クラスでカースト最上位のお嬢様が突然僕の妹になってお兄様と呼ばれた。

新名天生

文字の大きさ
上 下
80 / 99

失恋

しおりを挟む

「…………私のせい……いえ……お兄ちゃんが死んじゃったのは私の……せい……私がお兄ちゃんを殺したんです」


「こ、殺した?」
 薄暗い部屋、目の前で横たわる泉……その顔は冗談を言っている様には見えなかった。

「はい……私のせいでお兄ちゃんは死んだんです」

 僕は半身起き上がると泉に向かって言った。

「……嘘だ」
 泉は……僕の好きな泉はそんな事をする人じゃない……。

「嘘じゃない……です……」
 泉も身体を起こし僕に向かってそう言った。薄暗い部屋、泉の顔がぼんやりと見える。

「嘘だ……僕にはわかる……」
 泉の表情を見ればわかる……泉は無理にそう思う様にしているって、僕にはわかる。

「お兄様……ううん……真君……ごめんなさい……私はこの罪悪感を少しでも軽くしたい為にお兄様を欲したの……もうお兄ちゃんに返す事は出来ない……出来る事なら私の全てを捧げたい……でも……それはもう出来ない……真君は何も関係無いのに……私は……」

「泉……」
 正式に兄妹になってから泉が初めて僕の名前を呼んだ気がする……初めて僕の顔を見た気がする……そうなんだ……泉はずっと僕の事を見てなかった……僕の背後にはいつも泉のお兄さんがいたんだ。

 僕はそれに気が付いてしまった。泉は初めからクラスメイトになった時から、いや、初めて出会ったあの試験の日から……僕の事なんて見てなかったんだ……。

 でも……あの明るいいつも明るく誠実で真っ直ぐな泉の裏が今、初めて見えた気がする……そして今、泉は初めて僕を、僕自身を見てくれた気がする。
 
 そう思ったら愛しいって気持ちが僕の中から溢れ出す。恋しいではなく愛しいだ……兄妹愛……家族愛……僕が幻想の母親に抱く気持ち……それと同じ、いやそれ以上の感情が溢れ出す。
 彼女を救いたい、泉を救いたい……妹を……僕は救いたい。


 僕は泉をそっと抱いた……妹をそっと抱いた……。


「お……お兄様……」

「泉……僕は……君の事が好きだった……ずっとずっと前から好きだった……だから泉と兄妹になった時……正直複雑な気持ちだった……泉にお兄様と呼ばれても僕は自分が泉の兄って思わなかった……ううん……思えなかった……思いたくなかった」

「お兄様……」

「でも……今からは違う……僕は泉のお兄ちゃんだ……正真正銘お兄ちゃんだ……だってそうなんだから、僕たちは兄妹なんだから……だから……僕は今から泉のお兄ちゃんになる……理想のお兄ちゃんになる……」

「本当の……お兄ちゃん…………良いの?」

「良いのも何も……実際そうなんだから……だから泉のしたい事全部してくれて良いよ……泉がお兄ちゃんにしたかった事……全部……僕はそれを受け止める……」

「ふ……ふえ……ふええええええん、うええええええええええん、おに……お兄ちゃんんん、ご、ごべん、ごめんなざああああああい、うええええええええええん」

 泉の身体の力がふいっと抜ける。手はダラリと下に下がると同時に泣き声を上げた。
「……よしよし……」
 僕は泉の背中を軽くポンポンと叩く……。泣いている赤ん坊をあやす様にポンポンと叩く。

「うわああああああああああああん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、おにいいいいいちゃああああああん」
 理由はわからない……泉が殺したわけは無い、ただ何かしらの原因はあったのだろう……僕はそれを聞くつもりは無い……聞いた所で意味は無いのだから。

「うわああああああああああああん」
 僕は母親を知らない……物心つく前に死んでしまったから……もし今だったらこうやって泣くのだろうか?……それはわからない……ただひとつだけわかる事は、もしこうやって泣ければ……少しは楽になれると思う……だから泉が泣いてくれて、僕の胸で泣いてくれて……凄く嬉しい……僕達は兄妹なんだから……血は繋がっていなくても兄妹なんだから……家族なのだから……。

 頼って欲しい……兄としてもっともっと頼って欲しい……
 泉に頼られる為に僕は頑張る……今、心からそう思った。

 さっきまでいた悪魔はもうすっかりいない……恋愛感情はもう全く無い。

 今僕は泉の理想の兄に近付ける様にとただ思うだけ……もう後悔はしない……僕は泉の兄になろうって……今はっきりと決めた。いや……違う……理想には程遠いけど……僕はもう……泉のお兄ちゃんだ。

 僕は泉が泣き止むまでずっと泉を抱き締めた……妹を抱き締めた……今までとは違う……もう僕の中で変な感情は全く沸き上がらない……ただただ愛しいだけ……妹に向ける感情というのはわからない……でも少なくとも僕の中ではさっき迄とは全く違う思いに変わっている。

 恋から愛に変わっている……。

 そうか……これが愛なんだ……家族愛なんだ。

 僕は泉を愛している……心から愛している……今はそう断言出来る。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

私の推し(兄)が私のパンツを盗んでました!?

ミクリ21
恋愛
お兄ちゃん! それ私のパンツだから!?

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...