22 / 84
第二章 小さな白竜との出会い
閑話 サツキのお願い
しおりを挟む
カツーン
カツーン
一歩歩く度に鳴り響く靴の音。
音の反響からしてかなりの広さの建物だ。
けして悪趣味ではない調度品が並んでいる通路を歩いていると、この建物の主人は権力を財力で誇示しようとはしていないのがわかる。
「時の魔城」
かつてそう呼ばれていた城の中を歩く二人の影が月明かりに照らされて伸びている。
100年前の精魔大戦の時には、執事をはじめ多くの使用人が行き交っていた魔城も、今では一人の城守が管理しているのみだ。
やがて、二人の人物は大きな扉の前に立った。
時を表す砂時計のレリーフの周りに、幾何学模様が並んだ巨大な扉が存在感を放っている。
ギギギギ
扉を開け放つと、僅かな埃が月明かりに照らされてチラチラと舞った。
まるで霊廟のようなその場所は外の世界とは隔絶された雰囲気を持っていた。
「元気そうね」
「まぁ時は止まってますからね」
砂時計の文様が彫ってある台座の上に寝かされている人物を見て、サツキは声を掛けた。
エルザは、当たり前の事を口にする。
寝かされている人物の周りには5つの鎖が付いた杭が建っており、その鎖がその人物の手足を繋ぎ止めている。
「黒の精霊 クロノス クロック」
100前の聖魔大戦の時に、世界の敵としてガンテツたちに封印された精霊。
空間の精霊ディナールとともにアトランティスを治めた女神の一柱は、静かに目を瞑って眠っている。
12~13歳位に見える少女のようなクロノスは真っ黒だったドレスの半分ほどが白に染まっている。
「でも、良かった。ワタルの転生の影響はないみたい」
「そうみたいですね。時空結界に綻びは見当たりません」
「もう、ガンテツったら無茶するんだから・・・」
本来、魂が他の世界に転生する時は、肉体と記憶をリセットする必要がある。
そのままだと、世界の法則を無視することになり、予測不可能な事態が引き起こしかねないからだ。
肉体と記憶を持ったまま転生したガンテツやワタルは極めてイレギュラーな存在と言えるのだ。
サツキとエルザはアトランティスの管理者代行として、かつて封印されたクロノスの様子を見にきていた。
「また、来ますね」
サツキは優しい目でクロノスが封印されている結界に手を触れた。
「ゆっくりお休みくださいお祖母様」
「それではいきましょう」
エルザに促され、その場をあとにした二人。誰もいなくなった霊廟にはクロノスに寄り添うように黒い幼霊が漂っていた。
「それにしてもワタル様に会われなくて良かったのですか?きっとお喜びになると思いますよ」
「私だってワタルに会って抱きしめたいわ・・・」
サツキは月を見つめてつぶやく。
「それなら今すぐにでも・・・」
「でもね。ワタルにとって私は死んだ人間。本来はいない人物なのよ。今会ったら混乱するでしょ?」
「・・・そうですか」
子供に会って抱きしめたい。母親として当然のことだ。
「さて、エルザに頼み事があるんだけどいいかしら?」
「な、なんですか?急に」
「ワタルに色々この世界のことを説明してあげてほしいの。それとアトランティスでサポートをしてあげて」
「まぁそのくらいなら良いですよ」
とんでもない事を要求されることを覚悟していたエルザはほっと胸をなでおろす。
「まぁ嬉しい!持つべきものは優秀な部下ね。でもね、ワタルに手を出すのはだめよ!あなたは彼氏がいるんだから」
「出さねーよ・・・ゴホン。そんな事しませんよ」
「略奪愛は、それはそれで燃えるけど、ワタルには普通に恋愛してほしいの」
「・・・そうですか」
「それが落ち着いたら休暇をあげるから旅行にでも行ってきなさいな」
「・・・はぁ。ありがとうございます・・・」
カツーン
カツーン
二人の影が廊下に伸びていった。
・・・・・・・・・
「みーつけた。こんなところにいたのねアマちゃん」
「ゲッ!サツキかえ?」
「私の世界に逃げるなんて良い度胸ね」
「逆に見つからないと思ったのじゃ」
アトランティスの管理者代行のサツキが地球の管理者アマテラスを見つけたのは、ミルフィーユ王国の南に位置する誰もいない海岸。
普段誰もいないこの場所に、ビーチパラソルを広げ、サングラスをしながらくつろいでいるところに声をかけられた。
「要件は知ってるでしょ?」
「だめじゃだめじゃ。魂を戻すなど許ん!」
「それは、分かっているわ。だからね」
「な、何じゃ」
サツキの願いはワタルの魂を地球に戻すこと。そう思っていたアマテラスは訝しげにサツキを見た。
「少し転生させる前に時間を欲しいの。ハルカ・・・妹と話す時間を与えて欲しいのよ」
「しかしのぉ~お主の息子だけ特別扱いにするのは・・・」
「・・・ふぅ~。あなたの部下のオオクニ君はへんな女に付きまとわれているそうじゃない?」
