壊れた玩具と伝説の狼

鈴紐屋 小説:恋川春撒 絵・漫画:せつ

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人食い湖の住人2-8

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一回大きく深呼吸すると、山の澄んだ空気がセイラの胸を満たした。
セイラはアヤの身体に片手を着けたままぐるりと辺りを見回した。
「綺麗」
山の風景なんて、子供の頃に散々見たから珍しくも無いのに、何だかとても新鮮で美しく見えた。
五十メートル程先の方に、美しい湖が広がっていた。
(あれが例の不思議な湖か)
成程、ダイアスの使用人達が言っていた通り、湖の端に白い氷が張っているのが見えた。
そう言えば、アヤの後ろについて来ていた狼達は一体どうしたんだろうとセイラが振り返ると、丁度山頂に到着して来る所だった。
十数匹居た狼達は、いつの間にか五匹にまで数が減っていた。
途中でついて来るのを諦めた者がいるのだろう。
狼達は全員、舌を出して息を切らしていた。
「着いて来れたのは五匹か、意外と多かったな」
息を切らしてへたり込んでいる狼達を見て、アヤがそうボソリと呟いた。
どうやらわざと眷属の狼達が付いてこれない様な進み方でここまで来たらしい。
「アヤ?」
「誤解するなよ。別に意地悪して厳しい道を通って来たわけじゃ無い。こんなの遊びさ。
着いてこれなかったからと言って別に何か悪い事が起きるワケでも無いしな。
コイツラは次の山の主候補なんだ。
こうやって競い合って序列を決めているのさ、お互いの得手不得手を確認し合ってもいる。
狩をする時は群れで動くからな、誰が何を担当するのかこういう事で決まるんだ」
『ふうん』と生返事をしながらもう一度狼達を振り返ったが、皆へたり込んでいて立っている者は一匹も居なかった。
ふわりと柔らかい風が吹いて狼達の毛皮を躍らせて通り過ぎて行く、黒鉄色の毛が舞い上がって、クリーム色のアンダーファーが見えた。
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