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22 栞の覚悟
しおりを挟む「ごめんね」
栞はそう言って、涙を指で拭った。
「二人は純粋でいいなって思っちゃった、……私ね悪い子なの、私の心は醜いの……」
麻紗美と美智瑠は栞が何を言っているのか分からない、しかしその真剣な顔から目を離せなかった。
「私ね、お兄ちゃんの優しさを利用したの……、絶対に裏切らないお兄ちゃんの優しさを」
「中学の時に麻紗美ちゃんとお兄ちゃんが、楽しそうに話している姿を見て思ったの、近いうちにお兄ちゃんが誰かに取られちゃうって、……だから私、入学式の前日にお兄ちゃんに告白したの」
「え!!」
二人は同時に声をあげた。
「怖かったけど、お兄ちゃんは優しく受け入れてくれた」
「私ね、すごく嬉しかった、舞い上がってた、でもね、ある時気が付いたの、これってお兄ちゃんの優しさに……つけこんだだけじゃないのって……それに気がついた時に、お兄ちゃんの前から消えたくなるほど、自分が嫌いになった、私の心はどうしてこんなに醜いのって思ったの」
「でも、私にはお兄ちゃんしかいない、私ね友達一杯いるし、友達はみんな大事で大好き、でもねそれはお兄ちゃんと比べたら、私にとっては必要な事ではないの……、もしお兄ちゃんに何かあったら、私、皆を利用する事を躊躇わない、それで皆から嫌われても、ううん全世界に嫌われても、お兄ちゃんが助けられたら、お兄ちゃんさえいてくれたら、他は何もいらない……、そんな自分本位な醜い考えを持っているの」
二人は栞の友人の多さ、その人望の厚さを知っているだけに、そんな物は兄の為なら利用して全てを失っても構わないという覚悟と考えに驚愕した。
「そういう事を思ってるっていうのは、ゆうは知ってるの?」
二人が付き合ってるという事実を聞いて混乱気味の美智瑠は、さらに栞のその考えを聞いて、背筋が凍る思いで聞いた。
「お兄ちゃんには言ったよ、私はお兄ちゃんを利用したの、だから私と別れて下さいって」
栞はその時の事を思いだし、涙が込み上げてくる。
「そうしたらぁ?」
麻紗美が栞の感情の変化に気付き、横に移動し隣に腰をおろして聞く。
「お前と俺とは一生別れられないんだって……、だからこれからは兄妹としてちゃんと付き合うって言ってくれた……」
栞は幸せそうな顔で兄の事を思い微笑む。
「じゃあ、もしだよ、もし僕が……、今最後に言った、皆を裏切ってでもって話しをゆうに話して、ゆうが栞ちゃんの事を怖がって……嫌いになったら?」
美智瑠は、二人が付き合ってると言う事、栞の兄への思いから浮かべた微笑み、兄から貰ったというそのセリフに嫉妬を覚え、先ほど畏怖を感じた事を、いたずら心で何気なく聞いてみた。
「えー?、……そうしたら、わ、わたし、…………死ぬしかないね……」
栞は満面の笑みで、ボロボロと泣き始めた
死ぬと言っても自殺すると言う意味ではない、ただ兄に拒絶される、嫌われると言うのは、栞にとって何も無い世界と同じ、無の世界に行く、死んでいるのと同じという意味であった。
「ご、ごめん!、そんなつもりじゃ……」
その泣き顔を見た美智瑠も泣きながら謝る。
「お兄ちゃんに、お兄ちゃんに嫌われたら、わたし……生きている……意味がない……」
ボロボロと涙が止まらない、必死に堪えようとするが、栞は溢れる涙を止める事が出来ない。
美智瑠は、そんな栞を見て「ごめん、ごめんなさい」と泣きながら謝り続ける。
麻紗美は栞の頭をそっと自分の胸で抱いた。
「大丈夫だよぉ、私達が好きになったぁゆうがぁ、そんな事で栞ちゃんを嫌いになんてぇならないよぉ」
「う、うん、でも、でもお……」
わかっている、わかってはいるが、兄のいない世界に対する恐怖を想像させられ、さらに色々な感情が涙と一緒に溢れてくる。
麻紗美の反対側に美智瑠が座り、抱かれている栞の頭を上から抱き込む
「ごめんね、栞、ごめんね、大丈夫、ゆうは絶対に嫌いになんてならないよ」
栞は泣き止まない、止めようとしてるが、泣き止まない
二人の本気の告白を、兄に対しての本気を感じて、自分も本心をさらけ出し、対抗した。
今まで隠してきた思いを、友達にも、兄にも言ったことがない事まで、自分の内面の全てをさらけ出し、二人に吐き出した。
どろどろと溜まっていた、誰にも言えない思いを自分の外に放出できたが、それによる安堵や、不安、色々な感情が涙になって溢れ出てくる。
「栞ちゃん、そんな事でぇ、泣くなんてぇ、お兄ちゃんのことぉ、信用してないんだねぇ、安心しちゃったぁ、まだまだぁだなぁ」
「そうだよ、僕らにもまだまだチャンスがあるってことだよ」
「うん、ぐふっ、ちがっぐ、ふう、ふえええん」
何かしゃべりたくても声が出ない
「しおりちゃん、言ってぇくれてぇ、ありがとうぅ、でもぉわたしもぉ負けないよぉ絶対にね」
「僕も絶対に負けない!」
「うん、ぐ、わだ、わだしも、私も絶対に負けない、嫌だ、お兄ちゃんを取られるのは絶対に嫌!!」
栞も気力を振り絞り声に出す。
抱かれている頭を少し起こし、涙はまだ止まらないが、話しを続ける。
「でもね、でも、お兄ちゃんが二人を、他の女性を選んで、それがお兄ちゃんの幸せになるなら、私はそれを受け止める、お兄ちゃんの幸せは私の幸せなの……」
「ただ、そうなっても私はお兄ちゃんを諦めない、取られたら、私との方が幸せになるって思ってもらうまで諦めない、結婚しても、子供が出来ても、諦めない、だってその人は他人なんだもん、嫌いになって別れたら赤の他人だよ、でも私とお兄ちゃんは、一生他人にはなれない、一生繋がっていられる、これが私の最大の武器、だから二人は私には一生勝てないの」
栞は最後の気力を振り絞り二人に宣言する、自分が最強だと言うことを。
「うう、そうきたか、いや僕だって死ぬまでゆうと一緒にいてやる」
「私もぉだよぉ、勝負だねぇ栞ちゃん、美智瑠ちゃん」
「うん」
二人が栞を挟み、身体を寄せあい泣きながら抱き合う。
「……あのね、美智瑠ちゃん」
「なんだ?」
「美智瑠ちゃんの胸、骨が当たって顔が痛いの……」
「な、な、な」
美智瑠は離れて、身体を栞に向け両手広げ、見ろとばかりの体勢で言った
「よく見ろ!僕だって、少しくらいはあるんだ、ほらちゃんと見ろー!」
自分の胸をこれ見よがしに見せつける。
「ひいっ!!」
その時入り口から奇声が、三人がその方向を見ると、入浴に来た年配の婦人が3人を見て驚きの表情をしていた。
「だ、だ、大丈夫?」
そのご婦人が心配そうに声をかける。
一瞬何が? と思ったが、状況を見てみると、一人は両手を広げてさあ見ろという体勢、二人は抱き合って泣いている、しかも全員裸で……
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