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凛ちゃんの傷

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「えーーっと……」

 またクラスがざわついている……僕が松葉杖をつきながら教室に入っても気にも留められなかった……が、僕のカバンを持ち、僕に付かず離れずベッタリと寄り添う泉を見て若干クラスの空気が変わった……でもまあ、兄が怪我をして妹が介助するってのは普通の事と思ったのか? すぐに普通の空気が流れた……

 ただ今は違う……クラスの皆の頭の上に?マークが見える。

 だって……みかんちゃん……もとい、凛ちゃんが、クラス委員長が泉と代わって突然僕の介助を始めたからだ。

「えっと……なんで?」
  トイレに行こうと席からゆっくりと立ち上がると、泉ではなく凛ちゃんが僕に付き添う、僕の腰に手をやり、松葉杖で歩く僕の介助をやり始める。

「ん?」

「いや、ん? じゃなくて……なんで凛ちゃんが僕の介助を?」

「ああ、泉さんは家で私が学校でって事になったから」

「いや、なったからって……」
 凛ちゃんと二人ざわつく教室を出ようとした時、僕は泉の方を見た。泉はカースト上位のお嬢様たちと一緒に次の体育の授業の着替えをするべく教室を出て行く所だった。
 泉は僕をチラリと見ると少し悲しそうな表情をしたがすぐに皆と笑いながら教室を出ていく。

 泉の様子から凛ちゃんの言っている事は本当なのだと、てか僕の了承は? 少しやるせない気持ちなるも、泉の負担を減らすと言う意味では仕方ないと思い直し、ほぼ同時に教室を出て僕と凛ちゃんは泉達とは逆方向に歩いていく。

「佐々井君勿論体育は見学でしょ? 私も見学だから先生に断って一緒に見る事にして貰ったから」

「いや、して貰ったからって……あれ? そもそも凛ちゃんは、なんで見学?」

「あーー、もう聞かないでよ、エッチ」

「エッチって……」

「ほら、私の事はいいからトイレに行くんでしょ? 持ってあげるから」

「持つ! ええええええええ、持つって、な、何を!!」

「え? 松葉杖だけど」

「あ、ああ、そ、そうか……」

「そうかって他に何と………………あああああ、エッチ! もう佐々井君!」

「エッチって……だって凛ちゃんそう言う話しよくするから、ついまたかって」

「よくはしない! 学校では委員長なんだからね私は……ほら、多少は歩けるんでしょ、ここで待ってるから早く行っておいで、私中まで入れないんだから途中転んだりしないでよね?」

「はーーい」

 骨折ではないので一応歩ける。膝に負担をかけない様に松葉杖を使っているだけなのでと、僕はゆっくりと歩きながら、慎重に一人でトイレに入った。
 しかし委員長を凛ちゃんを男子トイレの前で待たせるって、本当悪いなって思うと同時に、なんとも言えない優越感というか……

 バランスを崩さない様に転ばない様に慎重に用を済ますと、手を洗いハンカチで手を拭きながらトイレを出る。

「はい、ちゃんと手洗った?」
 松葉杖を渡しながら僕を見てニッコリ笑う凛ちゃん……なんだろう……何か凄くドキドキする……

「あ、洗ったよ!」

「本当? 3分以上かけて爪の中まで洗わないと駄目なんだよ」

「3分って、僕のどんだけ汚いんだよ!」

「あははははは、まあ穢らわしいよね」

「穢らわしいって……」

「ほら体育の授業始まっちゃうよ、見学でもちゃんと行かないと」

「あ、うん、僕は大丈夫だから凛ちゃん先に行っていいよ」

「駄目だよ、階段は下りが危ないんだから」

「もう、本当心配性なんだから、昨日も泉はお風呂で…………」

「お風呂!? 泉さんと…………ええええええええええ!」

「あ……」

「さ、佐々井君、泉さんと……お風呂……入っちゃったの?」

「あ、いや、その……」

「へーーーー、本当……そうなんだ……」

「あ、いや、その、そう! 水着で、昨日は水着を着て入ったからで」

「昨日……は?」

「あ!」

「へーーー、本当なんだそれ…………うわ……穢らわしい」

「いや、あの、その」

「見たの?」

「え?」

「見たの? 泉さんの……裸」

「み、見てない!」

「本当?」

「うん、うん、だってタオル巻いてたから、見てない」

「タオル……で、でも、ほら……そう言うのってよくパサッて落ちて丸見えって言う展開になるじゃない?」

「な、ナイナイ、そんな才能無い作家が書く様なありきたりな展開になんてなるわけ無い、ラッキースケベなんて都市伝説だよ!」

「うーーん、本当かなぁ」

「本当本当」
 僕は必死に否定する、なんでこんな必死に否定するのかよくわからないけど、とにかく必死に否定した。

「そか……」
 凛ちゃんはそう言うと僕を見て笑った。その笑顔を見て少し胸が痛んだ……うん、でも嘘はついていない、パサッとは落ちたけど、見てないから……だから嘘は言っていない……はず。

「うん」

「でも……本当は見たかったんでしょ?」

「そりゃ……あ」

「もう……本当にエッチなんだから」

「またそう言う……」

「私が……もし……」

「え?」

「ううん、なんでも無い、ああ、もう授業始まってるよ、怒られちゃう」

「あ、うん、ごめん」

「いいよもう、転ばない様に慎重に行こ」

「うん、ありがと」
 僕がそう言うと凛ちゃん僕の腰に手を当てる、松葉杖をつきながら階段を降りるのは結構大変だ。凛ちゃんはバランスを崩さない様に僕をしっかりと支えてくれる。

 なんとか凛ちゃんの手を借り校庭に向かう。苦労して向かいながらも、僕は凛ちゃんが最後に言った言葉が凄く気になっていた。私が……もし……と言う言葉に……そしてそれが何を意味するかは分かっていた。

 もし……凛ちゃんの胸に……火傷の痕が無かったら……

 凛ちゃんの火傷の痕……うちの学校にはプールがない、なのでその傷痕を僕は見た事は無い……その火傷の痕がどれくらいの物なのか僕には分からない。

 ただ一つ分かっている事、それは……凛ちゃんの傷痕は身体の傷痕以上に心の傷痕として残っていると言う事だけだった。



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