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54-5 兄妹と姉妹
しおりを挟む澪は雫の頭を撫でると、雫の腕をそっと持ち自分の腰から外させる。
「大丈夫よ雫、話すだけだから」
微笑を携え慈愛顔で雫を見る澪、俺を殴った時の鬼神の様な顔とこうまで変わるか……
「お姉ちゃん……」
「私に抱きつくなら、お家で、ね?」
「お姉ちゃん」
お前らそんな所でいちゃついてんじゃねえよ、事情を知らない他の皆ポカンとしてるだろ……いや……おい、セシリーなに目を爛々とさせている。
「それで、何の様だ」
俺が痺れを切らして澪に話しかける、澪は雫から俺に目線が移ると同時に慈愛顔から真顔になった、なんだその切り返しの早い顔は?
「ふん、あんたに話しがあるのよ、表に出なさい」
真顔で俺に向かい顎で外へ出るように促す澪、うわーー男前だ。
「ああ、分かった」
俺が立ち上がろうとすると、俺を制する様に会長が立ち上がり澪に対して少し強い口調で言った。
「澪さん、私も行きます!」
「は? 聞こえなかった? 私はこの男に話しがあると言ったの」
「貴方は彼に暴力を振りました、いくら女子から男子とは言え、校内でしかも生徒会室の中で暴力を振った事を私は見逃せません、ましてや彼は私の大事な……だ、大事な臨時生徒会メンバーの一人です、このまま貴方と二人きりなんてさせられません」
「は? あんた私の顔が見えないの?」
「顔?」
澪は顔に貼られているガーゼを指差す。
「これよこれ、これはこいつの妹に殴られた痕よ、雫もこいつも見ている、私を見逃せないと言うなら、こいつの妹も同罪よ」
「「えーーーーーーーーー!!」」
それを聞いて皆が驚きの声を上げた。
「栞ちゃん、本当にぃお兄ちゃんのぉ事になるとぉ見境無いなぁ」
「栞君、僕より先に手が出るなんて」
「栞様の天罰怖いデース」
「分かった? あんたに用は無いの、おとなしくここでお茶でも飲んで会長選挙の作戦でも立ててなさい」
「で、でも!」
「会長、大丈夫だから、雫も居るから」
「でも……」
「ほら行くわよ」
澪はそう言って踵を返す、会長を連れていく訳には行かない、澪と雫の秘密を聞かせるわけには行かないから。
「明日報告します」
「そう……気を付けてね」
会長が少し悲しげな表情でそう言って俺を送り出す。
「はい」
そう言って俺は澪を追うように生徒会室を後にした。
###
「はい雫あーーーん」
「お姉ちゃん、おいひい♡」
「美味しいね♡」
「じゃはい、お姉ちゃん、あーーん」
表に出ろと言われて澪に付いて行くと、久しぶりに登場、会長と何度か来た豆の出る喫茶店、奥まった席があるこの喫茶店、周りに人が居ない為、この辺じゃ密会や内緒話に最適な場所なんだが、それを良いことに、こいつらイチャイチャし始めやがった。
「なにしてんだよ!」
「ここに来たらシ○ノワールを食べさせあいっこするのが私達のお決まりなのよ」
「知らねえよ」
伏せ字の意味ねえし……
そう言って俺はコーヒーを一口飲む、ううう妹のコーヒーが飲みたい。
「コーヒー啜って私達が食べ終わる迄待ってなさい、はい雫~~~♡」
「全く……」
俺を前に姉妹でここまでイチャイチャ出来るとかすげえな……俺と妹はここまで……いや妹ならやりかねないか……
絶対普通にやるだろう、いや……もっと凄い事も……そんな想像をしながらこいつらを眺める事十数分、ようやく食べ終わり本題に入った……。
「雫、次はコーヒー○ェリー?」
「うん、お姉ちゃん♡」
「おい!」
「冗談よ」
澪がそう言うが雫は、え? みたいな表情になる……貴方の妹さん冗談と思って無いみたいですけど……とりあえず雫は無視をして澪と話しを進めた。
「それで何の用なんだ?」
「ふん、あんたの妹……何者?」
「何者って、普通の女子高生だけど」
まあ普通っていうのはちょっと無理があるけど、別に何処かの組織や団体に所属している訳でも、頭脳を何処かに売った訳でも無いだろうし、普通の女子高生には違いないはず。
「私これでも空手をやってたの、普通の女子の攻撃を避けられないはずがない、なのにあんたの妹の平手全然見えなかった、辛うじて首を降って衝撃を和らげたけど、そのまま食らってたら歯の二、三本持ってかれてたわ」
「まあ、栞の運動神経は半端ないからな、てか空手やってるやつが気楽に殴って来るな!」
妹は本来なら運動部から勧誘されまくる位の運動神経の持ち主、特に足は小学校の頃から早くて何度か県の記録も出していた。
「まあ、それはどうでも良いの、今度本気で来たら倒すから、それより問題はこれよ」
澪はカバンから取り出したスマホを俺に見せる。
「どうでもいいって……」
俺を殴った事をどうでもいい呼ばわりか……そう思いながらスマホの画面を見る……妹?
