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001-3 栞の初恋

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 翌日からお兄ちゃんの調査が始まった……探偵は隣の部屋にいる……

 といっても、お兄ちゃんて本当に友達居ないから、休み時間は教室で本を読んでいる、お昼は本を読みながらお弁当を食べている……


「お兄ちゃん…………寡黙で素敵…………」

 ああ、駄目、お兄ちゃんの何を見ても素敵って思っちゃう……なにか、何か無いの?お兄ちゃんの駄目な所……

 例えば、女性関係とか……お兄ちゃんに彼女が居て、それも複数を同時にとか……

「あれ?栞~久しぶり~どうしたの?お兄さんに用って栞?なんで泣いてるの?!」

「え?泣いてないよ、久しぶり~卒業式以来だね~」
 小学校で同じクラスだった子から話しかけられる。

「う、うん、でも……栞……目から涙が溢れまくってるよ?ゴミでも入ったの?」

「え?あれ?私泣いてる?」

「うん……だかそういってる……大丈夫?お兄さん呼ぶ?」

「だ、大丈夫、目がごみに入っただけだから、じゃいくね、またね~~」
 廊下を逃げるように走って行く…………

「目がごみにって、本当に大丈夫~~?」


「ええええ、なんでええ?、なんで私、泣いてるのおおおお」

 顔を押さえながら走る、涙が止まらない、一体どうなってしまったのか……

 人気の無い階段の下に逃げ込み、自分を落ち着かせる……

「なんで?、お兄ちゃんに彼女がいるって考えただけで……」

 涙が、涙が止まらない、どうしよう、授業が始まっちゃう……
 ここに来て自分がもう、どうしようもなくお兄ちゃんが好きになっている事に気が付き始める、でも私とお兄ちゃんは兄妹……そんな事は認められない……

 そう考えていると、突然後ろから声がかかる

「栞~そこにいるの、栞か?」

 後ろからお兄ちゃんの声が聞こえてきた、ああどうしよう、こんな所見られたら……

「今、教室から栞が見えて、なんか様子がおかしかったから追いかけて来たんだけどって栞どうした?大丈夫か」

 階段下で後ろを向いている私に優しく声をかけてくるお兄ちゃん……ああ、お兄ちゃんの声が私を癒す、でも涙が……笑わなくちゃ、お兄ちゃんにこんな顔見せられない……

 私は袖で涙を拭いて、振り向き、笑顔でお兄ちゃんを見る。

「大丈夫、何でも……」
 目の前にお兄ちゃんの顔……心配そうに私を見つめるお兄ちゃん……駄目、また涙が……
「なんでも、何でもないのおに……、おにいぢゃんんんんん」

「栞!どうした、おい、栞」

「ちょっと、ごべんなざい、ちょっと……」
 ああ、駄目、優しい言葉をかけられれば、かけられるだけ涙が……

 始業のチャイムがなる、辺りから人の気配が消える……


「とりあえず、保健室に行こう、行ける?」

「うん……」
 こんなところに居ても、どうしようもない、幸い保健室は近くだ、お兄ちゃんに手を引っ張っていって貰う、ああ、お兄ちゃんの手……温かくて落ち着く……

 保健室は誰も居なかった、少しホッとする、お兄ちゃんは私をベットに座らせ、椅子を持ってきて私の正面に座る。

「どうしたの?」
 お兄ちゃん問いかけらる、でも何て言っていいのか……言えるわけもない

「な、何でもない……」
 そう答えるしかない、でも優しいお兄ちゃん、人が困ってるのを見ると絶対に助ける、それは私にも一緒、それで納得するはずが無いのは知っている。

「俺じゃ栞の助けにならないかも知れないけど、言ってくれない?」
 優しく私の心配をしてくれる……ああ、お兄ちゃん……私のお兄ちゃん……
 私はお兄ちゃんに悩みを打ち明ける決心をする……でもそのままでは言えない……お兄ちゃんに嘘は付きたくない、心の中でお兄ちゃんに謝り私は喋り始める。

