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第17話 リンとルイ

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リン視点

 村ではゾンビの処理が終わると、そのままささやかな宴会をした。大量のゾンビからこの村を守ったからだ。しかも犠牲者を出さず。村の人の顔は明るかった。そしてリンの持って行った肉を使って村の広場で炊き出しが行われていた。リンとルイと仁の三人はそれを受け取り夕食を済ませた。仁は稽古での疲れからヘロヘロになり、夕飯を食べてしばらくすると眠った。辺りは既に暗くなっている。それを確認するとリンはルイを連れ出し、人気のない暗くなった村を歩いた。

「ルイよ、今回は世話になったな」
「どうしたの?急に改まってお礼なんて。別にいらないよ。ボクはボクの務めを果たしただけだ」
「ふむ。そうかもしれん。じゃがそなたはゾンビを倒して、儂らを助けてくれた。それに睡眠もとらずに頭だけになって死に切れていないゾンビたちを、燃やす前に一人ずつ還していったではないか。その神性力で」
「そうだけど、それこそボクの役目だっただけだよ」

 ルイは当たり前のように言った。

 この世界にはあちらの世界と違い、ゾンビがいる。ゾンビは死神の神性力がなければ正しく還すことはできない。生と死を失った人間。表と裏をなくしたコインがもう一度投げられるようにするには、どちらかの結果が必要なのだ。でなければ次へは進めない。だから例え頭だけにして動けなくしようと、彼らはまだそこいる。ルイは死神という神の名の下に、一人一人慈しみを与えた。もし彼がいなければ動かなくなるように燃やすしかなかっただろう。彼らは元は人間であるため、脳や神経がなければ行動不能になる。それがこの世界でのゾンビに対する対処法だった。そしてそのゾンビに対する恐怖が大陸中に広まっているため、死体は燃やすと決まっているようだ。

「でもまさか、君が神様だったとはね。驚きだよ。どうして君が来たタイミングでゾンビが襲ってきたんだろうね。もしかしてリンって悪神なんじゃないの?」
「違うわ!森に向かうときにも言ったじゃろう。儂のせいではないと!それにその悪神かどうかなどで儂を区別しようとするな。その基準は人間が決めたものじゃ。それにそなたこそタイミングが良すぎるのではないか?」
「そんなこと言われるなんて心外だよ。ボクはギルドの依頼を見てやって来たんだよ?そのボクを疑うなんてひどい。頑張って走ってきたのにさ」

 ルイはぷんぷんと怒りながら言った。ここから町までは歩けば一日の距離である。それを走ってきたというのはさすが使徒である。

「ならなぜさっさと帰らんのじゃ。仁に稽古をつけたり、神性石を与えようとしておる。儂らに協力的すぎるのじゃ。なんぞ企んでおるんではないか?」
「別に他意はないよ。言ったでしょ。ボクは珍しいものが好きなんだ。それに君たちの傍にいれば退屈せずに済みそうな気がするんだ」

 ルイはワクワクして言った。こいつは儂らを何じゃと思っておるんじゃ。ついつい眉をひそめてしまう。

「迷惑な話じゃ。まったく…」
「だからさ、ボクと一緒に町に行こうよ。森に行って異常はないことが確認できたでしょ。それに君たちの武器ははっきり言ってしょぼい。いつかボクみたいなやつと戦うことがあったときはすぐ使えなくなるよ」

 確かにその通りである。今の量産品のような槍では、耐久力が足りない。儂の神性力を流そうとすれば、何度か打ち合った程度で壊れてしまう。この村に鍛冶屋はいない。考えれば考えれるほど町に行くしかないと思える。

「それに君は冒険者の証であるプレートを持ってるけど、仁は違うでしょ。今の時期に身分証のない人は町に入る手続きとかめんどくさくなるかもよ」
「確かに…」

 今この地方は全体で行方不明事件が起きておる。儂もあの町で身分証のないものがどうやって町に入るのか知らない。金を払えばいいのか。それとも調書などを受けないといかないのか。まさかとは思うが非常事態という名目を使って、入れてくれないということもありうる。

「その点、ボクがいれば大丈夫だよ。死神様の使徒は社会的な信用がある。ボクの一声でなんとかなると思うよ」
「そうじゃな」

 ここまで来るともはや町に行くしかない。町に行って冒険者ギルドで仁の身分証を作ってもらう。そして神性石で仁の神性力をバレないようにする。武器の調達もしなければ、今後も危うい。

「そなたの言う通りにしよう」
「やったね!ボクもギルドに報告に行かないと怒られるから、君たちといるにはどうすればいいのか悩んでたんだよ」

 ルイは思った通りに事が運び嬉しそうにした。

「じゃあ、君たちの準備が出来次第出発しよっか!」
「なら明後日が良い。儂は明日遊ぶ約束をしておる」
「遊ぶ?誰と?」
「レナという娘じゃ。この村に来てからずっと一緒に遊びたいと言われておってな。昨日までは非常事態じゃったから我慢してもらっておった。だがそれも終わり、断る理由がなくなってしまったのじゃ」
「へぇ、懐かれてるんだね。まぁいいんじゃない?周りから見たら、近所の子ども同士が遊んでいるようにしか見えないんだし」

 ルイはクスクスと笑って言った。完全にバカにしていた。少しむかっとする。

「ほう、ならばそなたも混ざってみるか?そなたも見た目だけは子どもじゃ。一緒にいればさぞお友達同士に見えるじゃろうよ」

 ふふっと笑いながら言い返す。彼の眉がぴくっとした。

「言ってくれるね。ボクと遊ぶときはこの鎌もセットだけどいいのかな?」

 ルイが自分の体よりも大きい鎌を見せる。

「ふん。本気でやるとなればそなたのほうが強いやもしれぬが、お遊び程度であれば儂の持っている槍でも十分じゃ。いつでも相手になってやるぞ」

 負けじと言い返す。一端こいつの鼻っ柱を折ってやるのもいいかもしれぬと思い、リンは挑発に乗った。
 そして結局この後、朝まで二人を見た村人はいなかった。
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