81 / 99
危うく全てを手に入れる所だった……。
しおりを挟む妹と一緒に寝ながら手を繋いだ……暖かい手……柔らかい手……僕はその手をギュッと強く握る。妹も握り返してくれた。
一緒のベット……一緒の布団……一緒に寝ながら手を繋ぐ。
もう僕はドキドキしない……だって……これ以上は無いんだから……。
恋人ならこの後どうなるんだって、ドキドキするだろう。一緒のベットに寝てそして手を繋ぐ……この後どうすれば良いのかって悩むだろう……抱き合うのか? キスするのか? それとも……もっと凄い事だって……。
でも僕と泉は……いや、妹は……兄妹なんだ。だから、これ以上は無い……。
安心して目を瞑る。一緒に寝て手を繋いだまま目を瞑る……目を瞑ると僕の頬に冷たい物が流れた。
なぜだろう……欠伸もしていないのに涙が出た……。
暫くすると隣から「スーースーー」と寝息が聞こえて来る。
ああ……やはり……妹は僕の事を男として認識していない……妹なんだから当たり前か……。
完全に理解した。そうなんだ……始めから僕はこれ以上近付け無かったんだ。
中学受験の時知り合ってからずっと近付きたかった……でも泉はクラスカーストの最上位、僕はカースト最底辺……この距離は変わっていない……どんなに近付いてもこの距離は全く変わっていない……今でも、この時でも……。
僕が今、泉の側に居られるのは……兄だからだ。泉の兄としてなら側に居られるんだ。泉の死んだ兄の代わりとしてならば……カーストの距離はなくなる。
僕が僕で無くなれば……その距離は無くなる。
だから僕は泉の前では僕を捨てると決めた。これからは泉の死んだ兄として、代わりとして生きていく……僕が泉に認識されるのはそれしか無いから……カーストの距離を無くすにはそれしか無いから。
泉の死んだ兄に代わる為に今、僕は自分を殺した……そう……今、僕は死んだんだ。
さっきからボロボロと涙がこぼれる。僕は妹と繋いでいる逆の袖で溢れる涙を拭った。
僕の初恋は、告白もなく……終わり、僕は……僕自身を今……殺した……自殺した。
でも……これでいい……これでずっと一緒に居られる。ずっと家族で居られる。
これで泉の兄になれるんだ。ずっと一緒に居られるんだ。
それが泉にとって、妹にとって一番なんだ……。
そして僕達は……今…………本当の兄妹になった……。
◈ ◈ ◈ ◈
翌日目を覚ますと既に泉はいなかった……僕はいつの間にか眠っていた。高そうな厚手のカーテンの為外が明るいのか暗いのかわからない。
僕はどれくらい眠っていたのだろうか?
とりあえずベットの上で身体を起こし暗い部屋を見回し時計を探す。
「……おはようございます」
キョロキョロしていると扉の前から声が聞こえた。薄暗い部屋、扉の方向に目を向けると……メイド服姿の人が立っているのに気が付く。
いつからそこに居たのか? そしてこの声とメイド服のシルエットで僕はその人物が誰だか直ぐにわかった。
「安桜さん?」
「……はい……おはようございます、こんなに暗いのによく私だとお分かりになりましたね? 声ですか?」
「あ、うん……声よりもメイド服の着こなしでわかる」
「…………お着替えのお手伝いに参りました」
安桜メイド長様は僕の言葉を無視し電気を点灯した。起きるまで待っていたのだろうか?
しかし……ああ、今日も素晴らしいメイド服……あの着こなし……最高だよ…………え? 誰が昨夜自分を殺したって? いや……泉の……妹の前じゃないから良いんだよ、ああ、メイド様最高! これだけはこの思いだけは死ない。
「……着替えって?」
「はい……ご朝食前に奥様がお話したいそうなので……」
「お婆さんが?」
そう言って僕は慌ててベットから立ち上がるとメイド長様は僕の目の前まで歩いて来るなり僕の着ているパジャマのボタンを外そうとした。
「えええええ! な、何を!」
「お着替えのお手伝いです。宜しいですか?」
「いや宜しく無い、やるから、自分で出来るから!」
僕はメイド長様が持っている服を奪い取る。
「あら……乱暴ですね…………お嬢様にはお優しいのに」
「え?」
「……昨夜はご一緒に寝られた様で……仲の良いご兄妹でいらっしゃいますね」
「!! いや……えっと……!」
メイド長、安桜さんの顔を見上げると口元は笑っていた……しかし目は笑っていない……いやそれどころか凄惨と言える程の顔をしていた。
「……お嬢様とどういう関係なのか……お聞かせ願いますか? ……それによっては」
「……よ、よっては?」
僕はごくりと生唾を飲んでその答えを訪ねる。
そう言うとメイド長様は今度は満面な笑顔で持っていたネクタイを両手でピンと張った。
「夕食に七面鳥料理が1品増えます……」
「…………」
死刑執行来たーーー! よ、良かった……泉に何もしないで……昨夜自分を殺しておいて……本当に良かった。
僕は危うくメイド様に絞め殺され今夜の食卓に並ぶ所だった。
誰だある意味本望だろって言った奴! 僕も少し……そう思ったぞ!!
0
お気に入りに追加
144
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる