壊れた玩具と伝説の狼

壊れた玩具２－３

もう一人のセイラの足側に座っている使用人もゲラゲラ笑って言った。
「たとえ死体になっても、あれだけ冷たい湖なら、何時まで経っても腐らねぇでそのまま底に溜まってるに決まってるしな！あの湖は冷たすぎて死体を食う魚や貝もイネェしよぉ。きっと湖が干上がるまでずーっと綺麗に底に残ってるぜ」
『死体になっても腐らないでずっと溜まってる』それを聞いてセイラはぞっとした。
（嫌）
猛烈に嫌だと思った。
（こんな体が、いつまでも残っているなんて、こんな体が）
誰にもちゃんと愛してもらえなかった体だ。一度もちゃんと大切にしてもらった事が無い体だ。六年もかけて散々もてあそばれて、汚された体だ。
汚らわしい落ちない汚れがついてしまった体だ。
こんな物がずっと残るなんて、絶対に嫌だ。
そんな事あってはならない、そう思った。
最早、生に執着なんてない、この体だって絶対に治らない。このまま死んで湖に捨てられようが、生きながら湖に沈められて死のうが、湖の生き物にでも食べて貰えたら少しはマシと思っていたのに。
それすらも、叶わないのか・・・。
水底に生きながら沈められた人たちの魂はどうしているのだろうか？
何時まで経っても腐らない水底で、肉体から出る事も出来ないで、動かない体と一緒に水底を漂っているのだろうか？
（嫌、絶対に嫌だ）
体に叩きこまれた悍ましい感触が消えないこの体で、地獄の六年間の記憶を抱えて、やっと逃れられると思ったのに、こんな体に魂を閉じ込められて、この先あとどれくらいの年月を過ごさなければならないんだ。
馬車が大きく揺れて、セイラの体がふわりと浮かんで馬車のドアにぶち当たった。
（痛い！）