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春のススキと白い息5ー3

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「ど、どうした?セイラ。
 何をそんなに慌てているんだ?
 何を思い出したんだ?」
一人頭を抱えてのたうち回るセイラを見て、訳のわからないアヤはオロオロと狼狽えた。
体が作り変わっって、毒薬で死ぬことは無くなったとはいえ、体に残る媚薬の効果に特別耐性が出来たわけではない、まだまだ大量に残る体内の媚薬で、またおかしくなり始めたのか、とすら思った。
でも匂いがちょっと違う。発情している時の匂いじゃない。興奮してるけど、性欲の興奮の匂いじゃない。
セイラの体から揮発する薬の臭いも何時もみたいに増えてない。
セイラは相変わらず頭を抱えてじたばたしながら体をよじっている。
「セ、セイラ?」
アヤはやはりオロオロと狼狽えながらセイラにどうしたのかと聞くしかなかった。
名前を呼ばれたセイラはナゼがパッと両手で自分の顔を隠した。
「ん?ん?」
真っ赤に頬を染めたセイラが指の隙間からそっとアヤを見た。
「・・・『アヤ』」
ポツリとアヤの名前を呼んだ。
アヤには何だかいつもと違う呼び方をされた気がして小首をかしげた。
「うん、俺はアヤだぞ?」
セイラが名前をくれたんじゃないか。
名前は特別だ。
名前が着くと、群れではなく『個』になる。限定される。
ただ一匹の特別な存在になった印だ。
お前がそれを、俺に与えたんだ。
「バター犬」
「ん?」
「僕だった。アヤの本当の番」
セイラがそこまで言ってやっと、アヤは理解した。
今、何が起きたのか、起きているのか。
「セイラお前」
「思い出した。
 春の夜だった。
 まだ夜は息が白くなる寒い初春で、僕は送別会の帰りで、メチャクチャ酔っぱらっていた」
両手の奥から目を潤ませながら、アヤを見つめてセイラは言った。
『思い出した』と言った。
この時のアヤの気持ちが、分かるだろうか。
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