異世界の神性と本懐と僕と女の子と

inoino

文字の大きさ
上 下
8 / 40

第8話 帰ろうか~もう帰ろうよ~♪

しおりを挟む
 森を抜け、少し歩きようやく村が見えてきた。村の周りには簡易的な木の柵と堀が作られており、畑と木造の家が見えた。そして村の入り口に村人の男性が2名、槍を持って立っていた。第一村人発見である。僕らが近づくと彼らも僕らに気付いた。僕は友好的な笑みを浮かべて近づこうとした。だがそれとは対照的に彼らは僕らに槍の穂先を向け、厳しい顔つきで怒鳴った。

「止まれ!何者だ?」
「!」

 驚いた。なぜかは知らないが彼らはピリピリしているようだ。何があったのだろうか?彼らの問いに懐から鉄のようなプレートを出してリンが答えた。

「儂はリン。冒険者じゃ。この村の村長とレオナの知り合いじゃ。町に行くまでの食料などを交換してほしい」
「なに…」

 村人の男二人はプレートを見た後に顔を見合わせると、一人の男が村のほうへ走っていった。
「今確認に向かわせた。少し待て」
「それはいいが何があった?儂が以前来たときは何事もなく村に入れてくれたではないか」
「村長の指示だ。あんたらが村長と知り合いなら村長が教えてくれるだろう」

 やはり何かあるようだ。たださすがに僕らも村に入れてもらわない困る。ここは穏便に待つしかないどうだろう。
 しばらくすると杖をついた白髪の老人と20代後半のくすんだ茶髪をした女性が現れた。

「ロボス入れてやりなさい。その方々は客人だ」
「わかりました。村長」

 村長っぽい老人が見張りの男の名を呼ぶと、すぐに入れてくれた。どうやらリンと村長が知り合いというのは本当のことのようだ。

「お久しぶりですな。リン様」
「リン様お久しぶりです!」
「ふむ。元気そうだな。安心したぞ。そなたら」

 リンが知り合いどうしで挨拶を交わす。敬称で呼ばれているので、どうやら敬われているらしい。

「それでそちらのお方は?」
「こやつは仁。儂の連れじゃ。村長、この村にある食料や水や服を交換して欲しくて来た。だが何かあったようじゃな」
「今はまだ何も起こっておりません。ただこれから何か起こるかもしれんので、皆緊張しておるようです。詳しいことは私の家でお話しましょう」

 村長の家の中に入れてもらい、僕、リン、村長の三人で席に着いた。レオナと呼ばれていた女性は飲み物を入れてくれ、僕は一息ついた。そしてリンが話を切り出した。

「さて村長、話を聞こう」
「はい。一週間程前のことです。森に入った若者が森の異常に気づき、私たちに相談をしてきました」
「森の異常?それはなんじゃ?」

 森の異常とはなんだろうか。そもそも森にさえ入ったことがないので全く気づかなかったが、特に何もなかったような気がする。僕とリンが歩きながら喋っていただけである。

「森が静かすぎたのです。あの森は恵が豊かな場所です。しかしここ最近は森の浅いところでは小動物などの生き物が見えなくなっているのです」
「ふむ。確かに。儂らは森の中を歩いてきたがそこにいたのは儂と仁だけじゃ。他の生物は何も見ていない」

 なるほど。確かに豊かで広い森であれば野生動物の一匹や二匹見てもおかしくはない。つまり何もなさすぎたのである。

「そうですか。我々も嫌な予感がしたので、冒険者に調査をしてもらおうと決めました。そこで村の人間を1人最寄りの町であるルバーナの町へ行かせました。しかしそこにある冒険者ギルドは依頼の申請は受理してくれたのですが、職員からは今しばらく冒険者の派遣は難しくなると言われたのです」
「何?それはおかしい。ルバーナは森のモンスターどもを狩るために作られた場所。冒険者の町とも言われるくらいには彼らの生業で成り立っている町じゃ。質はともかく数だけはいたはずじゃ」

 確かにおかしい。数だけはいたのなら、いったい彼らはどこで何をしているのだろうか。

「村に行かせた者も疑問に思ったようで、それを職員に尋ねてみたそうです。そうするとどうやらこの地方一帯の小さい村々で行方不明事件が起きているそうです。村によっては建物や畑はそのままなのに村人全員が消えているところもあるようです。その調査のために町の冒険者が総動員されており、忙しいようです」
「…ふむ。なにやらきな臭くなっておるな」

 きな臭いどころではない。恐ろしいことが起きている。地方一帯という被害の大きさもそうだが、建物や畑がそのままで、人間だけが消えていることがまさに恐怖そのものである。神隠しにでもあったのだろうか。

「せっかくじゃ。冒険者どもが戻ってくるまでは、儂らもこの村に協力しよう。そのかわり寝床の提供と物々交換に応じてくれ」
「おぉ。それはありがたいことです。こちらのほうこそよろしくお願いいたします」

 村長はそう言って頭を下げた。

「さて仁。儂は必要なものを集めてくる。そなたはここでおとなしくしとれ」
「レオナ。案内してやりなさい」
「はい」

 リンは立ち上がって村長に何かを渡した後、レオナさんと一緒に出て行った。僕はあまり話についていけなかったので何も喋らなかった。そのせいで気づいたら話がまとまっていた。どうやら何かに巻き込まれそうである。僕は内心で溜息をつき、こう思った。帰りたいなぁ…と。


ーーーーーーーーー


https://www.youtube.com/watch?v=XbCsY4-HV8M
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【本編完結】異世界再建に召喚されたはずなのにいつのまにか溺愛ルートに入りそうです⁉︎

sutera
恋愛
仕事に疲れたボロボロアラサーOLの悠里。 遠くへ行きたい…ふと、現実逃避を口にしてみたら 自分の世界を建て直す人間を探していたという女神に スカウトされて異世界召喚に応じる。 その結果、なぜか10歳の少女姿にされた上に 第二王子や護衛騎士、魔導士団長など周囲の人達に かまい倒されながら癒し子任務をする話。 時々ほんのり色っぽい要素が入るのを目指してます。 初投稿、ゆるふわファンタジー設定で気のむくまま更新。 2023年8月、本編完結しました!以降はゆるゆると番外編を更新していきますのでよろしくお願いします。

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。  そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!  気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?  するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。  だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──  でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

素材採取家の異世界旅行記

木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。 可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。 個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。 このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。 この度アルファポリスより書籍化致しました。 書籍化部分はレンタルしております。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

世界中にダンジョンが出来た。何故か俺の部屋にも出来た。

阿吽
ファンタジー
 クリスマスの夜……それは突然出現した。世界中あらゆる観光地に『扉』が現れる。それは荘厳で魅惑的で威圧的で……様々な恩恵を齎したそれは、かのファンタジー要素に欠かせない【ダンジョン】であった! ※カクヨムにて先行投稿中

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

処理中です...