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システムで迷走する二人

僕……好きな人がいる……。

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 美味しそうにアイスを頬張る高麗川さん……黒く日に焼けた顔、アイスを食べる度に見えるピンクの舌、真っ白な歯、なんだか艶かしくて女の私が見てもドキドキしてしまう。

「美味しいい、夏の練習後のアイスは最高~~♪」

 高麗川さんと私は学校近くの某有名イタリアンレストランに来ていた。
 明日のお礼じゃないけど、好きな物を頼んでと言ったら高麗川さんはご飯ではなく、アイスケーキを注文した。

「あれで……その……楽な練習なんだ……」
 陸上部の練習にまだ衝撃を受けていた。全部で10キロ以上? 私が走ったら……ううん走れるわけがない、多分歩く……歩いたら数時間かかるだろう……しかもあの炎天下の中、コミフェだって倒れる。

「うん、来週から合宿なんだ~~合宿だと毎日20キロは走るよ」

「……20キロ……しかも楽しそうに……」

「今年から2年生だからねえ、練習に集中出来るだけ楽だよ」

「そ、そうなんだ……」
 先輩後輩、上下関係、運動部のそう言うのは得意じゃない……高麗川さんと私はやっぱり住む世界が違う……。

「えっと……高麗川さん……明日はその……」

すみれ、女の子には、友達には名前で呼んで貰いたい。僕もるりって呼ぶからさ、良いだろ?」

「え? わ、私の名前……知ってたの?」
 友達? 同級生ではなく……友達? 高麗川さんからいきなりそう言われ私は戸惑った……でもそれ以上に何か嬉しい気持ちが込み上げてくる。

「そりゃ知ってるさ、君とはいつかゆっくりと話したいって思ってたんだ」

「私と?」

「うん」
 高麗川さん……菫はそう言うとまたアイスを頬張る。1年以上もの間唯一女子で私が殆ど関わらなかった人……いくら休み時間や放課後直ぐに居なくなるとはいえ、話そうと思えばいつでも話せたはず……私は彼女を避けていた……彼女が真っ直ぐ過ぎたから……菫の前では私は隠し事を出来ないと思ったから……。

「あ、あのね……す、菫……明日の事なんだけど……」

「ああ、うん、ありがとうね、何か先輩に聞いたら凄いラッキーなんだって僕? 並ばないで入れるとか売り切れになる前に買えるとかって、あ、勿論ちゃんと協力もするよ! 任せといて! 僕の声は大きいからさ、サークル参加なんて貴重な体験させて貰えるんだからね」
 ニッコリと魅力的に笑う菫……白い歯が褐色の肌に映える……ううう、可愛い……私が男の子だったら、絶対に好きになる。ううん、男の子が苦手な私……菫となら……きまし、も……。

 私がこう思うんだから、そりゃ五十川君だって……五十川君……ひょっとしたら……菫の事好きなのかなぁ……菫も……五十川君の事を……。
 
 もしも彼女が敵なら……私に勝ち目は……勝ち目? 敵? 勝ち目って何の?!

「それで今日は何でわざわざ僕の所に? 明日の事なら五十川君から詳しくメールを貰ってるし、打ち合わせなら五十川君も呼ばないと駄目じゃない?」

「……あ、うん……えっと」
 菫に私の秘密を黙っていて欲しいと、それを言いに来た……とは言えない……そもそも菫はコミフェ初心者だ。明日のジャンルで何がメインとかは知らないだろう……多分?
 どうせ明日全部バレる……だったら今ここで言っても……私は覚悟を決め徐にカバンから大きい封筒を取り出した。

「あ、あのね……今からちょっとショッキングな物……かも知れない物を見せようかと思うんだけど、嫌なら嫌って言ってね」

「ショッキングな物?」

「あの……その……私達……友達になったのよね?」

「少なくとも僕はそう思っているぞ!」

 菫は少し意地悪く私を見つめスプーンを咥えながらウイングして笑う。

「私も……えっと、えっとね……明日の……同人誌の私の原稿プリントして持って来たの」

「へーーー見せてくれるの?」

「う、うん、でも……引かないでね……後……出来ればご内密に」

「引かない引かない、僕はゲームでも色んなジャンルに食指を伸ばしてるからね、何でも平気さ、それにお喋りだけど口は硬いぞ」

「……そ、そう……じゃ、じゃあ」
 そう言って恐る恐る封筒を菫に渡した。
 菫はアイスを一気に完食すると手をおしぼりで拭き、慎重に中の原稿を取り出した。

「……へーー、凄いなあ、上手いじゃないか……おっと……へ、へえ、ああこれが…………うは………………はあ…………」
 始めは少し引き気味だった菫……次第に何も言わずに私の小説とイラスト、そして漫画を読み耽る……怖い……こんなに怖いなんて……初めて自分の書いた物を直接目の前で他人に見せた。そしてその相手が同級生の菫になるとは……。

「……ど、どうかな?」

「凄い!! 始めは、ええ! って思ったけど、何かわかる、この二人の友情を越えた何か、なんだろう、僕も走っててライバルがいるけど、女の子同士だけど、あるよねこういうの!」

「そ、そう、そうなの、子供の頃何かのスポーツで試合が終わった後の握手を交わす二人を見て、ああ、いいなあって思った……私はひねくれてるから菫と違ってこっちの世界にはまっていったんだけど」

「関係無いよ、スポーツだって漫画だって、ゲームだって一生懸命作る、一生懸命やるのは同じ事さ」

「――――う、うん……ありがとう」

「ううん……ところでさ……この主人公の相手って……どことなく五十川君に似てる気がするんだけど、気のせいかな?」

 菫にそう指摘された……うう、やっぱりバレるよね……。

「えっと……実は……」

「あはははは、やっぱりね……そうか……瑠は……五十川君の事が好きなんだね」

「…………えええええ!!」
 菫はそう言って私を見て微笑んだ……確かに何か五十川君っぽくなっちゃったけど、それは身近にいるからってだけで……でも私は菫のその言葉を直ぐに否定できなかった。

「――――僕も……好きな人がいるんだ……」
 そう言って寂しそうに微笑む菫……それって……五十川君? でも私は聞けなかった……もしもそうだったら……私は勝てないから……勝てない……またその言葉が頭の中を過る……そ、そうか……。

 私は今はっきりと気が付いた……私は気になるとか……システムで理想に近い人とかで誤魔化していた。自分の気持ちを誤魔化していた。

 そうか……そうなのか……私は……五十川君の事が……多分好きなんだ、好きになってしまっていたんだ。
 

 菫にはっきりと言われ……私はそれに……ようやく気が付いてしまった。

 

 結局明日はコミフェ、朝早い事もあり菫も家でご飯が用意されているから帰ると言われ、もう1つの用事を菫に急いで伝え、二人でお店を出た。
 
 菫の好きな人……私の五十川君への気持ち……五十川君は私の事をどう思っているのか……五十川君と菫とはどういう関係なのか……。

 モヤモヤしていた……色々モヤモヤしていた。

 でも……それでも……そんな私の気持ちにはお構い無しに明日から始まる……私の夏……私達の夏……オタの夏が……明日から始まる。

 
 3人の夏が……始まる。
 

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