壊れた玩具と伝説の狼

壊れた玩具２－４

セイラの体が背中を丸めた状態で馬車のドアにもたれかかる様な体制で止まった。
使用人達もバランスを崩した様で、各々おのおの文句を言ったりうめき声を上げたりして体制を立て直そうとしている。
（痛い？）
セイラの体に痛覚が戻っていた。
上げてみたらさっきまでピクリともしなかった腕が動いた。
男達はセイラの変化に気付かず、突然の大きな揺れに怒って御者を怒鳴りつけている。
馬車の窓から伺うと、馬車は山肌を削って作った道を走っていて、セイラが寄りかかっている扉の方は崖になっていた。
いい塩梅に、危険な道を走っているせいか馬車はスピードを落としていた。
（崖からころげ落ちたらきっと死ぬ）
セイラの体はもう本当に限界で、きっと転げ落ちなくてももうじき死ぬ、上手く逃げおおせたとしても生きる道はない、山の中だ、屋敷に住んでいた時もよく狼の遠吠えが聞こえて来ていた。
死ぬ前に、見つかって生きながら食い殺されるかも。
それでも、それはこれから何年も水底で耐えなければならない地獄よりも、本当に魅力的に思えた。
セイラは走っている馬車のドアをあけて
「「セイラ！」」
使用人二人が止める間も与えず、走る馬車のドアから身を投げ出した。
奇跡的に道のわきに少し生えていた草の所に落ちてケガもほとんどしなかった。
不思議な事に、セイラの体はちゃんと動く様になっていた。
驚愕すべき事態だけれど、今は呑気に驚いている時間は無い。
馬車は直ぐに止まった。
体が動く、とは言っても、壊された左足が治ったワケでは無い。
セイラは必死で這い蹲って崖を降りた