異世界街道爆走中〜転生したのでやりたい仕事を探します。

yuimao

文字の大きさ
上 下
50 / 84
第三章 悩める剣士との出会い

閑話 英雄ザリオンと妖精ノーミー

しおりを挟む
 あれからどのくらい時間が過ぎたのだろう。
 私の時間を止めているザリオンはもうこの世にいない。
 胸にポッカリ穴が開いた感覚を抱えたまま過ごす日々にも大分慣れてしまっていた。

 今日も大木の上で過ごしながら、たまに来る人族を観察していると、フード姿の人物を見つけた。

「また、来ているのね。懲りない子ね・・・」

 ここはザリオンと初めて会って契約を結んだ場所。人族の間では「始まりの森」なんて呼ばれている。
 ザリオンがミルフィーユ王国の国王になってから残した伝記が広まってからワラワラと人族が来るようになった。

「ザリオンはホント余計なことしてくれたわね」

 静かなこの場所が気に入っているのに人族のせいでうるさくて敵わない。

 ミルフィーユ王国にはザリオンのお墓もあるけど、私はあの場所が嫌いだ。なんか終わりって感じがするし、人族が多いし・・・

 だから、ザリオンと出会ったこの場所にずっといる。ここは、何かが始まりそうなワクワク感を私に与えてくれる。

「あの時は楽しかったな・・・またワクワクドキドキしたいな・・・」

 何度目か分からない昔を思い出す。

 精魔大戦の時に、勇者ガンテツ様や五大精霊様と共に戦った日々。人族と妖精の存亡をかけた戦いだったが、楽しかった。

 私がザリオンの肩に乗り、魔法を使いながら敵を倒していく。決戦の時は、私もザリオンも死にそうになったけど、なんとか勝った。

 精魔大戦が終結した時、笑い合った後、喧嘩したっけ・・・だってドリュアス様を見たザリオンが鼻の下を伸ばして、私とは全然違うとか言うんだもの・・・ウフフ

「もうあの人はいない・・・つまんないな・・・」

 ザリオンが精魔大戦の英雄となり、ミルフィーユ王国の姫と結婚してからも私達の関係は変わらなかった。

 人族と妖精は寿命が違いすぎる。そんな事は分かっていたけど、分からないふりをしていたと思う。

「なぁノーミー・・・俺が死んだら忘れてくれ。」
「フン!あなたの事なんかなんとも思ってないから、すぐに忘れてやるわよ」
「いや、少しは覚えていてくれると嬉しいな」

 王様が寝るような大きなベッドに横たわるザリオンは小さくつぶやく。
 大きく勇ましい剣聖の姿はもうないが、強い意志が伝わる燃えるような瞳はそのまんままだ。

「・・・・・・ザリオンは私といて楽しかった?後悔してない?」

 もうこれが最後のおしゃべりだ。そう思った私はずっと気になっていた事を聞くことにした。

「最高の人生だったな。後悔があるとすればもっとノーミーと旅をしたかったな」
「そう・・・私は苦労の連続だったからせいせいするわ」

 ああ、なんで私は素直になれないんだろう・・・

「ハハハ・・・最後までお前らしくていいな・・・ノーミー・・・これでお前との契約はおしまいだ・・・だ・・・から・・・これから・・・はお前の・・・」
「ザリオン?ねぇザリオン?どうしたの・・・なんて言ったのよ?」

「陛下ーー!!」

 ザリオンが今際の時になんて言おうとしたのか分からない。
 私はこれからどうして良いか分からない・・・
 だから、私はこの場所にいる。終わりなんて嫌だから・・・ずっとワクワクしていたいから・・・

 ・・・・・・・・・

 国の英雄にして剣聖と呼ばれたザリオン・ラインハートの葬儀は国中を挙げて盛大に行われた。

 ゴテゴテした服を着た神官がザリオンの棺に向かって祈りを捧げているのを私はボーっと見ている。

 あの棺から飛び出して、「また冒険に行こうぜノーミー」なんて言ってくれないかな?
 そんな現実離れした事を思いながら、初めて出会った森へ帰っていった。

 ・・・・・・・・・

「あの人族が気になるの?」

 大木の枝でボーっとしている私に声をかけるのは風の妖精ウェンディかドリュアス様くらいだ。
 この落ち着いている感じはドリュアス様だ。

「あの人族は最近よく来るから・・・それにあの人に・・・なんでもないです・・・」
「そう・・・」

 ドリュアス様は余計な事は言わないから、好きだ。
 でも多分私の心の中をお見通しだと思う。

「何度来ても同じなのに」

 フードを被り直し、肩を下げて去っていく人族を見つめながら、少し冷めた声を出した。

「ねぇノーミー・・・面白い人族に会ってみない?」
「ドリュアス様・・・私はまだ誰とも・・・」
「その人族はウェンディと一緒に旅をしているのよ。それに白竜族の姫もいるわ」
「なんですかそれ?どんな関係なんですか?」
「あら?少し興味が湧いたようね」
「別に・・・なんでウェンディが一緒にいるのか気になっただけです・・・」

 そう言った私にドリュアス様が微笑みながら頭を撫でる。子供扱いしないでほしい。

「私の祝福をあげたからすぐわかるわ。そのうちこの辺を通るから会ってみなさい」
「だから私は・・・」

 すでにドリュアス様はもういなくなっていた。

 ・・・・・・・・・

「あの人族だ・・・アハハ・・・何あれどうなってるのよ」

 大木の上から下を見ていると、ゴトゴトと馬車をひきながら男の人族がやってきた。

 なんで馬の中に妖精が入っているの?
 なんであんなに幼霊がくっ付いているの?
 それに・・・なんて優しい魔力を持っているの?

「フフフ・・・ワクワクしてきた」

 それはザリオンに出会った時に感じた何かが始まる予感。

「よし!ザリオンに初めて会った方法でやってみようか!」

 私は草に化けて、その人族が来るのを待つことにした。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

面白い、続きが気になるという方はいいねや感想を頂ければ嬉しいです♪


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

処理中です...