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61-3 明けまして……おめでとう
しおりを挟むお母さんの実家に、美月ちゃんの家に到着した頃には既に日が暮れ、辺りは静まり返っていた…………いたのは家の周囲だけだったけど……
家に入ると居間ではお祭り騒ぎになっていた……玄関からも聞こえる大きな声。苦笑いで迎えてくれた叔母さん美月ちゃんのお母さんいわく、うちのお父さんとお母さんが久しぶりに帰って来たので、お婆ちゃん……弥生さんの知り合いやお母さんの同級生等を呼んで夕べから飲み会が始まり今でも続いているとか……どうりでお父さんもお母さんもスキー旅行に来なかったわけだ、体力温存してたのね。
「夕御飯は後で持っていくからとりあえず美月の部屋に居なさい、あ、後お風呂沸いてるから入っちゃいなさいね」
「はーーーい」
叔母さんにそう言われとりあえず荷物を持って美月ちゃんのお部屋に、私達が居間に行くと騒ぎが悪化すると判断したのだろう。私達はそそくさと美月ちゃんの部屋に向かった。
そして相変わらずお兄ちゃんは私を見ない、目を合わせてくれない……電車の中ではああ言ったが……なんか段々辛くなってきた。一体お兄ちゃんはどうしたんだろう……私……お兄ちゃんに何かした?
まさか嫌われた?……私の背筋に寒気が走る。胸が押し潰される、動悸が息切れがめまいが……でもお兄ちゃんに限ってそんな急に、何か理由があるはず……やっぱり昨日のお風呂場で美月ちゃんと何か……
仮に、仮にお兄ちゃんがロリコンだったとして、美月ちゃんを選んだとして、それは辛いけど悔しいけど、嫌われるよりは全然いい、お兄ちゃんに嫌われたら……私は……生きていけない。
「お、お兄ちゃん、荷物一杯持ってくれてありがとう、汗かいたでしょ? 先にお風呂入っていいよ~~」
私がそう言うと荷物を置いたお兄ちゃんは一瞬私の顔を見てそして直ぐに目を反らす……お兄ちゃん……私の胸にまた刺すような痛みが……
「あ~~じゃ、じゃあ……お先に」
お兄ちゃんはそう言うとバックの中から着替えを持って、そそくさと私から逃げる様に部屋を出て行こうとする。
「あ、お風呂なら美月も一緒に、むぐううううう」
「え?」
「な、なんでもない、なんでもない、行ってらっしゃいお兄ちゃん」
「ああ……うん」
美月ちゃんを羽交い締めにし、口を押さえながら笑顔でお兄ちゃんを送り出す。やっぱりお兄ちゃんは私と目を合わせたく無いのか美月ちゃんの事もスルーして部屋を出ていった。
「むがむがああ」
「あ、ごめん」
お兄ちゃんが出ていった後の扉を暫くボーッと眺めていると黙っていた美月ちゃんが再びもがきだした。あ、ごめん忘れてた……
「美月を、こ、殺す気なのお姉ちゃま!」
「あ、うん、そうね…………場合によっては……」
「ひい!」
あ、つい睨んじゃった……いけないいけない。
「ごめんごめん……あのね……美月ちゃんに聞きたい事があるの」
「ふ、ふぁい!」
ああ、美月ちゃんが怯えてる……いけないいけない笑顔で笑顔で。私が笑顔で美月ちゃんを見ると益々怯え始める……うーーん何でだろう?
