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傷と絆
しおりを挟む今、僕の下に泉がいる。
ベットに横たわり目を閉じる泉……僕はそれを上から見ていた。
雲の上の人、天上人……カーストトップ……クラスの……いや、学園のアイドル。
僕なんかに手の届く様人ではなかった……足元にさえ近寄る事も許されない神の様な存在の人だった。
それが今……地上に降りて来る所か、さらに下……底辺所か最下層の僕のベットの上で横たわり、僕に組伏せられている。
今僕は神を、女神をてに天使を、泉を征している……あはははは、笑っちゃう……クラスカーストのトップがカースト最下位に押し倒されているのだから。
そう今なら……何でも出来る……この天使に何でも出来る……僕の妄想が汚い妄想が何でも実現出来る……。
泉の肩に手をかけたまま、僕は泉に跨がった。そして……そのままゆっくりと身体を、顔を近付ける……。
僕の身体が乗っても、顔が近付き吐息がかかっても、泉はピクリとも動かない、まるで眠っているかの様に目を閉じたままでいる。
目を瞑る泉の顔がどんどん近付く……ベットに散らばる泉の髪の毛……キラキラと輝く黒い絹糸が辺りに美しく広がっている…………こんなにも近くで見た事はない泉の顔……。
長い睫毛、整った鼻……ふっくらとした小さな下唇。
改めて思う……天使の様な美しさ……だって。
絶対に手に入らない物が、今、僕の目の前にある……すぐ目の前に……全てが、今まさに手に入る。
僕は今から妄想を実現する………………いや、僕ってこんな妄想なんてしていたっけ?
実現? 何を?
あんなにも興奮していたのに、全てが手に入るって思っていたのに……そう考えた瞬間スッと現実に戻った。
妄想……。
僕の頭の中にはずっと泉がいた……中学からずっと3年以上の片思い……ずっとずっと泉の事を思い、妄想していた。
手を繋ぐ、メイド服を着せる。
デートもした……キスもした……もっとエッチな事だって……。
でも……こんな……こんな事……想像もした事無かった……こんな泉を……傷付けるような事……傷付ける……そう……僕は今……泉を傷付けている。
僕は今までずっと傷ついて生きてきた……ううん違う……傷ついていない振りをして生きてきた……。
でも……カースト上位達からの蔑んだ目……クラスからいつも感じる誰こいつって視線……ずっとずっと傷付いていた。
だからって、それを仕返ししてやろうなんて……思った事は無い……。
そして泉は……泉は一度として……僕を蔑んだりはしなかった……そんな目で僕を見たりはしなかった……。
「ご……ごめんなさい……ご……ごめん……」
そう考えたら、泉を傷付けているって考えたら、ボロボロとまた涙が落ち始める……泉の顔に僕の涙が降り落ちる……。
泉の綺麗な顔に……僕の汚い涙が……ポタポタと落ちていく。
駄目だ、こんな汚い物……泉の顔に……綺麗な顔に、僕の天使に……。
顔に落ちる自分の涙を必死で拭き取る、トレーナーの袖で何度も……でも……どんどん落ちる涙……いくら拭いても止まらない……。
そして……泉は……ゆっくりと目を開けた……。
僕は恐ろしくなった……押し倒した僕はどんな目で見られるのか……憎しみ、怒り、脅威、泉は僕をどんな目で見るのか……って……そう考えただけで恐ろしくなった。
もう僕は泉に……嫌われている……こんな事したら憎まれても仕方ない。
泉に嫌われる……そんな恐ろしい……そんな悲しい事を、僕は今してしまっている。
謝って済む問題じゃない……それはわかっている……。
「ごめん、ごめんなさい……」
僕は謝った……泉にそう呟いた……こんな事で許して貰える筈はない……でもそう言わないと気が済まなかった。
泉はどんな恐ろしい目で、どんな表情で僕を見るのか……もう泉に今までの様には見て貰えない……あの笑顔は二度と見れない……僕はそう思った。
でも……涙ではっきりとは見えなかったが……泉の目は……笑っていた……いや、それどころか僕を慈しむ様な……そんな目だった。
いつもの、いつも僕を見ている……目だった。
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