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生まれて初めて?
しおりを挟む凛ちゃんは真っすぐに僕を見据えている。僕は凛ちゃんに何か言わなければいけない……僕の事を考えて言いたくもない事を言ってくれた凛ちゃんに、きちんと応えなければいけない。
「ごめん……ごめんなさい」
僕は振り絞って声を出し凛ちゃんに謝罪した。自分の考えの甘さに、なにかと言えば凛ちゃんを頼る情けなさに、そしてそれを僕に伝える為、誰も入れたことの無い部屋に初めて僕を入れてくれた事に対して。
「──うん……人はね、私もそうだけど、見られたくない物、知られたくない物ってあるの……泉さんはね、真君に見られたくないって思って隠れて泣いていたんだと思うよ……」
「……うん……立ち聞きとか今考えると最低だよね……ぼく……」
「まあ、一緒に生活してるんだから、そういうのは仕方のない事だと思うけど……あのね、前に私、泉さんは嘘つきだって言ったよね……それってどういう意味かわかった?」
「……ううん……ごめん」
泉が嘘つき……前に凛ちゃんが言っていた言葉、でも僕はその意味をあまり深くは考えなかった。
「──泉さんはね、多分だけど自分を偽っていると思うの……悲しみも苦しみも全部隠して皆の前ではいつも笑顔で明るくて振る舞って……彼女はさ……薬師丸泉を演じていた……クラスのトップとして、皆の期待に応える様に……それはね、真君の前でもそうだよ? 真君の期待の通りに泉さんは真君をがっかりさせない様に、理想の妹を演じているの……従順で清楚で潔癖でいる……凄いと思う、私にはとても出来ない……」
「演じてる……そ、そうなの?」
「うーーん……演じているって言い方だと何か変かなぁ? うまい言い方が見つから無いんだけど……そうあるように努力をしているって言った方がいいのかもね」
「努力……」
「真君だって変わろうって努力しているでしょ? 泉さんだって、愛真さんだって……勿論私だって……みんな自分の嫌いな所は変えないとって、誰かに好かれる為に変わろうって思っているんだよ…………だからね、私イラっとしちゃったの……変わろう変わろうって口だけの真君が、実際に努力して皆の、真君の期待に応える様に頑張っている泉さんの事をグジグジ言って……ちょっと弱気になって陰で一人泣いていた泉さんの事を誠実じゃないなんて言う真君に……本当にイライラしちゃったんだよ……」
「ううう……ごめんなさい……」
「ううん、駄目許さない、そんな口だけの謝罪じゃあ私のこのイライラは収まらない! 真君……私は友達として今からちょっと厳しい事言うから覚悟して聞いてね!」
「…………はい」
怒られる……人に怒られるのって……怖いし辛い……だから僕は今までずっと避けてきた。疎まれる、憎まれる、嫌われる、そして虐められる……僕はそんな事を今までずっと避けていた……透明になることで、全部避けてきた。でも……でもそれじゃあ駄目なんだ……それじゃあ……楽しい嬉しい面白い、そして……好きになって貰えるって事まで放棄してしまうんだ。
今までこんな風に怒ってくれる人なんて居なかった。
勉強や生活態度には気を付けていた。父さんを怒らせたくないって思ってたから、だから僕は殆ど父さんに怒られた事はない……当然こんな風に怒ってくれる友達もいなかった。まあ嫌味くらいなら愛真にちょくちょく言われてたけど……
だから僕はこんな風に叱ってくれる、怒って貰えるって事を幸せに感じないといけないんだ! そう思い僕は姿勢をただし凛ちゃんに向き合った。
叩かれるかも、なじられるかも、でも……それでもいいと僕が覚悟を決めて凛ちゃんの目を見る。それを、僕の覚悟を悟った凛ちゃんは食卓から身を乗りだし僕に顔を近づけ深く息を吸うと目を大きく見開き大きな声で言った。
「──おい! 真! グジグジ言ってじゃねえよ! そういうのは見て見ぬ振りをするんだよ、もっと寛容になれ! 男だろ!! 付いてる物があるだろ!! その股間に付いてる物は飾りか?! 今度そんな事でグジグジ言ってきたら、股間がめり込む程蹴っ飛ばすぞ! わかった!!」
「!! ははは、はい!!」
あわわわわわ、凛ちゃんが! 僕はビックリしてしまった。まさかこんな男子の喧嘩みたいな口調で、しかも……蹴っ飛ばすってえええ……
突然の凛ちゃんの変わり様に僕は内股になりながら驚いてしまった。あの凛ちゃんがこんな事を言うなんて……いや……違うんだ……凛ちゃんにここまで言わせてしまったって事なんだ。そう思うと自分が情けなくて……
「──分かった!?」
「はい! わ、わかりました!」
「よし! じゃあご褒美!!」
凛ちゃんはさらに食卓に肘を付き身体を伸ばし精一杯身を乗りだしてくる。僕の顔のすぐ側迄凛ちゃんの顔が近づき……そして……
僕のほっぺに何か当たる感触………………ええええええええええええ!!
「え! えええええええ! ああああああああああああ!!」
今のって、今のってええええええ??!!
「あはははははははははは、真君の顔! 超キモーーーーイ」
「り、凛ちゃん~~~また言ったああああああ」
「あはははははははははは」
無邪気に笑う凛ちゃん……可愛くてかっこよくて……大好きな凛ちゃん。
そんな大好きな凛ちゃんに、僕は……生まれ初めて女の子から、大好きな女の子から……キスをされた。
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