上 下
46 / 99

酷い友人関係

しおりを挟む

「…………」

「…………」

 どれくらいの時間が経ったか……僕と凛ちゃんはようやく泣き止む。
 凛ちゃんは持っていたハンカチで顔を覆っていた。

「ううう、佐々井君のせいで化粧完全に崩れちゃたよ~~もう最悪」

「ご、ごめん」

「ちょっと向こう向いてて直すから」

「あ、うん」

 僕は凛ちゃんの反対方向を向いた、ごそごそとカバンを漁る音、そしてパチンパチンと何かが開く音がした。

「はあ~~~~、よし! 良いよ」

「……うん」
 振り返るとそこにはいつもの学校での凛ちゃんがいた。
赤い分厚いメガネ、髪型も髪の色もみかんちゃんだけど、顔は、表情はいつもの委員長、学校での凛ちゃん……

「これが私……本来の姿……みかんは作った私なの……ごめんね」

「ううん」
 僕は何も言わずにただ首振った。どちらが良いなんて思わない、どちらも僕の友達の姿だから……

「私ね……佐々井君の事ずっと見てたの……佐々井君を見て思った、ああ、私が居るって……一人で周りを避けるようにしていた、中3の頃の私だって……虐められない様に周りから隠れる様にしてるって……」

「あははは……凛ちゃんには見つかってたか……僕ね、透明人間だったんだ……透明人間の様に見られない様に目立たない様にずっと過ごしてた、小学生の頃からずっと……」

「ごめんね、私、正直言って佐々井君の事可哀想って思った、思ってた。佐々井君の事を見て私、自分が可哀想って、あの頃の私可哀想って、蔑んでいた……でも……佐々井君が……泉さんと兄妹になった時に、ずるいって思った」

「ずるい?」

「うん……だってそんな偶然な……宝くじの様な偶然な事で今の状態から脱却出来るなんてって……私の今している努力ってなんなのって……ズルいって思った……だから……陥れてやろうって……」

「陥れて?」

「本屋で会ったの……あれ偶然じゃないよ……佐々井君がメイド好きって言うの知ってたからね、しかも極度に、だから絶対に本屋に来るって思って待ち構えてたの」

「ええええ! で、でも! 僕の事知らない振りって言うかなんか微妙に知っている振りって言うか」

「私の演技力舐めないでよね、みかんで、メイドで、演技だけで全国1位になったんだよ」

「演技……」
 
「佐々井君なら気付かれても誰にも言わずにいてくれる、そう仕向ける事も出来るって思った。そして佐々井君が泉さんの兄妹である佐々井君が私に夢中になれば、うちのクラスでの地位も保証されるかなって、案の定私の所に来たけど、まさか友達になってくれって言われるとは思わなかったけどね」

「そうなんだ……でも僕が凛ちゃんに夢中なってもうちのクラスでは変わらない気が」

「そんな事無いよ、実際泉さんは動いたんだから……でも悪い方向に動いたんだよね、失敗したな~~」

「失敗?」

「そう……大失敗……まさかね……」

「まさか?」

「うん、泉さんが……そこまで……そこまで佐々井君の事を好きだったなんて思って無かった」

「え!」

「兄妹じゃない……あなた達は兄妹じゃなかった……騙されたよ」

「兄妹じゃない?」

「うん、だって私、妹の事好きだけど、でも妹に彼氏が出来たからって、その彼氏の素性を調べるなんてしない……普通兄妹でそこまでなんてしない、ましてやあなた達は兄妹になったばかりなのに……」

