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1部第2章 進展

勉強会のお礼

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「行っちゃうの?」

「え? そ、そりゃ」

「……用事が済んだら行っちゃうのね」
 冗談なのか本気なのか、白々しい演技でよよよと涙を拭う。
 いや、あんたの母親って名女優だろ? 

「いや、えっと……」
 白浜さんとの初の勉強会を終え、僕が帰宅しようとすると、僕の制服の裾を掴みながら寂しそうにそう声をかけてくる。

「私の身体だけが目当てなのね」

「いやいやいや、身体って!」
 まあ、頭も身体の一部だけど。

「うそうそ……でもなんかこれでって、ちょっと寂しいなあ」
 まあ、確かに友達と勉強をしたりして、それでさよならじゃあなんか物足りない気もする。
 図書館で勉強して帰りにファーストフードに寄るとか定番だよね……知らんけど。

「ごめん……だよねえ、ぼ、僕さ……その、今までそういう友達居なかったから」
 陸上陸上の毎日、唯一友達と呼べる様な人は幼なじみの夏樹だけ。
 でも夏樹なら深夜だろうがそれこそ泊まりだろうが、話したい時に話せたし、遊びたい時に遊んでいたし……勿論妹も一緒だけど。

「……貴方も……なんだ」

「え?」

「ううん、じゃあ……また明日」
 寂しげに笑う白浜さんは、そう言って僕に手を振る。

「あ、うん……ありがと」

「ううん」
 僕はそんな白浜さんを見ながら、ゆっくりと扉を閉めた。
 

「確かに……勉強見て貰って、はいさようならじゃあなあ……」
 エレベーターの中、監視カメラを見つめ、僕はそうポツリと呟く。
 ここはとんでもなくセキュリティの厳しいマンション、昼はコンシェルジュ在中、外からエレベーターホールに行くまで途中自動扉が二ヶ所あり、その両方で訪問宅の住人に確認を取らないと開かない。
 尚且つエレベーターは訪問宅階にしか止まらなくしかも監視カメラでエレベーター内の様子の確認も出来る。

 なので僕は仕方なくマンションのキーを貰った。もとい、借りている。
 
 これが無いと、毎回白浜さんに開けて貰わなければならない。

 ちなみに余談だがキーを持っていると、その人物はプライバシーの観点から住人がエレベーター内の様子を見る事は出来ない。だから今僕は白浜さんに見られてはいない。
 まあ、人は監視していないがAIが24時間監視していてトラブル発見の際は警備会社に通報するとか……。

 まあ、つまり、白浜 円は、今でもそんなマンションに住まわなければいけないって事なのだ。
 引退同然とはいえ、いまだに知名度は抜群、気軽に街を歩くなんて事は、早々出来ない。
 更には僕との関係も公に出来ないとなっては、学校帰りや、勉強後にどこかへ行くなんて事も出来ない。

「やっぱり一緒に食事……とかになっちゃうよなあ」
 妹の負担を考えるとWin-Winな気もするけど……この間提案した時もとりあえず「わかった」とは言ったが、結局今日もご飯を作ると連絡が入った。

 でも、なんとかならないかなあと……今さら趣味や、人間関係を築いて来なかった事を悔やみつつ、白浜さんとの事を悩みながらゆっくりと帰り道を歩いていると、突然後ろから奇声が聞こえた。

「ひ、ひう!」

「ひう?」
 振り返ると……。

「なっちゃん?」

「はう!」

「はう?」
 何か様子がおかしい、いつもなら僕の背中をバーーンと叩いて来るのに……。
 なんだろうと考えた……ま、まさか! 白浜さんのマンションから出てくるのを見られた?! ま、まずい……白浜さんの事を妹に言わないでって口止めをしておいて、その白浜さんのマンションから出て来たら、そりゃびっくりするだろう。

「ち、違う、えっとた、たまたまで」

「……た、たまたま?」

「そ、偶然っていうかちょっとした手違いで」

「ぐ、偶然……手違い」

「そ、そう、好きとかそういうんじゃない」

「……そ、そう……なんだ」

「え?」

「え?」

「あ、あの……何の話?」

「……マッサージ」

「マッサージ?」

「うん……」
 夕方、2ヶ月前ならもうすっかり暗くなっている時間、夏樹の顔が傾いた日に照らされ燃える様に赤く染まっている。

「えっと……な、何か問題が!」
 僕は慌てた、あの時確かに夏樹の様子がおかしかった、まさか怪我? マッサージが原因? そんなバカな! 僕は慌ててその場に跪き……って、まあ右膝は殆んど曲がらないので、正確には杖を使って右足を伸ばし片足コサックダンスの様に、器用にしゃがみ込む。
 ちなみに、膝は全く曲がらないわけでは無い。

「ちょ!」

「見、見せて!」

「だ、ダメ!」
 僕はそのまま夏樹のスカートを捲り中に……中に……薄暗い中に入る……へーー、スカートの中の生地ってこうなってたんだ……。
 
 目的を一瞬忘れ、改めて夏樹の足を見ようとした直後、僕の脳天に鈍器で殴られた様な衝撃が走る……。

「ば、バカ! かーくんのエッチ!」
 夏樹はスカートの上から僕の頭を思いっきり鞄で殴ると、そのまま持ち前のバネを生かし、しゃがんでいる僕を飛び越え、そのまま走って行く。

「い、いってええ……」
 僕は叩かれた頭を抑えながら、チカチカとする目で走り去る夏樹を見つめる。
 
 いつも通りの走り、跳ねる様に跳ぶ様に、走って行く夏樹……。

「平気じゃん……」
 特に片足を引き摺る分けるでも無い、どこか痛そうにも見えない。
 じゃあ、一体なんだったんだろうか?

 そもそも……今さら僕にパンツを見られたくらいで? ノーパンならまだしも夏樹はしっかりパンツを履いていた。

「とりあえず……無事で良かった」
 じゃあ一体どうしたんだろう? 僕は道路に転がる杖を手にし、ゆっくりと立ち上がる。

 それにしても夏樹の様子がおかしい、恐らく原因はあのマッサージから?
 一体なんなんだろう……暫く考えるが全く見当もつかない。

 でも、まあとりあえず……夏樹ならいいか……。

 僕は一先ず考えるのを止めた。

 ちなみに、夏樹のパンツは……まあ、それもいいか……誰も興味無いだろう。

 知ってるのは夏樹本人と僕と……神様(作者)だけ。


 
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