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1部最終章 終焉

可愛すぎてどうにもならない。

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 殺したくなる程可愛いって思う事ある? 
 私は今そう思ってる。

 この人を誰にも渡したくない。好きで好きでどうしようも無い。

 好きな人の為なら死ねる? そんなの当たり前。
 私は好きすぎて、殺したくなる。
 自分の手で……。

 彼がもし本気で願ったら、私はそれを叶える。

 いなくなるくらいなら、いっそ自分で……自分の手で……。

 私は狂ってる……彼が目の前で事故に遭ってから、それを見てからおかしくなったのだろうか? それとも生まれつきの性格か?
 まあ、あの役者に命をかけてる、人生をかけてるママの血を引いてるのだから、多分後者なのだろう。

 
 彼に薬を見せ付けた、いかにも怪しい雰囲気で、でもね、薬の中身はただのお菓子、飲んでも食べても全く害は無い。

 でもこれは私の覚悟、そして彼の覚悟……。
 もしこれを彼が飲んだら……その時は……それが彼の願いだって事。
 だから私はそんな彼の願いを叶える……。

 勿論私の中では飲んで欲しくないって思いの方が強い。
 でも、今の彼は私がいくら止めても無駄だろう……一切聞く耳を持たない。

 だから判断して貰う、自分で……。

 確率は半々、でも時間が立てばどんどん悪くなる。
 
 このまま休み続ければ学校にも戻れなくなる。

 だから彼を追い込んだ、とことんまで甘い言葉を囁いて。
 
 もし仮に、その甘い言葉に乗ってくれれば、そんな奇跡が起きるのなら、私にとって一番良い、彼と自堕落な生活……ずっと遊んで暮らすなんて、私にとって夢の中の世界なのだから。

 でも、彼は決してそれを選ばない……私はそれを知っている。
 あれだけ一途に物事に打ち込んだ人だもん、あれだけ一つの事を愛した人だもん、そんな人が、好きでも無い私と……そんな生活をしようなんて思うわけがない。

 こんな自分勝手なメンヘラ女の事を彼が好きになるわけが無い。

 だから……彼に選ばせた。
 生か死か
 dead or Alive
 ハムレットの台詞だと
 To be, or not to be, that is the question.
 生きるべきか死ぬべきか、それが問題だ。

 案の定、彼の様子がおかしくなった。
 どこか上の空で、でも何かすっきりした様子……。
 今夜彼は実行する……私はそう確信した。

 そして、その考えは見事的中、彼は夜中部屋を抜け出した。
 絶対に見失うわけにはいかない……私は予め用意しておいた白のワンピースを着て彼を追いかけ、部屋の扉を開けようとしたが、なんとなくまだ彼はそこにいる気がした。

 私は扉に耳を付け外の様子を伺うと……彼はポツリと言った。

「ありがとう」って……。

 私の胸が熱くなる、鼓動が高鳴る。

 彼を私の手で……そして二人で……そんな感情が溢れ出す。

 彼の乗ったエレベーターを一本遅らせ彼を追った。
 大丈夫、この時間なら交通手段は無い。

 私は彼にバレない様に、後を付ける。

 よろよろと杖をつく。

 暗闇の中、月明かりだけを頼り自らの終わりに向かうその姿まるで、年老いた野性動物が自分の死に場所を探す姿の様だった。

 私はその姿にときめいた、こんな時に……私はなんて残酷なんだろう、そう思った。
 でも映画のシーンの様に、彼の姿はどこか現実離れをしていた。

 暫く歩くと彼は草むらの奥に入って行く。
 そして林の入口付近に腰を下ろした。

 木々の間から月明かりが、丁度スポットライトの様に彼を照らしていた。

 彼は天を見上げる。そのまま暫くじっとしてそして、遂に決心したのか、ペットボトルを手にする。


 私は黙って見守る……もし彼があれを飲めば……私が彼の願いを叶えてあげる。

 そして彼は……薬を飲まなかった。

 でもまだ彼は死ぬ事を諦めていない。
 死の恐怖と戦っている。

 だからその思いを断ち切らなければ……私は彼に近付き全てを明かした。

 そして、彼に問う

「貴方の望みは何?」
 そう彼に聞いた。

 そして彼は言った……死にたく無いって……そう言ってくれた。
 凄く嬉しかった、そしてほんの少しだけ……残念だった。

 彼は私の胸で泣いた、延々と泣き続けた……怖かったのだろう、辛かったのだろう……全て私のせい、彼をこんなにも追い詰めたのは全て私のせい。
 壊れた物は元には戻らない、でも壊さなければいけない事もある。

 彼は今の状態を壊そうとしている。過去の自分を壊して新しくスタートしようとしている。
 私はその手助けをしただけ……。

 それが彼の望みだから……。

 彼は泣き続けた、壊れた痛み、彼の心は一度壊れた。
 でも痛いって事は治ろうとしているって事、神経が繋がっているって事。

 だから今は一杯泣いて吐き出そう……全部吐き出そう……私はそう願いながら彼を抱きしめた。

 そして泣き止んだら、今度は休もう、たっぷりと寝よう。
 寝れば心は回復しようとする。
 
 可愛い可愛い私の翔くん……愛しくて狂おしくて……。

 私は全てを脱ぎ捨て彼を抱きしめた。
 この瞬間だけ……この一時だけ、彼は私の、私だけの物でいてくれる。

 翔くんは、私の胸の中で赤ちゃんの様にスヤスヤと眠る。
 今だけ、今この瞬間だけ、許して欲しい……自分の幸せを、自分だけの幸福を感じさせて欲しい。


 そして、目が覚めたら……始めよう……。

 彼の心を彼の生活を……新しい人生の再構築を。
 私は私の全てをかけて彼を助ける。

 そう決めたのだから、好きな人の為に手に全てを捧げるって、そう決めたのだから。

 




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