壊れた玩具と伝説の狼

鈴紐屋 小説:恋川春撒 絵・漫画:せつ

文字の大きさ
上 下
173 / 223

春のススキと白い息5ー4

しおりを挟む
きっとこの先、セイラがアヤと初めて出会った時の事等、思い出すことは無いのだろう、と、アヤはそう思っていた。
それなのに。
思い出したのか。
アヤはもう堪らなくなって、何だかソワソワしている様な、泣きそうな様な、何とも言い表しがたい気持ちでいっぱいになった。
「酔っていたのか。そうか、そうだな、あれは本当にいつもと違って陽気なセイラだった」
つい言った言葉にセイラは直ぐに反応した。
「何それ、まるであの時が初めてじゃ無かったみたいな言い方」
「あ、え、うん」
「何を隠しているの?!」
「べ、別に今さら隠す事ではないなぁ」
過去の自分の勘違いと破廉恥な行為を一気に思い出したセイラは、羞恥心で挫けそうな自分を奮い立たせる為にあえて怒っているみたいな言い方でアヤに積めよった。
頬を真っ赤に染めて畳み掛ける様に話すセイラに気圧されつつも、元気なセイラも可愛いな、などと呑気な事を考えながら、アヤはセイラがアヤに気が付くよりもずっと前にセイラを気にしていた事を語った。
最初に気がついたのは匂い。やたらといい匂いのする人間が滅多に人が来ない獣道や山道をチョロチョロしていると思った事。
この山の生き物は代々決まりで人と出会ってはいけない決まりが有る事。
だからセイラが山に入ると、遠くや影からそっと見ていた事。
あの春の夜に、セイラに見つかる前までの事をかいつまんで話した。
「俺は、発情期になる随分前からお前の匂いが好きだった。
 お前が山に入って来た時、群の中で、一番最初に気が付くのはいつも俺だった。
 雌狼も雄狼の匂いも苦手だった。
 お前の匂いだけが俺を嬉しい気持ちにさせていた。
 俺にしてみれば、お前と番になるのは、きっと生まれた時から決まっていた当たり前の事だったのさ。
 不測の出会いで何もかもがアベコベにはなったが」
そこまで話して、アヤは少し照れながら、口を閉じた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

チョコのように蕩ける露出狂と5歳児

ミクリ21
BL
露出狂と5歳児の話。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

父のチンポが気になって仕方ない息子の夜這い!

ミクリ21
BL
父に夜這いする息子の話。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

目の前に色男が!早速ケツを狙ったら蹴られました。イイ……♡

ミクリ21
BL
色男に迫ったら蹴られた話。

処理中です...