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あこがれ愛
しおりを挟むクラスメイトの不思議な顔を後にして僕の妹、いやまだ正式には妹じゃない、妹(仮)と一緒に帰る。
「えっと、泉の家って僕の家の反対方向だよね、ど、どうしよっか」
さすがに朝迎えに来てもらって、帰りも送って貰うのは気が引ける、ここは僕が送って行くと言いたいんだけど……言えない……そもそも反対方向じゃないかと予想しただけで本当に反対かも分からない、それもちゃんと聞けない……
「あの……お兄様、今日……お兄様の家に泊まりたいんですが」
「………………は?」
「母には許可を貰ってます、母からお父様にも連絡していただいて許可も得てます。もうすぐ私とお兄様の家になるわけですし、お兄様のお許しを頂ければ、お食事お洗濯等のお世話もしたいのですが」
「いや、えっと、ちょっと待って、えっと」
なんだこれ、え? 今日泊まる? うちに? 泉さんが? え? えええええええええええええええええええええええええええええええ!!
「だ、駄目でしょうか?」
「いや……父さんが良いって言ってるなら、僕が駄目なんて言えないっていうか、え、でも、良いの?」
「はい! 是非に!」
泉の目がキラキラと輝いているかの如く、期待に満ち溢れるかの如く見開かれ僕を見つめる。えっと……マジでなの?
「じゃ、じゃあ……」
泉はお昼に食べた少し小さめのお重と恐らく着替えが入っているだろうバックを細い身体で担いでいる。朝はさすがに言えなかったけど、うちに泊まりに来るならと僕は勇気を出して言った。
「お、重そうだね、持つよ」
「お兄様……ありがとうございます」
嬉しそうに着替えの入っているだろうバックを渡してくれる泉、信頼されている気がして少し嬉しい、すると泉は僕向かって更に驚愕する事を言う。
「あの、あの、お兄様、その……お家迄、腕を組んでも良いですか?」
「……………………は?」
腕を組む? え? なにどういう事? 痴漢を取り押さえる練習とか? プロレスの技の練習とか? え? やっぱり虐めなの?
「駄目ですか?」
「いや、えっと、じゃあ……良いよ」
僕は飛び付き腕ひしぎ逆十字固めをされる覚悟で目を瞑り腕を差し出す。すると泉はスルリと自分の腕を僕の腕に入れ恋人同士がする腕の組み方をした。
あれ痛くない、っていうか……気持ちいい……僕の肘が丁度泉の胸の部分を掠めている。歩くと時々あたるその柔らかい感触が僕の肘に伝わる……そして追い討ちをかけるが如く長い黒髪が風になびいて僕の顔にサラリと当たる。その度に、えもいわれぬ位脳が蕩けそうになるような甘い匂いが僕の鼻腔をくすぐる……、え? 何? ここは……天国?
家まで20分、ああ、なんで僕の家はこんな近いんだ、2時間位掛かれば良いのに、近い高校を選んだ事を悔やんだ、本当あの時の自分を殴ってやりたい……あ、でもそうしたら泉とは出会って無かったか……GJあの時の僕。
少しゆっくり歩いたが、すぐに家の前に到着してしまう。僕は惜しみながら組んでいた腕を外し鍵を開け扉を開けた。
「ど、どうぞ……」
玄関の扉を開け泉を招き入れる。当然家には誰もいない、うわあ……女の子を家に入れるの初めて……あ、いや、あいつが居たか、でもあの薬師丸 泉を家に入れるとか考えもしなかったよ……一体何この状況は……僕死ぬのかな?
「えっと、じゃあ、ただいま」
「あ、えっと、お帰り?」
「えへへへへへへへ」
そう言って僕を見て笑う泉、うわ……めちゃくちゃ可愛い、何この生き物
「えっとまずお茶を入れるますね、台所は……」
「ああ、じゃあ案内するよ」
案内といってもこじんまりした一軒家、母の病気を知り父がせめてもと若い時に無理をして買った家、今は男所帯だけど僕も出来るだけ家事をして綺麗にするように努めている。
一通り家の中を説明して一緒にキッチンに入る、お茶やコーヒーの場所を教えると泉はテキパキと準備をし始める。うわあ……あの薬師丸泉がうちのキッチンに立ってるなんて……
一昨日迄はあり得ないこの夢の様な状況、今日の学校での事なんて忘れそうになる。すると泉は振り返り僕を見て言った。
「お兄様、見られていると少し緊張してしまいます、リビングでお待ちになってて?」
「あ、はい……」
僕は後ろ髪を引かれつつキッチンを後にしてリビングに座って待つ、なんだろう自分の家なのに他人の家にいるようなこの緊張感……
暫くしてコーヒーを持った泉がリビングに、お盆にはコーヒー、ミルク、砂糖、そして少し歪なクッキーが……
「ごめんなさい、まだお兄様の好みが分からないので、一式持ってきてしまいました。お砂糖とクリームは?」
「あ、えっとじゃあ砂糖少なめ目でミルクは少し多めで」
「こんなものかしら?」
そう言って出してくれたコーヒーを飲む、うん丁度いい。
「あ、これクッキーを焼いてきたんです、慌てて作ったのでちょっと形が歪になってしまって」
「全然良いよ、うん、美味しい」
確かに少し歪だけど、それは市販品と比べてって意味で、手作りクッキーなんて貰ったことないのでそれが普通なのか分からない、でも味は市販品と遜色ない美味しさだった。
「良かった~~甘過ぎ無いですか! コーヒーも甘さ控えめですし」
「ううん、丁度いい、美味しいよありがとう」
僕がそう言うと満面な笑みで笑う泉、中学から一緒だった、好きだった女の子が目の前に居る、しかも二人きりで、それも学校では見たこと無いような笑顔で僕を見て笑う……うわああああ、なんだろうこの幸福感半端ない。
「えへへへへへへへ、お兄様の好みが知れて嬉しいです」
そう言って嬉しそうにコーヒーを飲む泉……でも僕はそろそろ聞かなくちゃいけないんだ、この状況を泉の考えを……
「あのさ、泉……どうして昨日の今日でこんなに尽くしてくれるの? お母さんが関係しているとか? 僕は二人の結婚を反対してないし、正直泉の行動がよく分からないんだ」
僕がそう言うと泉は笑顔で言った。
「お兄様だから」
「お兄様だからって……どういう事?」
そして泉がその理由を僕に言った。
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