「……兄妹じゃない」

「だから嘘つきだって、泉さんは嘘つきだって、まあ私が言うなって話だけどね」

「嘘……」

「折角泣いてくれたけど、私本当はこういう女なんだ、幻滅したでしょ、ついでに言うとお客を取ったって話しも本当だよ、奪い取ってやった、実力でだけどね」

「実力」

「どうせ身体を使ってとか言ったんでしょ? さっきも言ったけど私の身体に価値なんてないからね……まあ」

 そう言うと凛ちゃんは僕の手の甲に自分の手を重ねる。そして僕を見つめながら言った。

「お客様……みかんを応援してくださいますか? って事くらいはしたかな? あはははは男って単純~~~皆これぐらいでコロッと騙される」

「みかん……ちゃん」

「あーーーあ、全部ばらしちゃった、本当大失敗、佐々井君も私の作戦通りお客になってくれたのにね~~」


「お客……」

「そう、ただのお客……だから……もう……友達じゃない、だから……もう……私に構わないで」

「やだ!」

「え?」

「やだよ、嫌だ! 言ったよね? 友達になろうって言ったよね?」

「言ったけど」

「はい駄目~~言ったんだから駄目~~」

「そんな子供みたいに」

「子供だもん、凛ちゃんだってまだ未成年じゃん、子供じゃん、だから駄目~~~はい残念でした~~~」

「さ、佐々井君?」

「嫌だよ、僕の大事な貴重な友達なんだから、絶対に絶交なんかしない、凛ちゃんがそれでも絶交したいって言うなら」

「言うなら?」

「ばらしてやる、凛ちゃんがみかんちゃんて皆にばらしてやる、脅しだからね、これは僕がみかんちゃんを脅してるんだ。凛ちゃんは僕に弱味を握られているんだからね!」

「佐々井君?…………うん……そうか……じゃあ……仕方ないか……そうか、酷いね佐々井君って」

「酷いのは凛ちゃんだよ」

「うん……そうだね……私も……佐々井君も、酷いね、最悪な友達だね」
 凛ちゃんは笑った、いや、眼鏡でよくわからないけど笑っている様に見えた……さっきまでの悲しそうな笑いではない、メイド喫茶の時の笑顔でもない、これが初めて見る僕が初めて見る凛ちゃんの……本当の笑顔……

「でも……それでも……友達だから……ね?」

「それでも……か…………うん……佐々井君……ありがと」

「うん……凛ちゃんこそ……ありがとう」
 

 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』

コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ” (全20話)の続編。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211 男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は? そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。 格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。

十年間片思いしていた幼馴染に告白したら、完膚なきまでに振られた俺が、昔イジメから助けた美少女にアプローチを受けてる。

味のないお茶
恋愛
中学三年の終わり、俺。桜井霧都(さくらいきりと)は十年間片思いしていた幼馴染。南野凛音(みなみのりんね)に告白した。 十分以上に勝算がある。と思っていたが、 「アンタを男として見たことなんか一度も無いから無理!!」 と完膚なきまでに振られた俺。 失意のまま、十年目にして初めて一人で登校すると、小学生の頃にいじめから助けた女の子。北島永久(きたじまとわ)が目の前に居た。 彼女は俺を見て涙を流しながら、今までずっと俺のことを想い続けていたと言ってきた。 そして、 「北島永久は桜井霧都くんを心から愛しています。私をあなたの彼女にしてください」 と、告白をされ、抱きしめられる。 突然の出来事に困惑する俺。 そんな俺を追撃するように、 「な、な、な、な……何してんのよアンタ……」 「………………凛音、なんでここに」 その現場を見ていたのは、朝が苦手なはずの、置いてきた幼なじみだった。

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

最底辺の落ちこぼれ、実は彼がハイスペックであることを知っている元幼馴染のヤンデレ義妹が入学してきたせいで真の実力が発覚してしまう!

電脳ピエロ
恋愛
時野 玲二はとある事情から真の実力を隠しており、常に退学ギリギリの成績をとっていたことから最底辺の落ちこぼれとバカにされていた。 しかし玲二が2年生になった頃、時を同じくして義理の妹になった人気モデルの神堂 朱音が入学してきたことにより、彼の実力隠しは終わりを迎えようとしていた。 「わたしは大好きなお義兄様の真の実力を、全校生徒に知らしめたいんです♡ そして、全校生徒から羨望の眼差しを向けられているお兄様をわたしだけのものにすることに興奮するんです……あぁんっ♡ お義兄様ぁ♡」 朱音は玲二が実力隠しを始めるよりも前、幼少期からの幼馴染だった。 そして義理の兄妹として再開した現在、玲二に対して変質的な愛情を抱くヤンデレなブラコン義妹に変貌していた朱音は、あの手この手を使って彼の真の実力を発覚させようとしてくる! ――俺はもう、人に期待されるのはごめんなんだ。 そんな玲二の願いは叶うことなく、ヤンデレ義妹の暴走によって彼がハイスペックであるという噂は徐々に学校中へと広まっていく。 やがて玲二の真の実力に危機感を覚えた生徒会までもが動き始めてしまい……。 義兄の実力を全校生徒に知らしめたい、ブラコンにしてヤンデレの人気モデル VS 真の実力を絶対に隠し通したい、実は最強な最底辺の陰キャぼっち。 二人の心理戦は、やがて学校全体を巻き込むほどの大きな戦いへと発展していく。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...