クラスでカースト最上位のお嬢様が突然僕の妹になってお兄様と呼ばれた。

新名天生

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天国からの贈り物

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 僕には母さんの記憶がない……
 物心ついた頃には既に母さんはお墓の中にいた……僕は母さんの優しさも温もりも愛情も感じる事はできなかった。僕は写真でしか母さんの事を知らない。

 それでも、ここに居たという事実は知っていた。母さんがこの世に居たという証拠が……母さんがこの世に居たという、母さんの場所がこの家にあった。

 厳密に言えば、そこに居た事は無い、でもこの世に居たという事が分かる場所がある。

 家の2階ガランとした一室、そこは母さんの部屋になる予定だった。

 僕が大きくなったら絵を描きたい、そんな部屋が欲しいって病院のベットで言っていたらしい。
 
 新築したての家、父さんは寝室に使う予定だった部屋を空け、母さんのアトリエとして、母さんの部屋として使う準備をし、幼い僕と母さんの帰りを待っていた。

 でも……母さんは新しく出来た家に帰る事なくその短い生涯を終えた。

 それから十年以上、その部屋はガランとした空き室になっていた。僕も父さんもそこに母さんが居るって思い、部屋の掃除だけはきっちりとやり、ずっとそのままにしていた。

 僕は小さい頃寂しくなると部屋から毛布と枕を抱えこの部屋に来ていた。ここで寝るとほんの僅かだけど、母さんの温もりを感じる事が出来たからだ。

 その母さんの部屋が、すっかりと変わってしまった。泉の部屋に変わってしまっていた。

 何も無い部屋だったのに。ついこの間迄は……今はそこに机やタンス等運ばれ、すっかり泉の部屋になってしまっていた。

 ショックだった……母さんの部屋が無くなった事が、そしてそこに泉の物が運ばれている事が、そして……それをショックと思った自分に対して。

「お兄様?」

「あ、うん」

「入られないのですか?」

「あ、うん、えっと……今日はいいかなって」

「……え? 私の部屋に何かお気に召さない事でも?!」
 泉の顔が困惑の表情に変わった。そうだよね、そりゃそう思うよね、そもそも入りたいって言ったのは僕の方からだったし……

「いや、そう言うわけじゃ……」
 でも、でも足が動かないんだ……部屋に入るのが怖いんだ……これで入ってしまったら、僕の中にいる母さんが、完全にいなくなってしまいそうで……

「お、お兄様……お顔が真っ青……ご気分でも悪いんですか?」

「え? あ、いや……」

「お兄様……」

「……」
 僕はその場に立ち尽くしてしまう。泉の部屋に入る事も出来ずに……

「──お兄様は……ズルいです……」

「ズルい?」

「……はい……私の事が知りたいとおっしゃって、私が何も言わないからって……全部私のせいにして……でも……でもお兄様だって、お兄様だって私には何も言って下さらないじゃないですか……私だって、私だってお兄様の事をもっと知りたいのに……」

「……あ……え、えっと……」
 
「お兄様……私達は形だけの兄妹なんでしょうか?」
 僕を見る泉の瞳が潤んでいる……僕達はまだ正式に兄妹になったばかり、でもお互いに家族になろうって思っていた……思っていた筈……泉はそう思っていた筈……でも、でも僕は……本当にそう思っていたんだろうか?

「そ、それは……」

「お兄様、なんでもおっしゃって下さい、私出来る限りの事を致します。私達は家族なんですから、これから……ずっと一緒にいるんですから」

「……ずっと…………うん……」

「では、お兄様がどうして私の部屋を見て、そんなに寂しいお顔をされているか教えて頂けるんですね?」

「え!」

「お兄様、私だってそれくらいわかります。もう何ヵ月一緒にいると思ってるんですか?」

「い、泉……」

「…………お母様……ここはお兄様の亡くなったお母様のお部屋って前に聞きました……それでですか?」

「い、いや、そんな」

「お兄様! もう遠慮はしないと言った筈では?」

「──あ……うん……で、でも違うんだ、この部屋を泉が使う事は全然良いって思っていたんだ。でも……こうやって実際見ると、ショックで、これをショックって思っている自分の事がショックで……ああ、もう僕は何を言っているんだ」

「お兄様……」

「ご、ごめん……」
 僕がそう言うと泉は部屋の中から数歩歩き、扉の前に立ち尽くしている僕の前に来ると、そのまま僕の事をそっと抱きしめって!!

「え、ええええええええええ!」

「──お兄様……」
 泉が僕を正面から抱きしめる。柔らかい感触が僕の身体の正面から襲って来る。泉の物凄くいい香りで脳が蕩けそうになる。でも、でもそんな物よりも、もっと凄い物が僕の中に入ってくる。泉の優しさが温もりが愛情が、僕の身体に伝わって来る。

「い、泉……」

「お兄様……」

「泉! 泉! いずみいいいいいいいいい!!」
 僕は泉を抱きしめ返した。泉からもっと伝えて欲しかったから、僕はおもいっきり泉を抱きしめた。僕の求めていた物、僕の欲していた物、それが泉から伝わってくる。
 
 泉はやっぱり天使だった……天国から来た天使だった。僕の母さんが僕に贈ってくれた天使だった。



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