異世界街道爆走中〜転生したのでやりたい仕事を探します。

yuimao

文字の大きさ
上 下
4 / 84
第一章 妹との別れ、妖精との出会い

第3話 人生これから

しおりを挟む
 またまた、生活が一変した。
 大学をやめる手続きをして、バイト先で仕事を紹介してもらい働く事になった。

「こんにちは~。ここに商品おいておきますね」
「いつも悪いね」
「いえいえ。またお願いします!」

 紹介してもらった会社は、国内飲料メーカーの下請け。主に配達がメインで、都内のスーパーや商店に会社の飲料水を置いてもらっている。
 だいぶ、仕事にも慣れてきて、こうして店長さんにも話しかけられるようになった。

「お兄ちゃん、最近疲れてるね」
 珍しくハルカと夕食を一緒に取ったある日の夜。心配そうに俺を見て話しかけてきた。

「ん?ああ、実は会社が業績拡大に伴って担当エリアが広かったんだ。慣れない営業も始めたかからかもしれないな」
「あんまり無理しないでね」
「俺の心配なんかよりハルカの方が頑張れ」

 高校を卒業して看護師になるために奨学金を使い、三年生の短大に入ったハルカも卒業間近。
 あと一踏ん張りというところだ。無事に看護師になって欲しい。

 一方俺の方は、今いる飲料メーカーの親会社が海外の飲料メーカーに吸収合併。その時から会社の経営方針が大きく変わった。

「ワタルさん。また、課長が愚痴ってましたよ。流行りのあれが届いたって」
 休憩中同期の佐々木が話しかけてきた。
 同じ時期に中途入社して、たまに飲みに行く仲だ。

「よう佐々木。流行りのアレって退職代行のやつか?」
「そうです。そうです。本木が辞めるみたいです」
「そうか~また仕事きつくなるな」
「誰があいつのエリア担当するんだろう」

 最近の会社の雰囲気は良いとは言えない。
 効率、売り上げ、コスト削減、ブランド力アップ。そんな経営目標とともに、業務量、ノルマが増加した。
 さらに働き方改革で残業の規制、有給、育休の取得奨励。

 大手では、オンライン出勤、時短勤務などを活用してうまく、社員のワークアンドライフを実現しているところもあるが、下請け会社の俺の会社では、削減したコストの分、マンパワーで補っている。

「店長、今月はうちの商品のキャンペーンやっちゃいましょう」
「いやいや、あなたの会社は先月もやったでしょ。それに担当変わるの何人目よ?」
「あの~それはですね・・・」
「だいたい、そんなに担当変わってる会社ないよ。これじゃ信用できないよ。悪いけど忙しいから」
「・・・また、来ます」
 最近、営業回りをしていてるとこんな事が増えきた。そりゃ何人も担当が変わればその会社は信用されない。
 このスーパーも突然俺が担当になった所だ。

 どんどんブラック化していく会社に辞めていく人が増えた。人員削減はうまく行っているが、その分、今いる社員に業務が上乗せされていく。

 もともと人情や人のつながりを大切にしていた俺の会社も本社に習い、ただの物を売る企業になった。
 俺はそのたびに本心を隠す仮面をかぶり、仕事をしていく。

 そんな生活も三年が過ぎ、俺は27歳になっていた。
 親父は相変わらず帰ってこない。

「ねぇ。お兄ちゃん。私の結婚式延期しようか?」
「え?なんで?」
「だって顔色ひどいよ。」
「そ、そうか?俺は元気だぞ」
「全然、元気じゃないよ。お願いだから少し休んでよ」
「い、いや。今はどこも大変でな。それよりもハルカの結婚式にはちゃんと出席するから心配すんな」

 嘘だ。全然元気じゃない。
 この三年、なんとか頑張ってきたが、体は悲鳴をあげていた。
 本心を隠す仮面をかぶり過ぎて、重くなったせいか首が痛い。それに常に胃痛がする。

「もぅ頑固なんだから。でも結婚式が終わったらちゃんと休んでね」
「分かった。分かった。ハルカは結婚式のことだけ考えてろ」
 きっとハルカの幸せそうな顔を見れば元気になるさ。そのときはそう思っていた。

 その年の初夏。
 都内にある小さなホテルで純白のウェディングドレスに身を包んだハルカは幸せそうに新郎を見つめていた。

 家族と友人だけという、少人数での結婚式。
 会場が狭い分ハルカの顔がよく見える。
 あー良かった。幸せそうだ。

 式が終わると参加者を集めての食事会となる。
「ハルカおめでとう!!」
「おめでとう!!」
 友人一同から祝福の言葉をかけられるハルカ。
「ありがとう!」
 友人にも恵まれてようで何よりだ。
 新郎は酒を注がれまくっているな。俺も注いでこよう。
 ハルカを悲しませたらドロップキックだからな。この野郎!

 その後、俺は一人、親族のための控室に佇んでいた。
「ここまで良くやったよな俺。母さんもハルカの笑顔見ていてくれたかな?」

「・・・お兄ちゃん。こんなところにいたんだ」
「・・・ハルカか」
 ゆっくり振り向くと、俺の方を見つめるハルカの顔。

「お兄ちゃんたら感謝の手紙を読もうしたら、全力で拒否すんだから、あれが一番盛り上がるんだからね」
「む、無理だ。そんなことされたら泣き崩れてしまう」
 ハルカが言う感謝の手紙とは、結婚式の定番で、新婦が家族に向けて思いを伝えるヤツである。

「うん。知ってる。・・・でもねやっぱり言っておかなきゃいけないと思うんだ」

 あーだめだ。
 ハルカの言おうとしていることを察した。
 俺はすでに泣いている。

「今までありがとうございます。お母さんとお父さんの代わりに私を守ってくれて感謝してます」
 ハルカは頭を下げた。こぼれた涙が床に染みを作る。

「バ、バカ・・・。あ、当たり前だろう。俺はお前のお兄ちゃんだからな!守るのは当然だ!」
「私はアキラさんと幸せになるからもう大丈夫だよ」
「・・・」
「だからね。これからはお兄ちゃんの人生を生きて」
「・・・」
 泣くなハルカ。せっかくの美人が台無しだ。
 俯きながら泣きじゃくるハルカの背中をそっと撫でる。

 小さい頃はいつも俺の後を黙ってついてきた妹。

 犬を飼いたいと我儘を言う妹のために、俺がお小遣いを貯めて白い犬のぬいぐるみを買ってあげた時に見せたよろんだ顔。
 あれはまだ持っているのかな?

 次々と昔の思い出が蘇ってくる。

 母さんと親父が居なくなって塞ぎ込んでいた事もあったけど、今は幸せを手に入れた。
 俺の母親役と父親役は一段落ついただろう。

 やっと肩の荷が降りた気がした。

「ふぅ~。なぁハルカ。実は俺会社を辞めて来たんだ。これからは自分の好きな仕事を探してみるよ」
 俺は決心した事をハルカに告げる。

「そうなんだ。正直最近のお兄ちゃん見てられなかったから安心した」
「心配かけたな。また、就職活動頑張ってみるよ」
「うん!応援する」
「あと、幸せになるんだぞ!」
「うん!」
 よし!ハルカは大丈夫だ。
 これからは自分のために生きよう。

 結婚式の帰り道。
 足取りが軽い。人生これからだ。

 俺は将来のことに思いをはせながら、意識を失った。














しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します

湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。  そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。  しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。  そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。  この死亡は神様の手違いによるものだった!?  神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。  せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!! ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中

処理中です...