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同居生活

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ベットの脇から寝息が聞こえる、可愛い可愛い寝息が……


◈◈◈◈


 退院すると、いや、入院中も僕は泉の完全看護を受ける。もう付きっきりで世話を、いや、これじ看護じゃなく監視じゃね? って思う位だった。

「お兄様、ご飯のお支度をしている間に困った事がありましたら遠慮なく呼んでくださいね」

「あ、うん、大丈夫」

「すぐに戻って来ますからね」

「あ、うん、ごゆっくり……」


 午前中に退院し、家に帰って自室のベットに寝ていた僕、傍らには今までずっと泉が座っていた。
 
 ベットの横に椅子を置き、本を読んだりしながら僕をチラチラと見る。そして目が合うと泉はニッコリ笑って言った。
「お兄様、何かして欲しい事ありますか?!」

「あ、いえ、何も……」

「そうですか……なんでもおっしゃって下さいね」
 泉は残念そうにそう言うと綺麗な姿勢のまま、また僕から本に目線を戻す。

 こんな状態が数時間続いていた……
 
 いや、寝れば良いんじゃねって思うでしょ? でも僕は別に具合が悪いとか体調が悪いとかじゃない、じっとしていれば足の痛みも全く無い……そう僕は健康なんだ。右足が少し不自由な事以外は健康体なんだ。

 ましてや数日間入院していた為に夜は早めの消灯、朝もきっちり起こされ、規則正しい生活を強いられた。なので眠気は皆無、いや、そんな事は良いんだ、それよりも……わかるよね? 健康な男子が入院生活から帰って来たら……したい事って……あるじゃない?

 入院中も泉は僕に付きっきり、帰ってきてもずっと……このまま夜までずっと?

 ああああああああああああ、ムラムラする! 僕は今メイド欠乏症に陥っているんだ!!

 メイド本が見たい、メイド漫画を読みたい、そして……ああ、あの今季に覇権アニメと言われた「うちのメイドがこんなに可愛いわけが無い」ちょっとエッチなメイドがご主人様と戯れる愛と感動のメイドアニメ、が見たい!
 
 来ている、今、確実にメイドブームが来ている! 異世界の次はメイドだ! 

 しかし……泉がいるのにそんな物見れない……凛ちゃんのせいなのかメイド物を見る泉の反応が今までと違って怖くなった。今までもちょっとエッチな物はメイドに限らず怖かったんだけど、今は同じくらい、いや、それ以上に怖い……

 はっきりとは言わないよ、普通のメイド漫画とかだとはっきりと駄目とは言わないけど……怖いんだ……目が、メイドを見る、いや、メイド物を見ている僕を見る泉の目が……怖い……

「お兄様? どうかなさいました?」

「いえ! あ、そろそろお腹空いたかも?」

「あ、そうですね、そろそろお昼に致しましょう」

「あ、うん」

 本を閉じると泉は立ち上がり冒頭の言葉を残し部屋を出る。こうして僕はようやく泉の看護(監視)から一瞬逃れられた。


 お昼の支度には大体いつも30分以上かけている。そう、今が千載一遇のチャンス!
 僕はお気に入りのメイド雑誌を隠してある本棚に向かうべく、ベットから立ち上がった……って松葉杖は? …………しまった……部屋の外だ……でもまあ、わざわざ取りに行かなくて本棚はすぐそこだ。お医者さんには、荷重を掛けなければ歩いても良いと言われているし。

 僕はベットを降りると片足のみでジャンプしながら本棚迄行き、棚の奥に隠してあるお宝雑誌を取ると、くるりと身体を半回転させ……ああああああ…………

 手には本、片足はサポーター、そして僕の運動神経は悪い……そんな状態でかっこよく半回転なんて出来るわけもなく僕はおもいっきり転んでしまった。

「や、ヤバい……」
 かなりの音を立てながら転んだ僕、恐らく下にいる泉にも聞こえただろう。
 慌てて起き上がろうとしたが、サポーターで右膝をガッチリ固定されているので素早く立てない。
 
