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vanilla essence 1―6

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そっと・・・コバに向かって伸ばしかけたまま固まった俺の手を、細くて華奢な指をした女の手が包みこむ。女がその手に額を寄せようとした時、ピタリと動きを止めた。
ここまで来ても俺は彼女を琢美だとイマイチ確信が持てず、名前を呼ぶのに躊躇して
「あの・・・?」
とだけ声をかけた。
彼女は、『ヒュゥッ』と鋭く短い吸い込む呼吸を一回すると、洋服の胸の辺りを握りしめ、崩れ落ち、短い呼吸を苦しそうに繰り返しだした。
でも一向に肺が膨らんでる様には見えない。
「過呼吸か!」
『フラッシュバック』という単語が俺の脳裏をかすめた。
兎に角、崩れ落ちた細い体を支えながら、背中をさすってやる。
女は俺に背中をさすられるに任せて縋りついて来た。
「ゆっくり息を吐いて、出来るだけで良い、焦らないで、吸う事じゃなくて息を吐く方に意識を集中させるんだ。お客さん、キレイにメイクしてますね、今朝何からメイク始めましたか?目?まつ毛かな?」
さすってやりながら、琢美から来た最後の手紙の内容を思い出す。
『私の心には大きな傷が出来てしまっていて、お父さんを連想させる物事や人を見たり経験したりすると酷いフラッシュバックが起きてしまうんだそうです』
だからもう、会えないのだと、そう書いてあった。
少し落ち着いてきた彼女を改めて見つめた。
俺の服を握りしめている左手薬指に、に世界に一つしか無いハズの指輪がはめられていた。
俺が技工の授業で作ったシルバーリング。
本物の・・・琢美?
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