「何じゃ突然。確かに別の世界の管理者の女が毎日来ておる。お陰で仕事が進まん。あれはストーカーというやつじゃ」
「その女のせいでうちの可愛い部下のエルザとの仲がおかしくなってるのよ」
「ほ、ほう。それはお気の毒にの~」
話が見えないアマテラスは困惑する。
「それをね。五大精霊たちが心配しててね。どうにかしてやろうって言ってるのよ」
「ほ、ほんとかえ。それは助かる・・・っは!」
「だ・か・ら・・・ね」
「わ、分かったのじゃ。ただし、本人の希望を優先するぞえ。そのまま死を望むなら、わらわらが転生させるゆえ」
「まぁ!ありがとう。アマちゃんならわかってくれると思った」
・・・・・・・・・
「恐ろしい女じゃサツキ」
一人海岸に残されたアマテラスがつぶやく。
・・・・・・・・・
「さて、ワタルはどんな選択をするのかしら」
息子のためなら、世界の法則を捻じ曲げる女。それが七星サツキであった。
カツーン
一歩歩く度に鳴り響く靴の音。
音の反響からしてかなりの広さの建物だ。
けして悪趣味ではない調度品が並んでいる通路を歩いていると、この建物の主人は権力を財力で誇示しようとはしていないのがわかる。
「時の魔城」
かつてそう呼ばれていた城の中を歩く二人の影が月明かりに照らされて伸びている。
100年前の精魔大戦の時には、執事をはじめ多くの使用人が行き交っていた魔城も、今では一人の城守が管理しているのみだ。
やがて、二人の人物は大きな扉の前に立った。
時を表す砂時計のレリーフの周りに、幾何学模様が並んだ巨大な扉が存在感を放っている。
ギギギギ
扉を開け放つと、僅かな埃が月明かりに照らされてチラチラと舞った。
まるで霊廟のようなその場所は外の世界とは隔絶された雰囲気を持っていた。
「元気そうね」
「まぁ時は止まってますからね」
砂時計の文様が彫ってある台座の上に寝かされている人物を見て、サツキは声を掛けた。
エルザは、当たり前の事を口にする。
寝かされている人物の周りには5つの鎖が付いた杭が建っており、その鎖がその人物の手足を繋ぎ止めている。
「黒の精霊 クロノス クロック」
100前の聖魔大戦の時に、世界の敵としてガンテツたちに封印された精霊。
空間の精霊ディナールとともにアトランティスを治めた女神の一柱は、静かに目を瞑って眠っている。
12~13歳位に見える少女のようなクロノスは真っ黒だったドレスの半分ほどが白に染まっている。
「でも、良かった。ワタルの転生の影響はないみたい」
「そうみたいですね。時空結界に綻びは見当たりません」
「もう、ガンテツったら無茶するんだから・・・」
本来、魂が他の世界に転生する時は、肉体と記憶をリセットする必要がある。
そのままだと、世界の法則を無視することになり、予測不可能な事態が引き起こしかねないからだ。
肉体と記憶を持ったまま転生したガンテツやワタルは極めてイレギュラーな存在と言えるのだ。
サツキとエルザはアトランティスの管理者代行として、かつて封印されたクロノスの様子を見にきていた。
「また、来ますね」
サツキは優しい目でクロノスが封印されている結界に手を触れた。
「ゆっくりお休みくださいお祖母様」
「それではいきましょう」
エルザに促され、その場をあとにした二人。誰もいなくなった霊廟にはクロノスに寄り添うように黒い幼霊が漂っていた。
「それにしてもワタル様に会われなくて良かったのですか?きっとお喜びになると思いますよ」
「私だってワタルに会って抱きしめたいわ・・・」
サツキは月を見つめてつぶやく。
「それなら今すぐにでも・・・」
「でもね。ワタルにとって私は死んだ人間。本来はいない人物なのよ。今会ったら混乱するでしょ?」
「・・・そうですか」
子供に会って抱きしめたい。母親として当然のことだ。
「さて、エルザに頼み事があるんだけどいいかしら?」
「な、なんですか?急に」
「ワタルに色々この世界のことを説明してあげてほしいの。それとアトランティスでサポートをしてあげて」
「まぁそのくらいなら良いですよ」
とんでもない事を要求されることを覚悟していたエルザはほっと胸をなでおろす。
「まぁ嬉しい!持つべきものは優秀な部下ね。でもね、ワタルに手を出すのはだめよ!あなたは彼氏がいるんだから」
「出さねーよ・・・ゴホン。そんな事しませんよ」
「略奪愛は、それはそれで燃えるけど、ワタルには普通に恋愛してほしいの」
「・・・そうですか」
「それが落ち着いたら休暇をあげるから旅行にでも行ってきなさいな」
「・・・はぁ。ありがとうございます・・・」
カツーン
カツーン
二人の影が廊下に伸びていった。
・・・・・・・・・
「みーつけた。こんなところにいたのねアマちゃん」
