スイート・スパイシースイート

chocolate with sunrise ２－５

きっと一人で沢山泣いた。
俺はそんな事気づきもしないで、『琢』に引かれる気持ちと『琢美』への未練との間で右往左往して、勝手にイッパイイッパイになっていた。
　時おり見える『残像』に疑問を持つ事すらしなかった。
俺は、改めてカウンター席に座る琢美の顔を見た。
訳の分かっていない琢美が戸惑いながら微笑んで小首を傾げた。
その小首を傾げた琢美の頬にそっと手を伸ばすと、琢美はそのまま俺の手に頬擦りをして、顔を預けた。
可愛い。そしてその仕草は、やっぱり昔の『琢美』が重なった。
もう少し何か気づいたって良かったのに、確かに記憶の性別と年齢は違うけど、琢美は、本当に日本人にはそうそう居ない類いの美人だったのだ、いや、今も美人だけれど、あの頃の琢美は本当に海外の教会に彫られた天使みたいに可愛くて綺麗だった。
長い睫にパッチリした目、透き通ってるみたいな真っ白な肌、巻いて作ったみたいな緩やかなカーブを描く髪もふわふわで、手触りが良くて、俺のお気に入りで、今は暴力親父に掴んで引き倒されたらヤバいからショートカットで良いけど、いつか二人で家を出たら伸ばして欲しいとせがんでいた。
琢美が笑うと、皆が見惚れた。女子にしては、身長が高いなとも思っていた。
琢だってそうだ、堀が深くて、綺麗で、ルックスだけなら贔屓目を外しても、まるでハリウッド映画で色男役を獲得出来そうな程の美形。
同一人物だと思わないまでも、何かしら関係が有るんじゃないか、と思い至る為の切っ掛けはこんなに沢山有ったのに、折角よぎった予感も振り払って、俺は・・・。
目を瞑っていた琢美が目蓋を上げて俺を見つめた。
顔を上げて、頬を離す代わりに、指を絡めてきた。