とりあえず怯える美月ちゃんの事は置いといて話を続けた。
「昨日……お風呂でお兄ちゃんと何かあった?」
「昨日?」
「美月ちゃんと二人きりで温泉に入って……あれからお兄ちゃんの様子がおかしいの……」
「お兄ちゃまの? あああ! あははははは、そうかそれでお姉ちゃま、ふ~~~~~ん」
相変わらず話が早い、1を知ると100理解する天才少女、私にはわからない事も美月ちゃんならすぐにわかる。
「み! 美月ちゃん! 教えて! 一体お兄ちゃんは!」
美月ちゃんの肩を両手で掴むと私は懇願した。お兄ちゃんの事を知りたい、お兄ちゃんの事は何でも知っている私の筈なのに、今のお兄ちゃんは私の知らないお兄ちゃん……嫌だ、そんなの嫌だ。
「い、痛いお姉ちゃま、痛いから!」
「あ、ごめん……」
私は強く掴んでしまった美月ちゃんの肩から手を離す。美月ちゃんはちょっと怒り気味で両肩をさすっていた。
「もうお姉ちゃまは……まあ、わかるけど、お兄ちゃまにあんな態度をされたら美月だって辛いかもね」
「う、うん」
「でも安心してお姉ちゃま、別にお兄ちゃまはお姉ちゃまの事を嫌いになったわけじゃないから、寧ろその逆…………かな?」
「逆?」
「うん……」
そう言うと美月ちゃんは少し寂しそうな顔をした。一体お兄ちゃんは美月ちゃんと何を話したのか? 美月ちゃんとお兄ちゃんの間に一体何があったのか?
「美月ちゃん……一体……昨日……何が?」
「その前に……ちょっとお兄ちゃまの話をしようか?」
「え? うん別に良いけど」
そんな事よりと言おうと思ったが美月ちゃんに何か考えがあるんだろうと思いその言葉を飲んだ。お兄ちゃんの話を誰かとするって言うのもそうそう出来る事じゃないし。
「うん…………あのね…………お兄ちゃまってお顔も普通、体型も普通、社交的じゃないし、暗いし……でも……凄くモテるよね? それってなんでだと思う?」
「え? それは凄く優しいし、いざって時には頼りになるし……」
「そんな人他にも居るよね? まあ、お姉ちゃまに言ってもわからないか」
「お兄ちゃんの魅力って……私にはお兄ちゃんだからとしか……」
「ハイハイ、まあ美月もお姉ちゃまに似たような物かなぁ? 昔からずっとずっとお兄ちゃまが大好きだった。あのお兄ちゃまの無限の優しさが大好きだった。ううん今でも大好きだから……でも他の人ってなんでお兄ちゃまが好きなんだろうって考えたんだ」
「他の人……」
「うん、現生徒会のメンバー、メンバー全員お兄ちゃまの事が好きだよね?」
「ああ、うん、まあ微妙な人も居るけど……」
「なんでだと思う?」
「なんで? うーーーん、それぞれとしか……」
「共通点はね、皆お兄ちゃまが助けている、知らず知らずに助けられているって事」
「助ける?」
「うん……お兄ちゃまはね、優しすぎるの……見てられないんだよね、人が心底苦しんでいる姿を」
「うん」
それは知っている……だから隠した、私がお兄ちゃんを好きで好きで仕方ない事を、お兄ちゃんの事を好きで苦しんでいる事を……でも言ってしまった。最後には……だからお兄ちゃんは私と付き合った。私はお兄ちゃんをそんなお兄ちゃんを利用した。
「それって、お姉ちゃまはどういう事なんだと思う?」
「どういう事?」
「人の苦しむ姿を見たくない、それって究極の自己愛なんだと思う美月は思う」
「自己愛?」
「うん……お兄ちゃまはね苦しむ姿を見ていたたまれない気持ちになるのが嫌なの、それを無視して思い悩む事が嫌なの……誰かの為にじゃない、全部自分の為にしているの……自分が大好きなんだよ実は、だからね……お兄ちゃまは誰も愛せない、自分以上に人を好きになれない、だから好きって感覚がわからないんだよ」
「自分が……一番好き……」
「そしてね……お兄ちゃまは自分以外は興味ない、誰も要らないって思ってる……ううん、思っていたの」
「誰も……」
「美月も……お姉ちゃまもね」
「私も…………要らない」
目の前が真っ暗になった……要らないって言われて……お兄ちゃんは……私の事に興味無い……要らない……そんな……信じられない。
私は一度深呼吸して再び美月ちゃんを見た。すると美月ちゃんは一度目を閉じそして私を見上げる、強い眼光で私を……そして、美月ちゃんは言った。
「おめでとう……お姉ちゃま」
私を見て、美月ちゃんはそ笑顔でそう言った。
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