「えっと、あの、えっと、友達が……友達がね……凄く好きな人がいるって、でもその人は好きになっちゃいけない人なの……、それでその人を嫌いになれば良いって、そうしたら、好きって気持ちが薄れてその人を忘れられるんじゃないかって、その事を聞いたら、涙が……」

「……そうか…………栞は優しいね、友達の事で泣いていたのか……」
 お兄ちゃんは納得してくれた、ごめんなさい、友達じゃなく、私の事なの……

 でも……こうなったらお兄ちゃんに聞いてみよう、お兄ちゃんの答えを知りたい、それで私の答えが見つかるかもしれない……

「お兄ちゃん、お兄ちゃんどう思う?その子は忘れた方がいいと思う?」
 私は勇気を出して聞いてみる、お兄ちゃんはどう思うのか、どういう答えを出すのか……

「うーーーん、状況がよくわからないし俺は好きな人っていないし、それどころか付き合った事もないからな~、だから本とか、客観的な知識しかないからよくわからないんだけど……」

「うん……」
 お兄ちゃんは、好きな人がいないし、付き合ってる子もいない…………嬉しい……心が晴れる。

「一つだけ間違ってるのは分かるかな~」
 お兄ちゃんが笑う、凄くいい笑顔で笑う、でも……間違っている?

「何が間違っているの?」
 私がそう訪ねるとお兄ちゃんは言った。


「好きな気持ちを無くすのに嫌いになろうって所がさ、好きの反対は嫌いじゃないんだよ、嫌いになる努力をしても意味がないって所がかな?」

「え?好きの反対って嫌いじゃないの?」
 凄く素朴な疑問だった、好きの反対は嫌いじゃない?、じゃあ……なんなの?

「そうだよ、好きの反対は……、興味がない……嫌いってもう既にその人の事を思っているんだよね、その人の事を思い続けている、もうそれって好きと変わらない気持ちなんだよね、ましては嫌いな所を探すって、もうそれってその人の事が大好きなんじゃない?って」


  興味がない…………ああ、そうか……よくアンチって言葉があるけど……愛するが上のアンチ、その人に直してほしい……そうしたら愛せるのに……っていう事?……

「そしてね、好きになっちゃいけない人なんていないと思うよ、恋人がいたり、奥さんがいたりする人を好きになるってよく聞くけど、好きになるのは悪くないし、その気持ちって大事だと思う、当然相手の気持ちもあるし、それを伝えるかは難しい所だと思うけど、でもその気持ちは変えられないし、好きになるのは仕方ないんじゃないかな?」

「!!!」
 今……今のお兄ちゃんの言葉で……私の中で何かがはじけた、何かが変わったのが分かる……好きになっちゃいけない人なんていない…………これって…………


「って言ってもほとんど本の受け売りなんだけどね~、もうこういう事は経験ないから俺なんかが言っても説得力ないんだけど、でも俺もそう思うんだよね」
 笑顔でそう言うお兄ちゃん……そうか、そうだよね、私わかったよ、私は……

「ううん、そうか……うん、そうだね、私もそう思う!」
 私がそう言い笑うと、お兄ちゃんも笑顔で応えてくれた。


 私はお兄ちゃんが好き、ううん、好きじゃない、大大大好き!!

 これって兄妹愛じゃない……私の初恋……もうずっと前、覚えていない……ずっと前から今まで変わらない私の初恋……



 ####



 また友達と好きな人の会話が始まる、でも私は今凄く楽しい、もう逃げ出したくなくなった。

「ねえ栞ってまだ好きな人居ないの?」

「うん!好きな人は居ないよ!」

「そんな元気よく答えらても……」

「本当に~~なんか最近の栞って変わったよね、こういう話って少し困った表情してるのに最近ノリノリで聞くし」

「そうだよね~好きな人できたんじゃない?もう付き合ってるとか?」
 きゃあああ、と騒ぐ友人達、私は笑顔で答える。

「ううん、いないよ、私に好きな人はいないの」

 今は自信を持って言える、私に好きな人はいない、でももし、大好きな人はいる?、愛してる人はいる?って聞かれたら、私は必ず答える……


 私の大好きな人……私の愛する人はこの世に一人だけ、一生に一人だけ


 私はお兄ちゃんを愛している



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