アドレスに見覚えがある、【siori_b-love@xxx.xx.jp】
b-loveはボーイズではなくブラザーなんだろうな……あ、でも、ひょっとして妹は、お腐れ様かも、今度仕返しに妹に部屋を探索してやろう。
「何処で調べたのかあんたの妹、私に直接メールを送り付けて来たのよ」
「ああ、まあ……」
妹が本気出せば、恐らく総理大臣のプライベート携帯アドレス迄入手出来るんじゃないかな? 一女子高生、しかも同じ学校なら造作もない。
「それで、なんて言ってきたんだ」
俺はそう言ってスマホの画面をスライドさせようとするが、澪は慌ててスマホを取り戻し胸に抱える。
「み、見せられないわ」
「は?」
「内容は見せられない、誰にも……」
「な、何が書かれているんだ?」
「私の……秘密と言うか……黒歴史……」
「黒歴史……どんな?」
「言えるわけないでしょ! て言うかあんたの妹はなんなの! 探偵? ストーカー? スパイ? どこぞの国の情報部部員?」
「お前の黒歴史ってどんだけのレベルの秘密なんだ!」
まあ、妹が本気で調べれば余裕なんだろうけど……
「私と雫の秘密も知ってる……それはいい、ただね……あのガキ……自分が会長になった暁には如何なる恋愛も自由な校風を目指す為に自分の思いと兄妹の関係、ついでに私達姉妹も皆に公開しましょうねって」
「………………は?」
「そうよ! は? よ……言えるわけないでしょ! あんたは良いの?!」
「いや、良いわけない……けど」
「あんた兄でしょ、あの暴走妹を止めなさいよ!」
「いや、それが出来れば……」
「私は良いわよ、もうすぐ卒業だし、でも……そんな事を学校中に言いふらされて、雫はどうするの? 私の可愛い雫が虐められたらどう責任取るのよ! 私は卒業しちゃうのよ! もう雫を守れなくなるのよ!」
雫の頭を抱きしめる澪、雫は……気にせずいつの間にか頼んだコーヒー○ェリーを美味しそうに食べている……
「いや、まあ、そうしたら俺が」
「あんたそう言って雫をあんたのハーレムに引き入れるつもりでしょ!!」
「だからハーレムなんてないっつーの、……じゃあ、もう一つしか手が無いな」
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「そうですか、じゃあ、まあ……協力してくるって言うことで良いんだな?」
「不本意だけどね……」
「それでいい、じゃあ……とりあえず、3年の票集めは宜しくな」
俺は手を引っ込め澪を見つめながらニヤリ笑い言った。
「ふん」
澪は雫の頭を抱き横を向きつつも俺の宜しくを否定せずにいた。
これで3年の票が確保出来た、駒は揃った、いよいよ週明けは投票日。
残り僅か、さあ勝負だ栞!
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