スイート・スパイシースイート

old taste ２ー１

客足が遠のく平日午後三時、うとうととカウンターでうたた寝をする俺の肩をグイグイと揺さぶりながら俺を呼ぶ声がする。
「先輩。セーンパイ！」
『この声はコバだな…』と、夢から覚め切らない、ぼやけた脳みそで判断する。
コバこと小林啓太は中学、高校と俺の『腰巾着』をやっていた一個下の後輩だ。
近所の薬局の次男坊で、琢美の傷薬を調達する為に、よく通ってたのがキッカケで知り合った。
コイツが起こしに来るって事は…。
なんだ、今、高校かぁ…。
「うるせぇなぁ。コバ、チャイムも鳴ってねぇのに起こすんじゃねぇよ…」
「はぁ？」
とコバは変な声を上げてさらに強く揺さぶって来た。
「何、寝ぼけてんすか、お客さんですよ！起きて下さい！」
客？
高校時代の俺の客と言えばタイマン相手だ。
「うっせぇなぁ～、今、超幸せな夢の真っ最中だったんだよバトル気分じゃねぇ…」
とぶつぶつ言いながら目を開けるとそこは何時ものカレー屋とコバ。
それから、すまなそうに後ろで佇む竹川がいた。
竹川は俺の予想に反して、すっかり店の常連客になっていた。
「何が超幸せな夢ですか、又愛しの姫君の夢でもみてたんでしょ」
『顔がエロくさくニヤけてましたよ！。』なんて、コバは悪態を尽きながら、さっさと自分の定位置に座る。
「すみません、closeが出てなかったもので、僕、出直します」
と竹川が身体の向きを変えようとした。
あぁ、午後の休憩の為に店閉めるの忘れてた。
「良いよ、大丈夫、大丈夫。どうぞ座って？コバが居座るの決めちゃってるし」
俺はカウンター席の最近竹川がよく座る位置をトントンと指した。
竹川は一瞬躊躇った後
「じゃあ…」
と言って席に着いた。
「はい竹川さん、メニュー」
「あ、はい」