壊れた玩具と伝説の狼

鈴紐屋 小説:恋川春撒 絵・漫画:せつ

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人食い湖の住人2ー15

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狼達が岸の淵で此方を見ている。
どうやら、海月に恐れをなしてこちらには来れないらしい。
「大食漢だなんて、そんな。海に住んでる私の仲間に比べたら、私なんて少食な方さ」
後ろから、声がしてきた。
美しくも優しい、耳障りの良い大人の男の声だった。
アヤが海月の事を海の魔獣の出だと言っていたが、セイレーンでも食べたのではないだろうかと思うくらい人を惹きつけそうな声だった。
セイラが海月に視線を戻すと、海月はニコリとその美しい顔で微笑んで
「こんにちは、美味しそうな子だね」
と、やはりその美しい声でそう言った。
まとわりつく人間達を巻き込んだまま、人間の形を成している上半身を持ち上げて、少しセイラの方へ身を乗り出して、触手を数本、セイラの方へスルスルと伸ばしてきた。
『セイレーンでも食べたんじゃ』なんて思っていたセイラは、驚いて硬直してしまったが、直ぐ様アヤがセイラを懐に囲い来んで、唸りながら海月に向かって牙を剥き出した。
「これは俺の番だ!勘違いするな!」
アヤが『番』という言葉を発したとたん、海月は火に触りそうにでもなったかの様に一瞬で触手を引っ込めた。
恨みがましそうにアヤを睨んで
「早く言ってよ!」
とむくれて言った。
「お前が欲をかいて何も確かめないで手をだしたんだろうが」
海月は触手を引っ込めたのに、アヤは未だセイラを腹の下に隠しながら背中の毛を逆立てて威嚇している。
「だってその子、あの屋敷で使われている薬の匂いが体中からするよ。普通私の為に壊れて捨てられた子を連れて来たのだと思うじゃないか」
「この大食らいめ!」
海月はポンポンと気心の知れた様な軽口をアヤと叩き合いながら元の体制に戻っていった。
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