帝国再興記

バソプレシン

文字の大きさ
上 下
15 / 17
第一章

第三幕-1

しおりを挟む
カイムは大いに驚愕した。彼は古風な街並みや古い遺産を遺した観光地等によくある、現代技術とのチグハグは旅行で感じたことがあった。だが、彼からしてみれば地下に水道管もなく電線もない、薪で火力を賄い蝋燭で明かりを灯すこの世界でインターホンに出会ったのだ。長い廊下を歩いていても、明かりはエジソン電球である。彼は、かなりの技術が有るにも関わらず、ヒトに敗北を続けている帝国という存在が解らなくなった。
「アマデウス。何なのこれ?この国ってこんなに技術力が有ったのか?」
質問したカイムだったが、アマデウスは口を半開きにし、ブリギッテさえ目を丸くして廊下を見回していた。それだけここは異常な場所なのだと彼は理解した。
「いつも玄関で薬を受け取ってるだけだから…中に入るのは初めてだよ…」
アマデウスが上の空で言った。
「この明かりはランプですか?でもランプよりすごい明るい…」
「白熱電球だよ…かなりの古いタイプだけど…」
カイムの返答に、ブリギッテは目だけでカイムの後ろ姿を見た。彼女の呟きにカイムはふと敬一に戻り答えてしまった。その一言にアマデウスはすかさず反応し渋い顔をしながら脇腹を小突いた。敬一からカイムに戻ると一瞬振り向きブリギッテを肩越しにみたが、彼女すでにそれとなく回りを珍しげに見回していた。この工房が電気を自家発電してる事に気付いた時、唐突に真真横から声が響いた。
「ほかの二人と比べて驚きが薄いな、君は」
その声質の高い独特な声に3人は真横を向くと、さっきまで壁だった所に変に暗い部屋が広がっていた。中はもちろんエジソン電球が使われていたが、部屋の大きさに対して1つのみである。この部屋が変に明るいというのは部屋の壁に面して並んでいる黒い箱の小さいが無数に付いているランプによるものだった。
「コンピューター…」
カイムは思わず呟いた。7から8メートルと横に長い部屋の壁を埋める物をカイムはかつて見た事があった。コンピューターから分離して設置された印刷機から、さん孔テープが乱雑に床へ延びている。コロッサスというコンピューターを思い出した時、
「どうもアルブレヒトさん、急にやって来てすみません」
とアマデウス声が聞こえた。アマデウスは視線をかなり下に向けて話しかけていた。
「この方が錬金術師さんですか…」
ブリギッテも同様に下を向いている。
「この距離でされると角度がついて嫌だけど…見下げてごらん」
その声に従って視線を下げると、部屋の敷居を挟んで反対に小さい女がカイムを見上げていた。茶髪の頭からネコ科の生物のような耳、ズボンの腰より少ししたに穴が有りそこから尻尾が伸びている。シャツにパンツルックだが、見た目は子供が背伸びして大人っぽい格好をしているように見える。
「ふむ。君は後ろの物より私の方が奇妙かね。面白い反応だ」
アルブレヒトと呼ばれた錬金術師はそう言うと、3人を部屋に招くように手招きした。
「まともに客を入れられる部屋はここぐらいしかないんだ」
彼女は部屋の中心にあるテーブルの上に積み上げられた本や大きな設計図らしき無数の紙を押しのけスペースを作った。
「お茶なんて良いものうちにはないけど、みんな水で良いかな?」
3人は無言でお互いを見合せ、ブリギッテが頷いた。
「アルブレヒトさん。実は…」
アマデウスが言いかけると、アルブレヒトはその口に左手人差し指を当てカイムを右手で指差した
「君は…城の姫様の勇者だろ。話には聞いてるよ。騎士1人を壁ごと吹き飛ばしたとか…そんな君が来たということは何か面白いことか、厄介事か…」
気取った身ぶりで両手を広げ椅子に座った。
「カエル執事君が急いているということは厄介事かな?水も要らないほどだとな」
テーブルの上で肘をつき手を組んでカイムを見つめた。
「勇者君、一体私に何を作れと?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

タジタジ騎士公爵様は妖精を溺愛する

雨香
恋愛
美醜の感覚のズレた異世界に落ちたリリがスパダリイケメン達に溺愛されていく。 ヒーロー大好きな主人公と、どう受け止めていいかわからないヒーローのもだもだ話です。  逆ハーレム風の過保護な溺愛を楽しんで頂ければ。 1日2回 7:00 19:00 に更新します。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

解体の勇者の成り上がり冒険譚

無謀突撃娘
ファンタジー
旧題:異世界から呼ばれた勇者はパーティから追放される とあるところに勇者6人のパーティがいました 剛剣の勇者 静寂の勇者 城砦の勇者 火炎の勇者 御門の勇者 解体の勇者 最後の解体の勇者は訳の分からない神様に呼ばれてこの世界へと来た者であり取り立てて特徴らしき特徴などありません。ただひたすら倒したモンスターを解体するだけしかしません。料理などをするのも彼だけです。 ある日パーティ全員からパーティへの永久追放を受けてしまい勇者の称号も失い一人ギルドに戻り最初からの出直しをします 本人はまったく気づいていませんでしたが他の勇者などちょっとばかり煽てられている頭馬鹿なだけの非常に残念な類なだけでした そして彼を追い出したことがいかに愚かであるのかを後になって気が付くことになります そしてユウキと呼ばれるこの人物はまったく自覚がありませんが様々な方面の超重要人物が自らが頭を下げてまでも、いくら大金を支払っても、いくらでも高待遇を約束してまでも傍におきたいと断言するほどの人物なのです。 そうして彼は自分の力で前を歩きだす。 祝!書籍化! 感無量です。今後とも応援よろしくお願いします。

処理中です...