間が耐えられるだろうか・・・。
だから、他の事を言った。
「アヤは強いのに戦えって言わないんだね」
「逃げるのだって立派な戦いだ。生き残る為なら、狼だって飼い犬のフリもする」
アヤは真面目に、でも自分が犬のフリをした事をちょっと茶化しながら言った。
だからセイラも真面目に、でも、茶目っ気も入れて
「気持ちよかったよ。僕の愛しいバター犬」
と言ったら、アヤは尻尾を振って『ウォフ!』と犬の鳴きまねをしてセイラを笑わせた。
セイラは笑いながら、初めて山の王となったアヤに出会ったあの日の事を思い出していた。
確かに、あれは戦いだった。
逃げていたけれど、戦いだった。
何の偶然だったのか、動かなくなった筈の体が動いて、一瞬の隙をついて馬車の扉を開けて転げ出して。
必死で逃げた、こんな体が残るのが嫌で、死ぬために逃げた。
だから馬車から落ちた時、それで死んでも良いと思っていた。
あの時セイラは死ぬために逃げたけど、同時に自分を守る為に戦ってもいたと、今なら分かる。
自分の尊厳を守る為に戦っていた。
このまま自分の全てを踏みにじられたまま、都合の良い様に片付けられて堪るかと必死だった。
多分、今まで生きて来た中で一番一心不乱に戦っていた。
そしてセイラは勝ち取ったのだ、アヤという自分を大事にしてくれる最良の生涯の相手を。
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