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第三章 悩める剣士との出会い
第51話 丘の上の王族屋敷
しおりを挟む「こちらへ来なさい」
片手でちょいちょいっと手招きする。
キュッリッキはちょっと首をかしげると、ドレスの裾を小さく持ち上げて、壇の階段をのぼった。
ベルトルドとアルカネットが訝しんでいると、皇王は目の前に立つキュッリッキに、いきなり抱きついた。
「あああああっ!! 何をしてるんだジジイ!!」
「何ということをっ!! 手をお離しなさい皇王様!!」
喚く2人に、皇王は小さく「べーっ」と舌を出して、ふふんっと嫌味な笑いを向けた。
「あんまりにも可愛いから、つい抱きしめてしもうたわい。随分と華奢じゃのう、ワシの連れ合いの若い頃を思い出す」
「そ、そうなんですか……」
どう対応していいか困って、キュッリッキは苦笑を浮かべた。いきなり抱きつかれることにはベルトルドとアルカネットで慣れているが、皇王が抱きついてきたのは驚きだった。
「どれどれ、せっかくの舞踏会じゃ、一緒に踊ろうかの」
「えっ」
皇王は玉座を立つと、驚いているキュッリッキの手を取って壇を降りた。
「まだまだ若いモンには負けぬぞ。ワシの華麗なるステップを、とくと見るがよい」
皇王は素早くキュッリッキの手を取り腰に手を回すと、ホールの中心に颯爽と踊りながら移動していた。それは、あまりにも突然だったので、ベルトルドとアルカネットは意表をつかれてすっかり出遅れてしまった。
「こんのぉ……クソジジイっ!」
ベルトルドは握り拳をワナワナ震わせ皇王を睨みつける。
「リッキーさんのデビューの相手が、よりによって皇王様とか」
心底悔しそうにアルカネットが歯ぎしりした。
社交界デビューを果たした娘は、ワルツを一曲招待客たちに披露する。その時の踊る相手を、ベルトルドもアルカネットも虎視眈々と狙っていた。なぜなら、最初に一曲を踊った男女は結ばれるという伝説が、実しやかにあるからだ。
もちろんそんなものは信じていないが、それを餌にキュッリッキに信じ込ませようという下心があったりする。ところが、あっさりと皇王にその大事な役を取られてしまい、玉座の壇上前で憤慨する羽目になってしまっていた。
皇王が踊り出てきたので、踊っていた招待客たちは、花びらが舞うように場をあけていく。
ホールの中心に落ち着いた皇王は、まだたどたどしいキュッリッキを優しく、そして優雅にリードしていた。
「ごめんなさい、まだちゃんと踊れなくって」
「よいよい。初々しくて可愛らしいしの。こんなもんは、ワシに任せて音楽に乗れば良い」
「はいっ」
一応セヴェリを相手にベルトルド邸で1時間ほど練習はしたのだが、いざ本番となると頭が真っ白だ。周りの招待客たちの好奇の視線も気にならないほどに。
「のう、キュッリッキよ、誰ぞ好きな者はおるか?」
「え?」
皇王の足を踏まないように必死になっていたキュッリッキは、唐突な質問にきょとんとした顔を上げた。そして、質問の意味を理解して、ボッと顔を真っ赤にする。
そんなキュッリッキを見て、皇王はにこにこと笑った。
「どんな男かの? まさかベルトルドやアルカネットじゃあるまいな?」
「え、えと、えと、あの…………メルヴィン」
と言って、耳まで真っ赤になる。どんな男なのかと聞かれていたのに、うっかり名前を言ってしまって更に焦る。
皇王はしばし目線を天井に向け、
「ああ、あの実直そうな剣術使いか」
ふむふむと頷く。
「し、知ってるんですか!?」
「ほほ、あやつはこの国でも五指に入るほどの剣士じゃからの。昔御前試合で何度かその勇姿を目にしたことがあるんじゃ」
「うわぁ……そうなんだ~」
皇王に覚えられるほど、凄い剣士であるメルヴィン。自分が褒められたわけではないのに、何故か嬉しくてしょうがない。キュッリッキは顔を赤らめたまま、嬉しそうに微笑んだ。
「して、もう、ちゅーはしたのかの?」
「ちゅー?」
「ちゅー。キスじゃ」
瞬間、キュッリッキは後ろにひっくり返りそうになり、皇王は慌てて腰に当てている手に力を込めた。
