異世界街道爆走中〜転生したのでやりたい仕事を探します。

yuimao

文字の大きさ
上 下
27 / 84
第二章 小さな白竜との出会い

第24話 暴走モード

しおりを挟む
 視界が一面真っ青に染まり、何も見えなくなる。

「ウィンドキャノン!」

 そう叫んだ俺の手から巨大な塊が敵に向かって飛んでいった。
 10頭前後のデビルウルフに当たったのかどうかわからないが、青い塊が周囲の木々をなぎ倒しながら進んでいることは確認できた。

 ・・・・・・・・・

 一旦場所を止め、巻き上がった土埃がようやく収まってきたので状況を確認すると、街道に大きな物が進んだ跡がついている。

「ハァハァ。・・・どうなった?」
「ワタル・・・あなた何やったか分かってるの?」
「何って風の魔法を飛ばしただけだぞ」

 イメージしたのは手から空気の塊を飛ばすという単純なもの。切羽詰まっていたから、思った事を周りの幼霊にお願いしただけだ。

「ハァ?だけって言った?馬鹿なの?」
「なんだよ。俺は魔法を使ったんだろ?」
「あなたがやったことはね・・・この周辺の風の幼霊を集めるだけ集めて、飛ばしたのよ。幼霊自体をね」
「まじか!!あの青い塊は幼霊さんだったの・・・」

 俺は風魔法を使ったたんじゃ無いのか?

「つまり、幼霊の塊をデビルウルフに向けて飛ばしただけよ。こんなの魔法でも何でもないわ!」
「・・・そ、そうなんだ」
 ほんとに風の塊でなく、幼霊の塊を放ったようだ。

「呆れた・・・幼霊を飛ばすなんて聞いたことがないわ」
「で、でもデビルウルフを倒したんだから良いじゃないか」
「おバカ!後で風の幼霊に謝っておきなさいよ!」
「・・・はい」
 後で幼霊に魔力を分けてあげよう。

 ともかくデビルウルフがいた場所には抉れた地面以外何も無い。どこに飛んでいったか分からないけど討伐成功だ!

 ・・・・・・・・・

「とりあえずここを離れるわよ」
「そうだな。急ごう」
 再び精霊馬を動かすイメージを伝えようとした時。

 ジャ!ジャ!ジャ!
 ジャ!ジャ!ジャ!

 獣が地面を走ってくる音が聞こえてきた。
 初めに遭遇したやつであろう。

「クソッ!しつこいぞデビルウルフ」
「なんか数も増えてる!」
 初めのデビルウルフは五頭だった。それが10頭前後に増えている。

「逃げながら戦うしかないわね」
「分かった。前方のヤツは吹っ飛ばしたから駆け抜けよう。頼むぞ精霊馬!」

 ブルル!
 ガガガガガ!

 俺の意思が伝わったのか、精霊馬が一鳴きすると勢い良く走り出した。荷台の車輪の音も激しさを増す。
 グングン速度を上げる精霊馬車。周りの木々の景色が勢いよく後方に流れ始めた。

「くっ追いつかれる!」
 しかし、後方のデビルウルフとの距離がグングン詰められてしまう。

「ウィンドカッター!くっ!」
 ウェンディが牽制の風魔法を放つが、素早い動きで避けられてしまったようだ。

「クソッ!」
 俺の視界に黒い影がチラつく。そいつは俺達を噛みつこうと走ったまま飛んできた。

「ウェンディ避けろ!」
 ガシッ!
「えっ!キャア!」
 俺の肩口めがけて飛んできたデビルウルフ。
 ウェンディに当たると思い、とっさに鷲掴みにしてしまった。

 ザシュ!

「痛っ!」
 デビルウルフがウェンディに当たらなくて良かったが、俺の肩口付近を牙が掠った。
 きっと血が出ているだろうが、確認なんてしていられない。

「ウェンディ大丈夫か?」
「な、なんで私なんか庇うのよ!ワタルが怪我してるじゃない!」
「いや、ウェンディが喰われると思ったから・・・それより掴んで悪かった」
「そ、それはありがとう。掴んだことは気にしてないわ」
「お、おう」
 とっさのことで女の子を鷲掴みにしてしまったのだ。もっと怒るかと思ったけど、殊勝な態度に調子が狂う。

「あなたこそ大丈夫なの?怪我してるわよ」
「肩口をやられたようだな。でもウェンディを守れたから良かったよ」
「・・・そう。あなた本当に変な人族ね」
「変な人族はひどなくない?」

 精霊馬は良く走ってくれているが、このまま追いつかれてしまうだろう。
 いくらデビルウルフの一撃をやり過ごせたからといって、コイツ等は次の攻撃を仕掛けてくるぞ。
 どうする?何か策はないのか?

「・・・あっ!・・・いやでもしかし」
「どうしたのよブツブツ言って」
「なぁこのヤバい状況を切り抜ける方法が一つあるが聞くか?」
「何よ?また、ワタルが風の幼霊を飛ばすのは・・・あっ!」
 ウェンディは俺の考えを分かったようだ。

「奇遇ね。私もあなたと同じことを思いついたわ」
「それは嬉しいね。きっと正解だ」
「・・・何喜んでいるのよ。でもどうなるか分からないわよ」
「それでも取り扱い説明の通りなら、逃げ切れる。やるしかない」

 急いでウィンドウを開きメニュー画面を呼び出した。

 相変わらず憎らしいほどに自己主張している虹色の文字。
 それに触れる指が一瞬止まった。

「なぁウェンディ。この方法が失敗したら俺を置いて飛んで逃げろ」
「はぁ?何言ってんのよ?」
「仮だとしても、契約妖精を死なせる訳にはいかない」
「・・・わ、私だって契約者を死なせる訳にはいかないの。馬鹿なこと言ってないでやるわよ」
「・・・そうか。ありがとう相棒!」

 激しく揺れる精霊馬車の御者台で俺はゆっくりと「暴走モード」の文字に指を触れた。

















しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します

湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。  そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。  しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。  そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。  この死亡は神様の手違いによるものだった!?  神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。  せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!! ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中

処理中です...