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失恋
しおりを挟む「…………私のせい……いえ……お兄ちゃんが死んじゃったのは私の……せい……私がお兄ちゃんを殺したんです」
「こ、殺した?」
薄暗い部屋、目の前で横たわる泉……その顔は冗談を言っている様には見えなかった。
「はい……私のせいでお兄ちゃんは死んだんです」
僕は半身起き上がると泉に向かって言った。
「……嘘だ」
泉は……僕の好きな泉はそんな事をする人じゃない……。
「嘘じゃない……です……」
泉も身体を起こし僕に向かってそう言った。薄暗い部屋、泉の顔がぼんやりと見える。
「嘘だ……僕にはわかる……」
泉の表情を見ればわかる……泉は無理にそう思う様にしているって、僕にはわかる。
「お兄様……ううん……真君……ごめんなさい……私はこの罪悪感を少しでも軽くしたい為にお兄様を欲したの……もうお兄ちゃんに返す事は出来ない……出来る事なら私の全てを捧げたい……でも……それはもう出来ない……真君は何も関係無いのに……私は……」
「泉……」
正式に兄妹になってから泉が初めて僕の名前を呼んだ気がする……初めて僕の顔を見た気がする……そうなんだ……泉はずっと僕の事を見てなかった……僕の背後にはいつも泉のお兄さんがいたんだ。
僕はそれに気が付いてしまった。泉は初めからクラスメイトになった時から、いや、初めて出会ったあの試験の日から……僕の事なんて見てなかったんだ……。
でも……あの明るいいつも明るく誠実で真っ直ぐな泉の裏が今、初めて見えた気がする……そして今、泉は初めて僕を、僕自身を見てくれた気がする。
そう思ったら愛しいって気持ちが僕の中から溢れ出す。恋しいではなく愛しいだ……兄妹愛……家族愛……僕が幻想の母親に抱く気持ち……それと同じ、いやそれ以上の感情が溢れ出す。
彼女を救いたい、泉を救いたい……妹を……僕は救いたい。
僕は泉をそっと抱いた……妹をそっと抱いた……。
「お……お兄様……」
「泉……僕は……君の事が好きだった……ずっとずっと前から好きだった……だから泉と兄妹になった時……正直複雑な気持ちだった……泉にお兄様と呼ばれても僕は自分が泉の兄って思わなかった……ううん……思えなかった……思いたくなかった」
「お兄様……」
「でも……今からは違う……僕は泉のお兄ちゃんだ……正真正銘お兄ちゃんだ……だってそうなんだから、僕たちは兄妹なんだから……だから……僕は今から泉のお兄ちゃんになる……理想のお兄ちゃんになる……」
「本当の……お兄ちゃん…………良いの?」
「良いのも何も……実際そうなんだから……だから泉のしたい事全部してくれて良いよ……泉がお兄ちゃんにしたかった事……全部……僕はそれを受け止める……」
「ふ……ふえ……ふええええええん、うええええええええええん、おに……お兄ちゃんんん、ご、ごべん、ごめんなざああああああい、うええええええええええん」
泉の身体の力がふいっと抜ける。手はダラリと下に下がると同時に泣き声を上げた。
「……よしよし……」
僕は泉の背中を軽くポンポンと叩く……。泣いている赤ん坊をあやす様にポンポンと叩く。
「うわああああああああああああん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、おにいいいいいちゃああああああん」
理由はわからない……泉が殺したわけは無い、ただ何かしらの原因はあったのだろう……僕はそれを聞くつもりは無い……聞いた所で意味は無いのだから。
「うわああああああああああああん」
僕は母親を知らない……物心つく前に死んでしまったから……もし今だったらこうやって泣くのだろうか?……それはわからない……ただひとつだけわかる事は、もしこうやって泣ければ……少しは楽になれると思う……だから泉が泣いてくれて、僕の胸で泣いてくれて……凄く嬉しい……僕達は兄妹なんだから……血は繋がっていなくても兄妹なんだから……家族なのだから……。
頼って欲しい……兄としてもっともっと頼って欲しい……
泉に頼られる為に僕は頑張る……今、心からそう思った。
さっきまでいた悪魔はもうすっかりいない……恋愛感情はもう全く無い。
今僕は泉の理想の兄に近付ける様にとただ思うだけ……もう後悔はしない……僕は泉の兄になろうって……今はっきりと決めた。いや……違う……理想には程遠いけど……僕はもう……泉のお兄ちゃんだ。
僕は泉が泣き止むまでずっと泉を抱き締めた……妹を抱き締めた……今までとは違う……もう僕の中で変な感情は全く沸き上がらない……ただただ愛しいだけ……妹に向ける感情というのはわからない……でも少なくとも僕の中ではさっき迄とは全く違う思いに変わっている。
恋から愛に変わっている……。
そうか……これが愛なんだ……家族愛なんだ。
僕は泉を愛している……心から愛している……今はそう断言出来る。
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