クラスでカースト最上位のお嬢様が突然僕の妹になってお兄様と呼ばれた。

新名天生

文字の大きさ
上 下
96 / 99

究極のブラコン……

しおりを挟む

 僕は慌てて泉の上から退いた。
 泉はゆっくりと身体を起こすと、そのまま顔も拭かずに正座をする。

 そしてそのまま美しい所作で頭を垂れた。

「お兄様……今、お兄様と呼ぶことをお許し下さい……そして、お兄ちゃんと、比べる様な事を言った事をお許し下さい」
 そう言って手をつき、さらにベットに擦り付ける様に頭を下げた。

 その美しい姿勢に一瞬見とれてしまったが、僕は直ぐに泉の肩を持って抱き起こす。

 泉の顔は僕の涙でグショグショに濡れている。

 僕は慌てて泉の顔を手で拭いた、神妙な顔つきだった泉は僕に顔を触られると再び笑顔になる。

 僕の涙はまだ止まらない……僕は泉の肩を両手で持ちながら言った。

 「ごめん……ご免なさい……悪いのは僕なんだ……泉は全然悪くないから……だからご免なさい」
 そう泉にすがり付く様に謝った。
 心の底から……僕は謝罪した。


「いいえ……お兄様は悪くありません……私が全部」

「違う! ぼ、僕が勝手に……その……泉に恋をして、勝手に諦めて、そして勝手に恨んで、勝手に焼き餅を焼いて……最後に泉を……だから僕が全部悪いんだ……僕が」
 そう言って泉の肩を持ちながら、僕は顔を伏せた。これ以上泉の笑顔を見れなかった、見る資格はないと思った。そして、手を離すとまた泉が頭を下げてしまうから……。

 すると泉は、僕の押さえている手に構わず僕ににじり寄り、僕の頭を抱くそのまま自らの胸に抱き寄せた。

「え……」

「お兄様……泣かないでください……」
 そう言って僕の頭を抱くとそっと髪をなでてくれる。
 髪を、頭をそっと撫でてくれる泉、僕は泉の匂いと泉の胸の感触に包まれる。
 
 まるでお母さんに抱き寄せられている様な、そんな甘い感覚に襲われる。
 
「だ、駄目だよ……離して……」
 ずっとこうしていたい、ずっとこうして欲しい、そんな欲望を抑え泉に離すように言った。今、僕はこんな事をして貰える立場じゃない、そんな人間じゃない……泉を襲おうとした悪人なのだから……。

「お兄様……嫌ですか?」

「……嫌じゃない、でも……僕は泉にこんな事をして貰える人間じゃない……」

「じゃあ……駄目です」
 泉はそう言うと、さらに僕の頭を強く抱き締めた。

 セーターから伝わる泉の鼓動……はるかに昔……そう、生まれる前に母親の胎内で聞いた様な気がしてくる……。

 トクントクンと泉の鼓動が少しずつ早くなる……僕はそのまま何も言えず、泉にされるがままに抱かれていた。

 そして……どれ程の時間が経ったのだろうか……泉がそっと僕の頭を離す。
 いつまでもこうしていたい……なんならこのまま死んでしまいたいとさえ思い始めた直後、僕の頭はようやく泉に解放される。
 
 少し残念な気持ちになっていると今度は泉が僕に抱きついて来た。

「……え?」
 僕の背中に手を回し僕に抱きつく泉……一体何が起きているのか?
 頭だけでもどうにかなりそうだった泉の感触、今度は泉の柔らかさが身体の前面に伝わる……。

「お兄様……嬉しい……」

「え? な、何が?」

「私を好きと言ってくれて……嬉しい……」
 いずみはそう言って僕を抱き締める……え? どういう事?
 僕は分けがわからずパニックに陥る……。

「嬉しい?」

「はい! 初めて言ってくれました……凄く嬉しい……」

 言ってなかった? まあそうだよね……だって泉の好きと僕の好きは違うのだから……。

「私も……お兄様の事……大好きです!」
 泉は僕にそう言うが……僕はそれを素直に受けとる程バカではない。そしてもう、ここに来てそれを誤魔化す程、鈍感でもない……。

「──違う……違うんだ……僕は……泉を……泉の事を……家族としてじゃなく……好きなんだ、兄妹としてじゃなく好きなんだ……兄妹になる前からずっとずっと好きだったんだ……」
 言ってしまった……遂に言ってしまった……。

 僕が泉に抱かれながら、泉の耳元でそう言うと……泉の腕の力が、僕を抱いていた力が緩む。

 そしてゆっくりと泉が離れて行く……。

 ほらね……泉は今キモいって思ったに違いない、兄妹愛ではないって宣言してしまった僕を、そんな奴と一緒に暮らしていた事を……カースト底辺の人間から毎日そんな目で見られていた事を、そんな思いで一緒に、近くにいた僕の事を……気持ち悪いって、そう思ったに違いない……。

 終わった、僕と泉のあの生活が……あの甘い生活が……終わった……終わってしまった。

 無くなるとわかる……あの生活はよかった……。

 家に帰ると誰かが居る……ご飯を一緒に食べてくれる人がいる……美味しいご飯を作ってくれる人がいる……。
 そしてそれが、僕の最も愛する人だった。

 そう……僕は泉に甘えていたんだ……泉の優しさに……甘えていた。

 そして……それはもう……。

 ゆっくりと泉は僕から離れて行く……そしてその顔は…………あれ?

 何こいつ気持ち悪い……という顔を想像していた僕は、泉の顔に、表情に、そしてその表情から出て来た言葉に……困惑した……。

「お兄様? 兄妹としてと、それ以外と、どう違うのですか?」
 泉は……首を傾げ、不思議そうな表情で僕を見てそう言った。

「……いや、兄妹で好きって、家族としてって意味だから……僕の好きとは違うって……」
 あれ? 僕……何か間違った事言ってる? 

「ええ、お兄様は最愛の人ですからそれ以上はないです……けど?」

「へ?」

「え?」
 いや、なんだ? 話が噛み合わない……えっと……じゃ、じゃあ……。

「いや、えっと……あ、じゃあ泉のお兄さん……亡くなったお兄さんと僕じゃあ愛する度合いが違うよね? だからそれと……」

「いえ、同じです、同じお兄様ですから、小さい頃からお兄ちゃんと呼んでいたので呼び方が違うだけです」
 泉はきっぱりとそう言った……へ? 同じ? いや、っていうか……。

「あの……泉って……その、好きな人って今まで……いた?」

「はい! お兄ちゃんとお兄様です!」

「……えっと……じゃあ……僕がお兄様になる前は?」

「クラスメイトですね」

「…………つまり兄妹になって好きになったって……事?」

「はい……お兄様ですから……お兄様……大好き……大好きな……お兄様……」
 泉はあの初めての食事会の時と同じ顔に、表情に、目になった……ポーーっと頬を赤らめ、うるうるとした目で僕を見つめる。

 そして僕はその泉の表情を見て、一つの言葉が頭に浮かんだ……。

 『究極の……ブラコン……』
 泉の中で兄と言うのは究極の存在……愛情も何もかもカンストしてしまう程の……。
 つまり……泉にとっての兄とは、僕がメイド様を無条件で好きになるのと同じ、いや、恐らくそれ以上の存在になるって事のようだった……。

 つまり僕は今、泉に……究極に愛されている……って事になるわけで……。
 
 これって……僕は……どう反応して良いのだろうか? 喜ぶ事なのか? 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私の推し(兄)が私のパンツを盗んでました!?

ミクリ21
恋愛
お兄ちゃん! それ私のパンツだから!?

マッサージ

えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。 背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。 僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...