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60-7 スキー旅行

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「やっと見つけた、探したんだよお兄ちゃま」

「えっとお兄ちゃん……そちらは?」

 二人がゆっくりと俺達に近付いて来る、た、助かった……

「あら? どなたかしら?」
 茜様が二人を一瞥し俺に訪ねる。

「あ、えっと、いとこと妹……です」


「ふーーん」
 そう言うと茜様は……って何で俺は素直に茜様って呼んでるんだ? 俺には見せたことの無い笑顔で二人に向かって言った。

「初めましてお二人さん、お兄様には、今大変お世話になっておりますの」

「お世話?」

「ええ、今スノーボードを手取り足取り教えて頂いていますの、ちょっと色々触られたりしていますけど、本当お上手で困ってしまいますわ。でもお優しいお兄様で羨ましいですわね」
 
「お兄ちゃん!」
「お兄ちゃま!」

「さ、触って無い、触ってないぞ!!」

「まあ、あんなに情熱的に教えて頂いたのに、酷いですわ」

「いやいやいやいや」

「お兄ちゃん、どう言う事?」

「いや、全然滑れないのに頂上から滑って来て、ネットに激突して、助けて、危ないからえっと」
 しどろもどろになりつつも、俺は栞に説明する。

「そ、えっと私は長谷川 栞、貴女のお名前を聞かせて貰ってもいい?」
 俺の説明を聞くと栞は茜様を見てニッコリ笑いながらそう聞いた。


「長谷川……栞……私は西園寺 茜よ」

「そうですか……えっと茜さん、お兄ちゃんが失礼な事をして申し訳ありませんでした。でもお兄ちゃんスノボはあまり上手く無いの、だからここからは私が教えて上げます!」

「美月も教えて上げるよ~~こんなのとか、どう?」
 美月はそう言うとそのまま滑りだしオーリーからクルっと1回転するグランドトリックを見せつける。

「ひ!」

「いや、無理だろ……」

「あ、じゃあどうです? 一緒に滑るって言うのは?」

「…………いえ、結構ですわ、お陰様でもう大分滑れる様になりましたし」

「そうですか、えっとじゃあもう大丈夫ですね、それじゃお兄ちゃんは返して貰いますから……さあ行こうお兄ちゃん」

「え? あ、ああうん、ちょっと待って、えっと……あの……茜……さん、後は、膝の上下運動を使ったりしながら体重移動を工夫すればかなり上手くなるから……ごめんな、たいした事教えられなくて、茜さんかなり覚えが良いから、もっとちゃんとした人に教わればかなり上手くなれると思うよ。えっと一緒に滑れて楽しかった、じゃあ」
 
 俺はそう言うと、ゆっくりと立ち上がり滑り出そうとすると、茜さんが俺に話しかける。

「待って……えっと……そ、そう言えば聞いてなかったわね……貴方の……名前を」

「え、ああ、そうか、言ってなかったか、俺は裕だよ、衣へんに谷で裕、長谷川裕」

「そ……」

「はい、お兄ちゃん行くよ~~」

「ああ、うん、じゃあ気を付けてね」

「ふん」

 俺はボードを滑らせる。ゆっくりと離れていく茜……さんをチラチラと見つつ栞と滑って行く。

「あのね……お兄ちゃん……私耐えたよ……後で誉めてね……あの人はお兄ちゃん叩いてた……私……やり返したかった……」
 滑りながら栞は俺の方を見ずにそう言った。

「し、栞! 見てたのか」
 

「ううん、叩いた瞬間は、でもお兄ちゃんの態勢とそのほっぺた見ればわかるよ……直接見たら多分……我慢できなかったと思う……」

「あ、いや、あれは……俺が変な事を言ったからで」

「お兄ちゃん……お兄ちゃんは本当……優しすぎるよ……」
 栞は俺を見て悲しそうな顔をする……

「栞……」

「お兄ちゃま~~お姉ちゃま~~はーーやーーくーー」

「待って美月ちゃん~~」
 栞はそう言うと俺を置いて加速する、そして少し離れ俺を見て手を振った。もうさっきの悲しそうな顔ではなく、いつもの満面な笑みで。




#####



「お嬢様おかえりなさいませ」
 麓まで滑り降りた茜はスーツ姿でお辞儀をする女史を確認すると、ボードとリーシュコードを外しそのままスタスタと歩いていく。
 スキー場では全く場違いなスーツを着た女史はそのボードを回収すると慌てて茜を追いかける。

「長谷川裕、長谷川栞、多分この辺のホテルに宿泊しているわ、この二人を調べて」
 茜は追いかけるスーツの女史にそう言った。

「はい、お嬢様、えっと……その二人はお嬢様に何か?」

「フフフフ、あはははは、見つけたのよ」
 スーツの女史にそう言われ立ち止まると突然笑い出す茜。

「お嬢様?」
 ボードを抱え不思議そうに見るその女史に向かって茜は言った。

「見つけたの、遂に見つけたのよ……あはははは、まさかあんな人が居るなんてね、見つけたわ……遂に……」


「えっと……お嬢様? その……参考迄にお聞きしても宜しいでしょうか? 一体何を見つけられたんですか?」

「うふふふふふ……聞きたい?」

「あ、はい、是非に」

「私のね、理想の人……未来の旦那様をかな?」

「へ?」

「うふふふ……世の中であんなに優しい人が居るなんてね……お金とか関係無く、何でも言うことを聞いてくれて、そして絶対に怒らない、私の理想の人……遂に見つけたの……だから至急調べて!」

「か、畏まりました!」
 そう言うとボードを持ったまま茜を追い抜き走って行くスーツの女史。

「ふふふふ……近いうちに……また会いましょうね」
 茜は振り向き笑顔でスキー場を見つめながら、そう呟いた。



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