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24-2 石垣島の夜

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「ごめん!」
 食事の時間になり、ようやく復活した美智瑠がみんなに謝る。

「私がぁ、何も考えないでぇ、波照間島に行こうってぇ言ったからだよ、美智瑠ちゃんは、悪くないよぉ、私こそぉ、ごめんねぇ」

「誰も悪くないよ、美智瑠はもう大丈夫なのか? 無理するなよ」

「ただの船酔いだよ、心配無用だ!さあ、ご飯ご飯、お腹空いた」
 そう言って元気よく先頭を歩く、まあ復活して良かった。

 石垣島最後の晩餐なので、ちょっと奮発してガーデンバーベキューにした。

 肉や野菜等のバーベキューセットが並び、目の前のグリルで焼き、それを席に着いて食べる、それ意外はブッフェ形式でデザート、フルーツ、その他の料理を好きに取りに行く。

 近くにファイヤーピット(焚き火)もあり、虫さえ気にしなければ最高のシチュエーションだ。

「じゃあ俺が焼くから取りに来て」

「えー私がぁやるよぉ」

「お兄ちゃん焦がさないでよー」

「なあなあ、このケーキめちゃくちゃ美味しい」

「えーー美智瑠ちゃん、先にケーキ食べるの」

「ケーキは別バラだから」

「それはぁ、ご飯の後のセリフだよぉ」

「うお、あちい、火が飛んだ」

「お兄ちゃん火傷しないでよーー」

「フルーツも上手いいいい」


 楽しい、ものすごく楽しい食事だった、そして今日が最後と思うと、凄く寂しい思いにもなった。

「美味しかったねー」
「もう終わりかーなんか寂しいな」
「また4人でぇこれたらぁいいなぁ」
「まだ明日1日あるからな」

 食事を終えて、コーヒーを飲みながら4人で話す。

「明日はどうするぅ?石垣島で一番綺麗なぁ川平湾に行くかぁ、それとも買い物するかぁ、ホテル泳ぐかだと思うんだけどぉ、飛行機の時間もあるしぃ、どれかひとつだねぇ」

 相変わらず、麻紗美はみんなを引っ張っていく役割、提案も的確で凄いなと思う。

「うーーん、波照間島より綺麗な海はないでしょ、買い物も空港で充分だし、そう言えばちゃんと泳いでないよね、ホテルのビーチにも結局行ってないし」

「波照間島のビーチは遊泳禁止の場所だったからな」

「じゃ最後はみんなで泳ごう!!」

 そう決めて、それぞれの部屋に戻った。


 部屋に戻り、俺はバーベキューで火照った身体を冷ますべく、ジュース片手にバルコニーに立って外を眺めていた。

 明日帰る準備をすると言って自分の荷物と、甲斐甲斐しくも俺の荷物まで片付けてくれていた妹が、俺の横に来る。

「お兄ちゃん、明日の水着と着替えは荷物の上に置いておいたから」

「ありがとう」

 そう言って妹は俺のジュースをひと飲みする。
 間接キスにはもうなれた、そもそも妹なんだから照れる方がおかしいんだが……

 しばらく二人で遠くに見えるファイヤーピットを眺めていると、妹が神妙な口振りで話し始める。

「麻紗美ちゃんて凄くいい娘だよね、美智瑠ちゃんも元気がよくて明るくて凄く可愛い」

「ああ、そうだな、二人とも学校とは全然違うのな」

「お兄ちゃんさ、二人に告白されて嬉しかった?」
 昨日の夜の告白の件はあの後、誰の口からも出なかったが遂に妹が持ち出してきた。

「まあ、嬉しく無いわけは無いけど、戸惑いの方が大きいよ、なんで俺なんだろうってさ」
 本心から思う、なぜって……

「ふふふ、やっぱりお兄ちゃんは気づいてないんだなー、凄いなー」

「凄い?俺が?」

「そうだよ、無意識に他人を好きにさせるって凄いんだよ」

「それって俺が格好いいからとか」
 無意識に好きにさせるって容姿意外にないだろ、俺自分で思ってるよりイケメン?

