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60-6 スキー旅行
しおりを挟む婆ちゃん直伝、スノボ初心者講座~~~~
「はい、それじゃ本日スノーボードのレッスンをさせていただきます、長谷川裕です、宜しくお願い致しますね」
「あんたの名前なんて聞いてないわよ、いいからさっさと教えなさい!」
「はい、それでは本日の生徒は、いつデレるのか皆様興味津々でしょう、いかにもお嬢様のお名前で登場された美少女、西園寺茜さんです~~」
「何こいつ……キモ……」
「……こうでもしなきゃやってられんわ! じゃあ始めるぞ!」
「あんた口の聞き方に気を付けなさい」
そう言うと茜様は今にも俺を刺すような、そんな視線で睨む……うーーわ……マジこええ……
「じゃ、じゃあまずは転び方からやります……」
ビビった俺は誤魔化す様に普通にレッスンを始めた。
「は? 私は滑り方を教えろって言ってるんだけど、あんたマジで死にたいの?」
「いや、スノボの基本なんだよ、転び方って……スキーと違って両足固定されるから、初心者でも、それこそ上級者だって大なり小なり必ず転ぶんだよ、だから怪我をしないように最初に転び方から覚えて行くの!」
「ふーーん、言ってる事はまともね……いいわ、少しは言うことを聞いてあげる。どう? 嬉しいでしょ? 私みたいな可愛くて綺麗で高貴な人間に教えられて」
「いや…………ああああ嬉しい、嬉しいな~~」
再度睨まれ、もう俺は素直に喜ぶ事にした。早く覚えて貰った方が良いと俺の脳がそう判断する……ああ、もう、変な奴に関わっちゃったよ……
「ほら、転び方でしょ、どうやるの?!」
「ああ、うん……まずは前方、身体の正面から転ぶ時ね」
俺は雪の上に滑り込む様に転んで見せた。
「手をついちゃ駄目、手をつきながら倒れると手首折れるからね、こう滑り込む様に、力を流す様に転ぶと痛くないんだ」
「ふーーん、こう?」
そう言うと野球のヘッドスライディングの様に転んで見る茜様。
「おおお! 上手い上手いそんな感じ」
「成る程痛くないわね」
「でしょ? で、次は反対側、ちょっと怖いけどこっちは特に重要だから」
俺は後ろにしゃがみこむ様に倒れる。
「こんな感じ、お尻から背中に向かってごろんって転ぶ様に、お尻でドンって落ちる様に転ぶと痛いし最悪骨折もあるからね、気持ち足を持ち上げる感覚で背中に力を移動させる様に、そして大事なのは頭、目線はお腹を見る感じで首に力を入れて頭を持ち上げる。絶対に頭を後ろに下げない、後頭部を打つからね」
「ふーーん、こう?」
「おお、上手い! そう、そんな感じ何度かやってみて」
そう言うと茜様は素直に何度か練習する。覚えは良さそうだ……これなら早く解放して貰えるかも……
「そうしたら次はスケーティング、スノボを片足だけはめて、スケボーの様にはめて無い方の足で漕ぎながら進む。それが出来たら今度はその状態で傾斜面を真横に降りる練習、そしてさらに真っ直ぐ降りて真横になる練習、これが出来れば基本はマスターしたも同然だから」
俺はそう言うと片足を外した状態でやって見せる。
これが出来れば移動出来る。リフトに乗れる。止まれる。さらに体重移動で曲がる感覚もマスター出来る。
「成る程……あんた上手いわね」
「ああ、まあ一応滑れるし」
大体初めてスノボをやる人は恐らくここで少し苦戦する。栞はすぐに出来たが俺は…………っておいおい……
「見た目よりも簡単ね」
茜様はいともたやすく俺がやった通りにやってのける……マジか……栞もあっという間に出来たし……え? 何? 俺が駄目なの? これが普通?
「…………えっと……じゃあ次は両足を固定して、俗に言う木葉滑りっていう方法ね、さっき片足外して真横に少しずつ動くのをもっと激しくした感じ、両足固定してるから降りるスピードも付きやすい、大事なのは両足均等に体重をかける事、それが出来たら今度はどちらかに体重移動すると斜めに滑るからそこからまた均等に体重移動して真横に戻す」
「体重体重煩いわね、まるで私がデブみたいじゃない!」
「言ってない言ってない、スノボは体重移動が大事だから、ほら良いから見てて」
俺はそう言うと爪先を上げ下げしボードのエッジをかけたり外したりしながら真横にズルズルと傾斜面降りて見せそして体重移動によってどう動くかも見せる。
更に今度は斜面に対して逆側、踵を上げエッジを外して背中方向に降りるやり方もやって見せる。
「これが出来れば急斜面でもこれで降りられるんだ」
「へーーこんな感じね」
そう言うと、またしても簡単にやって見せる……なんだこいつ……マジで天才か?
