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51-9 妹の座争奪戦
しおりを挟む美月が夏休みに帰ってからの事を話し出した。
「えっとね、友達は結構出来たのかな?、皆美月の話を聞いてくれる様になった……、でもまだまだ美月を怖がってるって分かる……」
「まあ、そんな簡単には……」
美月は一で十を知る推理力を持ち、時には予知能力の様な事までしてしまう。
知識は大人以上、瞬間記憶ができる記憶力、当然会話もボイスレコーダの様に覚えているので嘘やはったりが通じない。
元々間違った事が嫌いな美月は相手の嘘や間違いを全部指摘してしまう、当然怖がって誰も話したく無くなる。
「特に先生がね……」
「うーーん」
大人は基本的に子供を下に見る、教師は特にそうだ……そこに何もかも自分より上の子供が入って来たらどうなるか……まあ排除か……出来ないなら関わりたく無いと思うだろう。
「お兄ちゃま……美月負けない……負けたくない……でも……」
美月は俺を見つめる、美月の目が俺に語りかける、辛いよって……
俺は美月を抱き締める、小さな身体を強く。
「美月……こっちに帰っておいで、前から言ってるだろ、美月は頑張らなくて良いんだよって」
「お兄ちゃま…………」
「俺と一緒に暮らそうよ」
そう言うと美月の強張った身体の力が一瞬抜けるのが分かった。
「なんかお兄ちゃま美月にプロポーズしてるみたい」
俺の腕の中で美月がケラケラと笑いながら俺を見上げ、とんでもないことを言い出す……し、してないぞ! 小学生にプロポーズとか駄目だって……
「美月までそれを言うか……」
「美月まで? お姉ちゃまも言ってるの?」
「ああ、最近すっかり妻のつもりでいる……」
「ふーーん、じゃあ美月がこっちに来たらお姉ちゃまがっかりだね」
「そんなこと無いよ、美月は俺達の妹なんだから」
「お姉ちゃまはそうは思ってないよ」
妹は俺の事になるとポンコツになるけど、そんな冷たい事を言う人間じゃない
「そんなこと無いって」
「うーーん、そうかなーー?」
「美月はどうしたいんだ? 一緒にいたくないのか?」
「そんなのいたいに決まってる……でも……」
「でも?」
「…………」
美月は黙って俺の顔を見上げる……
「ちょっと考えさせてお兄ちゃま」
いつも即決の美月が考えさせてくれと言った。
判断力も決断力もある美月にしては珍しい。
「勿論、良く考えて決めてくれ、美月がどうしたいのかだから」
「うん」
「じゃあとりあえずこの話しはまたな、栞が出たらお風呂に入って早めに寝よう、明日は新幹線乗るまで送るから」
「一人で大丈夫だよお兄ちゃま」
「駄目だよ、本当は家まで送りたいんだから」
「美月はこれからちょくちょく来るんだから、もう通学みたいなものだよお兄ちゃま」
「長野から通学かよ、ああでもリニアが開通したら可能かな?」
「飯田だからあまり意味無いかな~~それより叔母さま達がこっちにちょくちょく帰れるよ、名古屋まで40分位らしいから」
「それは不味いな、こんな所見られたら……」
そ、そうだよな、朝いきなり帰って来たらアウトじゃん……
「お兄ちゃま、帰って来なくても駄目だよ、二人きりでベットを共にするなんて!」
「す、すいません……」
「もう、今すぐにこっちに住んでお兄ちゃまとお姉ちゃまを監視したいよ」
美月は呆れた顔で俺を見て首を振った……小学生に言われると本当になにしてんだかって思っちゃう。
暫くして妹がお風呂から上がってリビングに来る、美月は交代するようにお風呂に入る、さすがに一緒にとは言わなかった……助かります。
そして美月がお風呂に入ったのを見計らい妹は俺の隣に腰掛け水を一飲みしてから聞いてくる。
「美月ちゃんこっちに住むって言ってくれた?」
「え? いや、保留だって」
「そう……」
「栞は美月がこっちで一緒に暮らすのは賛成なのか?」
「私はいつもの通りだよ、お兄ちゃんが賛成なら私も賛成、お兄ちゃんが反対なら私も反対」
「うーーん栞個人の気持ちが聞きたいんだけど」
何を置いても俺次第、いつもそうだ、でも妹自身はどう思っているのかそれが聞きたい。
「うーーん……じゃあ仮に私が嫌って言ったら?」
「え? そうしたら……美月をこっちに住まわせる事はしないよ……」
他の方法を考えるしか……でもどうすれば……それに美月になんて言えば……
「ほら、お兄ちゃんは悲しむでしょ? 美月ちゃんにそれを言わなきゃいけない辛い思いもするでしょ? だから私は賛成なの、お兄ちゃんが悲しむ事や辛い事を私がすると思う?」
少し怒ってるような、そんな表情で俺を見る妹……
「うん……そうか……ありがとう」
「ううん、お兄ちゃんが幸せなら私も幸せなの」
「それでも……な」
俺はそう言って妹の頭を撫でる、妹は気持ち良さそうに俺の肩に頭を乗せた。
「でも美月は考えさせてくれってさ」
「ふーーん、相変わらず負けず嫌いだな~~美月ちゃんは」
「そうだよな~~やっぱり一度なんとかするって言った以上やらないと気が済まないんだろうな」
「え?」
「え?」
「ああ、そうか……お兄ちゃん美月ちゃんが誰と戦ってるか知らないんだ」
「え? 向こうの教師とかクラスメイトとかじゃないのか?」
「あはははははは、違うよお兄ちゃん」
「え? 違うの?」
「美月ちゃんはね、自分と戦ってるの、そしてね」
妹は俺を見て凄く嬉しそうに笑った後に悲しい目で俺を見て言った。
「お兄ちゃんの優しさと戦ってるんだよ」
「俺の……優しさ?」
「うん……」
そう言うと妹は目を閉じて俺の肩に再び頭を乗せる。
俺はその意味を、優しさと戦うと言う意味を妹に聞かなかった、いや……聞けなかった。
それは俺自身分かっていたから、いや……分からない振りをしていたから……
俺はただゆっくりと、妹の頭を撫でる事しか出来なかった……
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