「えーーお兄ちゃんは見た目は普通かなー?」

「普通ですか……」
  悪いって言われないだけいいか……

「うん、でもね凄く格好いいよ……」


「なあ栞、前にも聞いたけど、なんで俺の事を好きになったんだ?」

「えーー、わかんない」

「結局それか……」
 前にも何故と聞いたがわからないって答え、いったい何なんだろう?

「わかんないんだけど、好きで好きで好きで好きで、小さい頃からずっと、ずっと、悩んでた、なんでお兄ちゃんの事こんなに好きなんだろうって」

「だからお兄ちゃんの嫌いな所探そうって、ずっと見てたの」

「俺の嫌いなところを探してた……」

「結局、益々大好きになっちゃったけどねー」
 妹はニコニコ笑ってバルコニーに両手をついて外を眺めている。

「うーーん、俺は栞に対しては普通の兄として接してただけなんだけどなー」

「それがね、お兄ちゃんの凄いところなんだよ」

「それが?」

「当たり前の事を当たり前としてやってるんだけど、それで皆を救ってる」

「私友達多いのはそんなお兄ちゃんの真似をしただけ」

「じゃあなんで俺には友達が少ないんだーー!」
 本当にそれならなぜだ、ただ、いないんじゃないんだぞ、少ないんだぞ!


「あはは、それは教えてあげないーーー、だってお兄ちゃん友達増えたら私と一緒にいる時間が少なくなるもん」

「栞は意地悪だなー」

「……うん、そうだね……」

「……あ、いや、そういう意味じゃ」

「ううん、私は性格悪いの……」

「…………」

「あのねお兄ちゃん、美智瑠ちゃんも麻紗美ちゃんもね、物凄くいい子だよ、そしてお兄ちゃんの事を凄く大事に思ってる、私ね、あの二人ならお兄ちゃんに相応しいと思ってるよ」

「私、あの二人ならお兄ちゃんを取られても、多分祝福出来る……」

 そう言って妹は俺を見つめて泣き出す。

「もう、やだなー、最近お兄ちゃんの前で泣いてばっかり」

「栞……」

 ファイヤピットをバックに妹の泣き顔が俺を魅了する。
 美しい、妹の涙も、妹の顔も、その心も、そう思ってしまった。

 俺は妹の涙を指で拭く
 南国の暖かい風が俺たちの雰囲気を盛り上げる。

 俺は両手を妹の頬に添えると妹はゆっくりと目を瞑った。


 そのまま顔が自然と近づく、まるで吸い寄せられるように……

 手から妹の心臓の音が伝わって来るようだ、そしてシャンプーの匂い、妹の目を閉じた可愛い顔、遠くから波の音、視覚、触覚、聴覚、嗅覚、五感の4っつが俺を刺激する。

 そして最後の味覚も……

 俺も目を閉じる、唇に意識が集中する。


 初めての経験、距離がわからないが腕の角度でおおよそは分かる

 鼻が軽く触れると少し顔を斜めにする。

 ああ、ついに……






『ピンポーン、ピンポーンピンポーン』

「ぎゃあ!」
 二人して目を開けると目の前数センチに妹の顔が

 さらにならされるチャイム音

 慌てて妹から離れ、何事かと扉を開けると


「やあ、なにか嫌な予感、あ、いや、夜はまだまだこれからさ、皆で遊ぼう!」
 トランプ片手に美智瑠と後ろに苦笑いした麻紗美がそこにいた。

 俺の後ろから、物凄い怒りの雰囲気が漂っているのは、気付かない振りをして、二人を部屋にいれた。




 あっぶねえええええええええ、美智瑠に心で大いに感謝し、ほんの少しの残念さが俺の中に残った。



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