「ゲッ!サツキかえ?」
「私の世界に逃げるなんて良い度胸ね」
「逆に見つからないと思ったのじゃ」
アトランティスの管理者代行のサツキが地球の管理者アマテラスを見つけたのは、ミルフィーユ王国の南に位置する誰もいない海岸。
普段誰もいないこの場所に、ビーチパラソルを広げ、サングラスをしながらくつろいでいるところに声をかけられた。
「要件は知ってるでしょ?」
「だめじゃだめじゃ。魂を戻すなど許ん!」
「それは、分かっているわ。だからね」
「な、何じゃ」
サツキの願いはワタルの魂を地球に戻すこと。そう思っていたアマテラスは訝しげにサツキを見た。
「少し転生させる前に時間を欲しいの。ハルカ・・・妹と話す時間を与えて欲しいのよ」
「しかしのぉ~お主の息子だけ特別扱いにするのは・・・」
「・・・ふぅ~。あなたの部下のオオクニ君はへんな女に付きまとわれているそうじゃない?」
「何じゃ突然。確かに別の世界の管理者の女が毎日来ておる。お陰で仕事が進まん。あれはストーカーというやつじゃ」
「その女のせいでうちの可愛い部下のエルザとの仲がおかしくなってるのよ」
「ほ、ほう。それはお気の毒にの~」
話が見えないアマテラスは困惑する。
「それをね。五大精霊たちが心配しててね。どうにかしてやろうって言ってるのよ」
「ほ、ほんとかえ。それは助かる・・・っは!」
「だ・か・ら・・・ね」
「わ、分かったのじゃ。ただし、本人の希望を優先するぞえ。そのまま死を望むなら、わらわらが転生させるゆえ」
「まぁ!ありがとう。アマちゃんならわかってくれると思った」
・・・・・・・・・
「恐ろしい女じゃサツキ」
一人海岸に残されたアマテラスがつぶやく。
・・・・・・・・・
「さて、ワタルはどんな選択をするのかしら」
息子のためなら、世界の法則を捻じ曲げる女。それが七星サツキであった。
20
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説


幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。
モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。
日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。
今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。
そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。
特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します
湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。
そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。
しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。
そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。
この死亡は神様の手違いによるものだった!?
神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。
せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!!
※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~
イノナかノかワズ
ファンタジー
助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。
*話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。
*他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。
*頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。
*無断転載、無断翻訳を禁止します。
小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。
カクヨムにても公開しています。
更新は不定期です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる