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春のススキと白い息2ー15

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イヤ、むしろ雌狼達に付きまとわれて困った事すら有るんじゃなかろうか、セイラの住んでいた集合住宅の大家に飼われていた大きな雄猫がまさにそれだった。
盛りのついた雌猫に何度も追いかけ回され、必死の形相で逃げ惑い、素性も知れない雌猫に家の中にまで入ってこられて飼い主も随分と困っていた。
その執拗さたるや、およそまともとは思えなかった。
何せ、普段半径5歩圏内に絶対近づいて来ない様な雌猫が、その雄猫目当てに雄猫の飼い主に捕まる位すり寄ってくるのだ。
盛りがつくとはこうも野生をトチ狂わせるのかと驚いた。
アヤは相当モテるだろうから、盛りのついた雌狼が、それこそ群れをなして追いかけた筈だ。
何でこの狼は、人間なんて番に選んだのだろう?
十三年も、山の王なんて物になってまで、何で探し回ったんだろう?
しかも、こんな、壊れてしまった自分をそれでも愛してると言ってくれている。
そうしてその愛情は、セイラの全部をゆっくりとだが、確かに再構築してくれている。
それが、人違いだと気がついたら、この狼はどうするだろうか?
「ごめんね」
本物のじゃないのに番になっちゃって。
たまらなくなって、でも理由は言えなくて、ただ謝った。
「本当だ、少しは反省しろ!俺は大いに傷ついたゾ」
勘違いしたアヤが、セイラが自分を殺せと言ったことを謝ったと思い、少し表情を緩めながらも、優しくセイラを叱った。
「うん」
「『好きだ』『愛していると』毎日の様に言っているこの俺に、何度も自分を殺せと言うだなんて、酷すぎだ!」
口調はやっぱり少し拗ねていた。
『殺して』と言った事についても、申し訳ないとは思っている。
また、言ってしまうかも知れないけれど。
でも謝る気持ちも本当なので、セイラは近づいてきたアヤのマズルにそっと頬寄せてもう一度謝った。
「ごめん、それから」
触れるだけの口付けをした。
「ありがとう」
こんな、どうしようもなく壊れた自分を愛してくれて、本当にありがとう。
  たとえ、それがいつかわ判るであろう虚実の上の愛だとしても、アヤの気持ちは本物で、セイラはそれで今生かされている。
ゆっくりと、でも確かに魂までも癒されながら。
「本当に、ありがとう」
そして、セイラの気持ちこそ嘘偽り無く本当なのだ。
「アヤ、愛してる」
めったに見ない、セイラの花のほころぶ様な微笑みを見て、見惚れたアヤは暫く動けなくなった。
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