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1部第3章 暗転

絶対に絶対に約束だよ!

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 新千歳空港には予め頼んでおいたハイヤーが待っていた。
 そしてそのまま高速を使って1時間、僕達は札幌のホテルに到着した。

 スイートルームは生憎空いていなかっとフロントで物凄く丁寧に謝られ、じゃあどんな狭い部屋に通されるかと思えば、案内された部屋は……これってスイートじゃないんだ? と思わされる様な豪華な部屋だった。

 札幌でトップクラスの高級ホテル、そして高さもトップクラスの高層ビル。
 その上層階のコーナー部分にある部屋に入ると、カーテンが自動で開いた。

 コーナー特有の大きな窓からキラキラと輝く札幌の街が一望でき、それはまるでさっき飛行機から見える様な、空でも飛んでいる様な気分にさせられた。

 ウエルカムシャンパンは未成年なのでジュースに変わり、テーブルに置かれていた。
 ベッドはキングサイズのツイン、枕やクッションがこれでもかというくらい並べられている。
 
 風呂とトイレは別で、お風呂から浸かったまま夜景が見えるとの事。
 
「あっという間だったね」
 円はこういった部屋には慣れている感じで、僕に笑顔でそう言うと、バックをベットに放り投げ、窓際に夜景を見れる様に並べられているソファーにいつもとは違い深く腰掛けだらしなく座った。
 
「なんか……いつもと違うね」
 いつもなら僕の前では決してこんな格好は見せない。
 今日は浮かれているような、そんな態度で僕に接して来る。

「あはは、幻滅した?」

「ううん」
 また違う一面を知れて、少し嬉しかった。
 僕は首を横に振って、円が座っている長いソファーの横に置いてある小さめの一人用のソファーにゆっくりと腰を掛けた。

「もう、どうして離れて座るかなあ」
 円はまだ赤い頬を膨らませながら僕を睨み、そしてました直ぐに笑顔に戻った。

「隣って……まあ……」
 マンションではもっと近くに座ったりして勉強していたけど……ここはいつものマンションとは違う、旅先のホテル、しかも二人きり……。

「ふふふ、奥手だよねえ翔君て」

「えええ?」

「えーーだってさあ、私がなんでもするって言ってるのに勉強教えてって、そんなに魅力ないかなあ?」

「えええええ!」
 なにそのエロゲみたいな台詞、しかもホテルの部屋で!?

「今はどうかな?」
 とぼけた感じで冗談っぽく言う。

「ええええええええええ!」
 ああ、もう、えええしか言えない……。

「あはははは、じゃあ私お風呂入るね、家で入れなかったし、ああ、髪がごあごあする」
 円はソファーから立ち上がり雨に濡れ乾かしただけの髪を触る。彼女の美しい黒髪は確かにいつもと違って少し光沢無い様に感じられた。

「あ、ごめん」
 僕は一人で先にお風呂に入った事を、そしてその直後あんな事を言ってしまい、彼女に気を使えなかった事を謝った。

「ううん、あ、そうだ! ここのお風呂、家よりも大きそうだよ? 一緒に入る?」

「ええええ! い、いやいや、僕は入ったから、だ、大丈夫!」
 いや……円のマンションの風呂も十分大きいって、そうじゃない。

「あははは、そっかあ、残念、じゃあ行ってくるねえ」
 そう言うと円は持ってきたバッグから小さな袋を取り出すと、僕に向かって言った。

「そうそう、下着全然持って来なかったから、明日買いに行かないとね」

「え?」

「だって、これだけじゃあ、翔くんの好みかわからないでしょ?」
 円はそう言って袋からチラリと白い下着を見せた。
 多分ブラではなくパンツで、絹の様な光沢のある白、少しフリルもついていたって、僕は何を解説してるんだ?

「え! あ、うわ、あああ」

「あははは、真っ赤になってる、可愛い~~、そうそう翔くんって白と赤が好きだよね? 今日は白しか持って来なかったから、明日赤を買わないとね~~」

「な、なんで知ってるの! いや、そうじゃない、買わなくていい!」

「えっ、ずっと同じのってやだなあ、でも翔くんがそう言う趣味なら……」
 円は妹から叩かれてまだほんのりと赤い頬をさらに赤らめモジモジし始める。

「い、いいから、もうそれしまって、早くお風呂入って来て! 明日買い物に付き合うから!」

「はーーい!」
 そう言うと円はにこやかに手を振り脱衣場に入る……と、思いきや脱衣場の扉から顔だけ出して言った。

「お風呂に入ってる時、どこかに行ったり──一人で……死んじゃったりしちゃ嫌だからね?」

「え! あ、うん」

「絶対だよ! 絶対に絶対に約束だよ?!」
 円は真剣な顔で僕にそうだ。

「しないって」
 今はそんな気持ちになれない、こんなタイミングでなんて……無理に決まってる。

「そっか、じゃあ入ってくるねえ~~」
 円はそう言うと、また笑顔に戻って、今度こそ脱衣場に入って行った。

 勿論ここでなんて無理、窓だって開くわけないし……。
 仮に急いで外に出た所で、僕の足じゃ追い付かれる可能性が高いし、そもそもお金も殆んど持って無いからろくに移動も出来ない。

 実際死にたいなんて言ったものの、どうやってとか具体的に考えてたわけじゃない。

 僕は円が居なければ、死ぬ場所さえも見つけられない……。
 
 僕は死ぬ時も、誰かに頼らないと駄目なんだ……ってそう思い、一人ソファーにもたれかかりまた情けない気持ちに飲み込まれて行った。
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