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泉の部屋
しおりを挟むとりあえずお尻ペンペンは回避した……僕のお尻を泉が叩くシーンなんて本当誰も得しないからね……見たくないよね?
「そうですか……お兄様は今まで特に何も聞かれなかったので、私の昔の話なんて興味無いとばかり……」
「そ、そんな事ない! 僕は泉の事をもっと知りたいって前から思ってて、兄妹になる前から……」
「お兄様……」
「言いたくない事とかあるかも知れないって今まで遠慮してた……けどそれって家族じゃない気が、遠慮してたら兄妹じゃない気がするって思う……だから」
家族だって隠し事くらいする。でも……僕と泉の間には歴史が無い。幼い頃から一緒に居たわけじゃない。多分だけど、他人が家族になるには時間が、歴史が、思い出が必要なんだと思う。例えば妹と生まれてから一度も合った事が無ければ恋にだって落ちるかも知れない。逆に幼なじみとずっと一緒に居たら、家族なってしまって恋に落ちる事が無くなるかも知れない。結婚したら家族だけど、やっぱり本当の意味で家族になるには時間が必要って思う。
「わかりましたお兄様、そうですね、家族で遠慮してては駄目ですよね、でも……何からお話すれば、お兄様は私の何が知りたいのですか?」
「あ、うん、えっと……」
死んだお兄さんの事……なんて聞けるわけないよね……僕は泉がここでで泣いていた事を思い出す。
「お兄様?」
「えっと……そうだ! 泉の趣味とか、あと、いつも部屋で何をしているのかなって思う…………時が、たまに、たまーーーにある」
夕食を食べ終わって部屋に戻るといつも泉の事を考えていた。今何してるのかなって毎晩思ってた……でも毎晩とかキモいって言われるかも知れないから、僕はたまーーーにって誤魔化した。
「ああ、そうですね、そういえば正式にここに引っ越してきて、私のお部屋にお兄様が入られた事ってありませんでしたね」
「あ、うん」
「では参りましょうお兄様」
「え? 今?」
「はい、お兄様をお部屋にご招待致します~~ああ、もっと早く言ってくれれば良かったのに」
泉はそう言うと僕の手を取り部屋に向かう。え? 本当に良いの? 普通直ぐにとか嫌がるんじゃない? そんな事はお構い無しとばかりに僕の手を取り部屋に向かう。まだ僕の足が若干不自由なのを気にしてくれているのか? そのまま腕を組む泉、最近はずっと腕を組んでくれるけど、いつまで経っても慣れない……腕に伝わる泉の胸の感触が……柔らかい感触があああああ。
というか、良いの? このまま部屋に行って……だってさっき泉は言ったんだ、僕の命令は絶対だって……泉の部屋に二人きり……僕は耐えられるのか? いや、そもそも耐える必要ってあるの? 泉は義理の妹、勿論血は繋がっていない。憧れていた大好きな女の子が今僕の隣に居る、僕の言うことはなんでも聞いてくれる……
「お兄様? 何をニヤニヤしているのですか?」
「え? あ、いや、えっと……泉の部屋に入れるから……かなぁ?」
「そんな大袈裟ですよ、兄が妹の部屋に入るだけですよ?」
「…………だけ?」
「はい! お兄様」
「だけ……」
だけ……入るだけ……
僕のいやらしい考えを見抜いたわけじゃないだろうけど完全に機先を制された。まさか僕の考えなんてお見通しなのか……いや、さすがに……でも……
いや、まあ……そもそも妹にいやらしい要求なんて駄目だろ……例え義理でも駄目だろ。
僕は自分自身に、その考えにそう言い聞かせた。よし、大丈夫僕は泉に変な事はしない! そう誓う…………うう……
「さあ、お兄様どうぞ~~」
部屋の前に着くと泉は僕の腕から離れニッコリ笑いながら躊躇無く部屋の扉を開けた。
泉によってゆっくりと開かれる扉、その先には豪華な部屋が……お嬢様の部屋が……あるはずもなく、普通の女の子の部屋が……
「どうぞ、遠慮なさらず入って下さいお兄様」
「……あ、うん」
僕は泉にそう言われても直ぐに入る事が出来なかった。
なぜなら、部屋を見て……ショックだったから……泉の部屋を見てショックだったから。
泉の部屋が普通の部屋だった……からではない……その部屋は間違いなく女の子の部屋、愛真の様なピンクの可愛い部屋では無いが、間違いなく女の子の部屋……そしてそれを、泉の部屋を見た瞬間、愛真の部屋でも、凛ちゃんの部屋でも思わなかった思いが僕の心を駆け巡った。
まさか……そんな事を感じるなんて思いもしなかった。
泉のせいじゃ無い、誰のせいでもない、仕方の無い事……でも僕はその気持ちを整理出来なかった。
母さんの部屋が、死んだ母さんの部屋が、何も無かった母さんの部屋が……すっかり泉の部屋になっていた事に……僕はショックを受けていた。
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