「あああああ、ど、どうしよう……」
 片手にはお宝雑誌が……まずい、泉に見られたらまずい、どうしよう、こいつを、せめてこいつを隠さねば……僕は咄嗟に本をベットの下に投げ込んだ。と同時に部屋の扉が開く。

「お兄様、今大きな物音が……お兄様! お兄様!!」
 泉は大きな声を出しながら僕の傍らに駆け寄る。危なかった……ギリギリセーフ。

「あ、ごめん大丈夫、ちょっと読みたい本があったから」

「お兄様! なにかご用があったら遠慮なくおっしゃってくださいと」

「ご、ごめん、折角泉が美味しいご飯を作ってくれているのに邪魔しちゃ悪いと思って……あと僕の不注意で怪我しちゃったのに、こんなに世話して貰って悪いなって思ったから…………」

「お兄様……」

「いつもありがとうね泉……この間のような気まずい雰囲気だった時でもご飯を……美味しいご飯を作ってくれて……本当にありがとうね」

「お兄様……ご飯は当たり前です、喧嘩しても、雰囲気が悪くても……私達は家族……兄妹なんですから。…………あと怪我はお兄様が悪いんじゃありません、私が悪いんです……お兄様のお友達の事を調べるなんて……そんな事がをした私が原因なんですから……私……最低ですよね……でもお兄様は許してくださって、だから私お兄様の為に、許してくれたお兄様の為に尽くしたいんです!」

「泉……」

「さあ、お兄様、立てますか?」

「ああ、うん、ありがとう」
 泉が僕を支えてくれる……腕を取りゆっくりと僕を介助してくれる。思えば泉が居たから僕は今の学校に入った。泉が怒ってくれたから、僕は現状を変えようと思った。友達を作ろうって思った。泉が言ってくれたから凛ちゃんと友達になれた。
 
 泉は常にこうやって支えてくれている。兄妹になってまだ日は浅いけど、家族として僕を毎日見守り支えてくれている。だからありがとうって伝えたかった。
 
 僕は泉の肩を借りて立ち上がると、ベットに戻りゆっくりと寝かせて貰う。

「さあ、お兄様はまだ寝てらして下さい、今お食事を…………あら? 足になにか」

「え? あ!」
 ああああああああああああああああああああああああああ…………

「…………創刊号にゃんにゃんメイド猫喫茶? 従順なメイド猫とじゃれ合おう?」

「…………」 

「お兄様? なんですかこれは?」

「えっと……にゃんにゃんメイド喫茶、従順な……」

「タイトルを聞いているわけではありません、何故こんな物がここに?」

 怖い! めっさ怖い! 泉の目が、メイド雑誌を見る泉の目が、親の仇を見るような目に、そして僕を見る目は、さっきまでとは全く違う……そう、なにか汚物見るような、そんな目に変わっていた……

「えっと……その…………」

「……お兄様……こんな物を取ろうとして……わかりました……お兄様……お兄様がもしまた転んで怪我が酷くなってはいけませんね……私24時間体制でお兄様の看護を致します。夜も一緒に居てお兄様を監視……もとい、看護致します!」

「今、監視って言った? 言ったよね?」

「看護です!」

「えええええ、って言うか夜も一緒って」

 僕がそう言うと泉はベットの脇を指差し言った。

「ここで、お兄様のベットの下で寝ます! 客用のお布団がありますのでここに敷いて寝ますのでご心配なく」


「えええええええ、だ、駄目だよ、駄目だよね、一緒の部屋にとか……駄目でしょ?」

「兄妹で一緒に寝る事に何か問題でも?」

「いや、問題だらけでしょ? 駄目だよ」

「もう決めました、お兄様、い、い、で、す、わ、よ、ね?」
 泉は持っていた本を僕に見せながらそう言った。

「…………はい」
 


 僕に拒否権は無かった……




 
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