片手でちょいちょいっと手招きする。
キュッリッキはちょっと首をかしげると、ドレスの裾を小さく持ち上げて、壇の階段をのぼった。
ベルトルドとアルカネットが訝しんでいると、皇王は目の前に立つキュッリッキに、いきなり抱きついた。
「あああああっ!! 何をしてるんだジジイ!!」
「何ということをっ!! 手をお離しなさい皇王様!!」
喚く2人に、皇王は小さく「べーっ」と舌を出して、ふふんっと嫌味な笑いを向けた。
「あんまりにも可愛いから、つい抱きしめてしもうたわい。随分と華奢じゃのう、ワシの連れ合いの若い頃を思い出す」
「そ、そうなんですか……」
どう対応していいか困って、キュッリッキは苦笑を浮かべた。いきなり抱きつかれることにはベルトルドとアルカネットで慣れているが、皇王が抱きついてきたのは驚きだった。
「どれどれ、せっかくの舞踏会じゃ、一緒に踊ろうかの」
「えっ」
皇王は玉座を立つと、驚いているキュッリッキの手を取って壇を降りた。
「まだまだ若いモンには負けぬぞ。ワシの華麗なるステップを、とくと見るがよい」
皇王は素早くキュッリッキの手を取り腰に手を回すと、ホールの中心に颯爽と踊りながら移動していた。それは、あまりにも突然だったので、ベルトルドとアルカネットは意表をつかれてすっかり出遅れてしまった。
「こんのぉ……クソジジイっ!」
ベルトルドは握り拳をワナワナ震わせ皇王を睨みつける。
「リッキーさんのデビューの相手が、よりによって皇王様とか」
心底悔しそうにアルカネットが歯ぎしりした。
社交界デビューを果たした娘は、ワルツを一曲招待客たちに披露する。その時の踊る相手を、ベルトルドもアルカネットも虎視眈々と狙っていた。なぜなら、最初に一曲を踊った男女は結ばれるという伝説が、実しやかにあるからだ。
もちろんそんなものは信じていないが、それを餌にキュッリッキに信じ込ませようという下心があったりする。ところが、あっさりと皇王にその大事な役を取られてしまい、玉座の壇上前で憤慨する羽目になってしまっていた。
皇王が踊り出てきたので、踊っていた招待客たちは、花びらが舞うように場をあけていく。
ホールの中心に落ち着いた皇王は、まだたどたどしいキュッリッキを優しく、そして優雅にリードしていた。
「ごめんなさい、まだちゃんと踊れなくって」
「よいよい。初々しくて可愛らしいしの。こんなもんは、ワシに任せて音楽に乗れば良い」
「はいっ」
一応セヴェリを相手にベルトルド邸で1時間ほど練習はしたのだが、いざ本番となると頭が真っ白だ。周りの招待客たちの好奇の視線も気にならないほどに。
「のう、キュッリッキよ、誰ぞ好きな者はおるか?」
「え?」
皇王の足を踏まないように必死になっていたキュッリッキは、唐突な質問にきょとんとした顔を上げた。そして、質問の意味を理解して、ボッと顔を真っ赤にする。
そんなキュッリッキを見て、皇王はにこにこと笑った。
「どんな男かの? まさかベルトルドやアルカネットじゃあるまいな?」
「え、えと、えと、あの…………メルヴィン」
と言って、耳まで真っ赤になる。どんな男なのかと聞かれていたのに、うっかり名前を言ってしまって更に焦る。
皇王はしばし目線を天井に向け、
「ああ、あの実直そうな剣術使いか」
ふむふむと頷く。
「し、知ってるんですか!?」
「ほほ、あやつはこの国でも五指に入るほどの剣士じゃからの。昔御前試合で何度かその勇姿を目にしたことがあるんじゃ」
「うわぁ……そうなんだ~」
皇王に覚えられるほど、凄い剣士であるメルヴィン。自分が褒められたわけではないのに、何故か嬉しくてしょうがない。キュッリッキは顔を赤らめたまま、嬉しそうに微笑んだ。
「して、もう、ちゅーはしたのかの?」
「ちゅー?」
「ちゅー。キスじゃ」
瞬間、キュッリッキは後ろにひっくり返りそうになり、皇王は慌てて腰に当てている手に力を込めた。
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