帝国再興記

バソプレシン

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第一章

第三幕-2

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「アマデウス、あれ出して」
カイムはアマデウスに持たせていた荷物を指差した。カイムが背負っておきたかった荷物だったが、アマデウスの僕が持つの一点張りに負けたのだった。荷物には麻の袋に入った長細いものがいくつか刺さっていた。
「カエル執事君、君名前有るなら教えてくれてもいいんじゃないか?」
「いやぁ、最近付いたばかりなんですよ。アマデウス・ルーデンドルフっていうんです。カイムに付けてもらったんですよ。」
アルブレヒトの一言にアマデウスは頭を掻きながら照れ臭そうに答えた。
「アマデウスルーデンドルフ?アマデウス=ルーデンドルフかい?貴族婚でもないのに二重名かい?」
アルブレヒトの言葉にアマデウスは固まった。自身がカイムに、姓と名の2つによる疑念や不安について文句を言っていたのに、自分でその状態を作りかけていた。
「南部だとそういう付け方を勝手にしている辺境が有るんです。自分を表す名と、一族を表す姓に分けるんですよ。言いたくないですけど田舎者なんですよ。自己紹介遅れましたね、私はカイム・リイトホーフェンと言います。以後ともよろしく」
カイムのフォローが入ると、アルブレヒトは口をへの字に曲げて頷き
「カイム・リイトホーフェンねぇ」
と呟くとアマデウスの荷物に目を向けた。アマデウスはカイムに目配せすると少し慌てながら荷物に手を付けた。
「あれって言っても…どれにするんだい?僕には決めかねるよ」
アマデウスは袋を掻き分けながら言ったが、カイムの何でも良いという視線に
「これで良いや」
と呟きながら一本取り出した。
「何だねカイム君とやら、それは?音からして中身は紙かい?薬の調合や効能とか書いてあるには大きすぎるね」
アルブレヒトは疑問を投げかけた。アマデウスは袋の口を開きながら中の紙の筒をカイムに渡した。紙を縛る紐を取ろうとしたがその手を止めた。
「アルブレヒトさん、先にいくつか聞いておいてもいいですか?」
彼の言葉に、彼女は目を閉じ俯きながら手を差し向けて話を促した。
「何かな?答えられる範囲では答えるよ。スリーサイズと年齢は絶対に教えないから。女性には知られたくない事がいっぱい有るからねぇ」
彼女は不敵な笑みを浮かべながら顔を上げた。
「あなたは、失礼かもしれないですが敢えて言いますけど小柄ですよね。壁の物とかこの建物とかはあなたが作ったんですか?」
このカイムの疑問に快活に笑いながら彼女は答えた。
「私はご存知錬金術師でね。頭は回るが力は女と言うこともあるが、騎士殿と違って弱くてね。設計とか理論は創るが、作ったのは別だよ」
その言葉を聞いて、カイムは質問を続けた。「その人はどれくらいの事をどれくらいの技術でできるんですか?」
「成る程、君の依頼は薬品ではないが理論と技術のいる…予測だが武器の類いかね?切れ味については研究したことがないが…彼は剣くらいならこの首都で彼の作品以上の品は無いよ。断言できる。少なくとも彼は今までの私の無理難題や要望に付き合ってくれた最高の友だ。この研究所だって動力含めて彼が…」
さながら犬のように尻尾を振りながら話していた彼女だが、そこまで言うと少し止まって苦笑いしながら頭に手を当てた。
「すまない、話しすぎたかな。彼にもよく言われるんだお前は話が長いってね」
猫背になっていた彼女は姿勢を正すと
「とにかく内容はまだ知らないが多分たいていの事、鍛治でも木工でも高度な技術で作れるよ」
その言葉を聞くとカイムは安心した表情を浮かべながら頷いた。
「この事は他言無用でお願いします」
カイムの言葉にアルブレヒトは少し考えたが
「内容による。ヤバい物なら君らを追い出し関わらない。面白そうなら話を聞く。私の信条は人生を楽しくなんだよ」
と返した。
「それなら、きっと楽しいですよ」
カイムは笑いながらテーブルの狭いスペースいっぱいに手に持つ紙を広げた。
「何しろ帝国最大の秘密兵器の概略図ですから」
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