「上手いですね……」
「そう? まあ私天才だからね」
「……そうですか…………あ、えっとじゃあ次は、ボードを斜面に対し正面に向けてそこから真横になる方法ね、これも大事なのは体重移動、そして身体を後ろに反らさない事、後ろになった膝を前の膝の後ろに入れる感じでやると綺麗に見えるから」
スノボでは右足が後ろのレギュラースタンスと左足が後ろのグーフィースタンスがあるが、まあその辺は割愛する。ちなみに俺も茜様もレギュラー、栞もレギュラーで美月は両方、両方はダックスタンスって言う。
「身体は常に前ね、後ろに反らすと曲がらないからって……出来てる……」
「きゃあああああああ、曲がった、止まった面白い~~~~」
「いや……面白いって……なんだこいつ……本当に初心者か?」
「逆はどうやって曲がるの?」
今は斜面に対して右方向、身体の正面を斜面上側に向かって曲がるやり方……普通こっちの方が難しいんだけど……
「ああ、ちょっと怖いけど、逆は簡単、背中側に体重移動して曲がる。ビンディングのハイバックがあるからこっちの方が……」
「ああ、本当だ、簡単~~~~」
「おいおい……」
ついに俺がやって見せる前に出来てしまった……
「一応これが基本で後は体重移動で滑っていくだけです、後ろの足を振るとかっこ悪いのでそれだけは気を付けて……」
「終わり? じゃあちょっと滑るから見てなさい!」
「あ、はい……」
そう言うと茜様は華麗にターンしながら滑っていく……マジか……なんだこいつ……
「あはははは、簡単簡単、どう凄い~~」
「ああ、ハイハイ凄い凄い」
俺は彼女の後を追いかけようとしたその時、一つ言い忘れていた事を思い出す。
「ぎゃああ………………」
俺が声を上げる寸前、茜様は突然倒れカエルが潰された様な声をおあげになられた……ああ、やっぱり初心者だったか……
俺は滑って茜様に近寄る。茜様は雪の上にバッタリと倒れ身動きが出来ない状態……ああ、やっちゃったか……痛いんだよなこれ……
「ううう……痛い……な、、なに? 今の、なんなの?」
「ごめん言い忘れた……逆エッジの事」
「逆エッジ?」
「うん、ちょっと言葉にすると難しいんだけど、慌てて曲がろうとするとき良くなるんだ。斜面に対してボードが正面を向く前に体重移動をすると反対側のエッジが斜面に引っ掛かかって転ぶ、バイクのハイサイドっていうのと同じ原理なんだけど、まあ躓いて転んだって事だね」
「つ、躓くですって…………私が躓くなんて、人生で一度も躓いた事の無い私が?」
ゆっくりと立ち上がりそう言う茜様、まあそうでしょうね、そうじゃなかったらそんな性格には……
「…………そうですか……えっと、とりあえず身体を正面に向けてから曲がる事。後は常に斜面に注意して曲がれば平気だから……それであの……そろそろ一人でも滑れそうだよね、だから俺はこの辺で……」
「は? 何言ってるの? まだまだよ! そ、それに……」
「それに?」
「そ、それに……下に降りたら……その、しょ、」
「しょ?」
これまでに無い表情で俺を見る茜様……しょ? ああそうか
「そうか、我慢してたのか、でもトイレは結構遠いぞ、俺反対側向いてるからそこらの木陰で」
「は? ト…………ば、バカああああああああああああ!!」
「ぐええええええええええ」
俺は思いっきり殴られ雪の上に吹っ飛ぶ……よ、良かったボードつけたままで、グローブはめたままで、多分素手なら顎折れたよこれ……
「あんたね!」
ボードを着けたままだった茜様、ボードを外して倒れた俺に近付いて来る……や、ヤバい殺される。そう思った瞬間、俺を呼ぶ声が聞こえた。
「お兄ちゃまあああああああああ!」
「お兄ちゃん!!」
美月~~栞~~良かった……た、助かった……
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