異世界街道爆走中〜転生したのでやりたい仕事を探します。

yuimao

文字の大きさ
上 下
73 / 84
第三章 悩める剣士との出会い

第62話 教会の剣術道場

しおりを挟む
「アドレーヌ様ご報告がございます」
「あら?ザックスじゃない」
「このケーキ美味しい。でも太りそう・・・でも成長するためには仕方ない・・・そう理想のボディになるための糧となるのだから・・・」

 王族の巨大な屋敷の中にある庭園の東屋でユキナとお茶を楽しんでいるアドレーヌの元に副団長のザックスが険しい顔で近づいてきた。

 日がサンサンと降り注ぎ、花の香りが漂うのどかな庭園の雰囲気に相応しくないザックスの様子にアドレーヌは少し眉をひそめた。

 ユキナは目の前のケーキに夢中で己の体型の変化ばかり気にしており、話には全くの無関心だ。

「アリシア様がようやく見つかりました」
「そう・・・ありがとうザックス。ずいぶんと時間がかかったようだけど?」
「はいそれは申し訳ございません・・・街中の剣術道場を捜索したのですが、全く見つからず諦めかけてたのですが、発見されたのは剣術道場と呼ぶにはいささか語弊があるような場所だったのです」
「アリシアは身を隠していたようだし仕方ないわね・・・それはどこなの?」
「はい。それは・・・」

 ・・・・・・・・・

「えーと・・・この教会で間違いないかな?」
「ずいぶんボロいわね。廃墟かしら?」

 俺はシップブリッジの街の外れにある教会の前に来ている。
 青い屋根はあちこちひび割れており、ツタが勢いよく伸びた壁には年季を感じさせる黒いシミが付いている。

 教会というより闇落ちした神父が悪魔崇拝を始めて寂れていったイメージがピッタリだ。

 エイッ!エイッ!ヤー!

 俺がそんな失礼なイメージを抱いていると、元気なこどもの声が聞こえてきた。
 どうやら人は住んでいるようで安心する。

 ここに来たのはエルザさんの手紙が原因。

「ノーミーが加わったとはいえ、ワタルさんは弱すぎます。今後お仕事をするにあたって剣術を習う事をおすすめします。護身術くらい身に着けてもらわないと心配で見てられませんと、一日商業ギルドマスターが嘆いておりました」

 ロードさんは俺の身を案じてくれているようだが、ファンとしてはいささか過剰のような気もする。
 商業ギルドの応接室でのことはあまり覚えていないが、ロードさんには悪いイメージはない。むしろすごく懐かしく、安心できる人だと思う。
 膝枕の事を思い出し少し恥ずかしくなった。

「しかし、ワタルさんがお金がないことも、これ以上アドレーヌ様に頼りたくないことも理解しております。そこで無料で剣術を教えてくれる場所を紹介しますので、是非訪れてみてはどうでしょうか?」

 そして俺とウェンディは手紙に書かれているこの教会に来たと言うわけだ。

「ごめんくださーい!どなたかいらっしゃいますかー?」

 ギギギっと立て付けの悪い扉を開けて、中に声をかけた。
 声が反響した空間は、教会特有の礼拝堂で塗装が剥げた椅子の先に目を閉じてこちらを見下ろす像がある。

「これは木の精霊の教会のようね。この像はドリュアス様よ」
「みたいだな・・・本物を知っていると変な気分だ」

 本人とは若干違うが、目の前の像はドリュアス様の特徴でもある長い髪に花が咲き乱れている。木の幼霊もフヨフヨ浮いているので間違いないだろう。

「はーい。ご礼拝の方ですか?」
「いえここで剣術を教えてくれると聞いたものでお願いしたいなと」
「ふぁーあなたすごいですね~幼霊がたくさん付いてますね~」

 奥から現れたのは、16~17歳くらいの女性だった。
 白い修道服を身にまとい、胸には木の精霊の教会のシンボルのネックレスをしている。
 それにしても小柄ながらもデカい。何とは言わないがデカい。
 ほんわかしている雰囲気ながらも凶暴な物をお持ちのようだ。

「そ、そうですかね・・・それであの剣術を・・・うお!」
「是非木の精霊様の教会に入信しませんか?そんなに幼霊様が付いているなら大歓迎です。ドリュアス様もお喜びになるでしょう!」
「近い近いです」

 手を胸の前に組み、グイグイ近寄ってきた女性はいきなり勧誘を仕掛けてきた。
 この人は自分の武器をわかっているぞ。

「す、すみません。私は全ての精霊様を信仰しているので・・・それよりも剣術を教えてください」

 ボソッ

「おかしいな~大概の男性はこれでいけるのに・・・あっ目薬で涙目にするの忘れてた・・・」

「ワタル!この人族危険よ!あのデカパイに騙されないで!」
「べ、別に騙されてませんけど!変な誤解するの止めて欲しいんですけど!」
「敬語になってる・・・」

「ん?どなたと喋っているのですか?」
「喋ってませんけど!」
「そうですか・・・残念ですが今日は諦めましょう・・・気が変わったら教えてください。司祭様を呼んできますね」

 いそいそと女性は奥に消えていった。

「なんとなくワタルの趣味が分かったわ」
「ドリュアス様!!」
「いつもいきなり現れるからびっくりするんですけど!」
「ワタル喋り方戻ってない!」

 女性がいなくなって声のした方向を見ると優雅に椅子に座っているドリュアス様がいた。
相変わらずのミステリアスクールビューティな雰囲気だ。

「今日もお願いがあってきたの」
「いや少しお願いのペースが早すぎませんか?」
「そうかしら?駄目ならいいんだけど、私はうっかり膝枕とかデカパイとか喋ってしまうかもしれないわ」
「何でもします!日頃からドリュアス様にはお世話になっているので!不肖七星ワタル!誠心誠意頑張らせていただく所存です」
「あら?そうなの?そんなにやる気になるなんて嬉しいわ」

「ドリュアス様怖い・・・」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

面白い、続きが気になるという方はいいねや感想を頂ければ嬉しいです♪
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します

湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。  そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。  しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。  そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。  この死亡は神様の手違いによるものだった!?  神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。  せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!! ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *無断転載、無断翻訳を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

処理中です...