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システムに繋がれた二人

タイムセール

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  いつもの通りトイレに入り急いで着替えをした。
 髪型をお下げにして眼鏡をかけていつもの私に戻る。

 ああ、落ち着く……。

 こっちが本当の私、お風呂上がりとオタ活動の時が本来の私の姿。
 いつもの方が世を忍ぶ仮の姿。

 だから結婚する相手は、この私のこの姿を好きになってくれる人じゃないと困る。だって、これが私なんだから……。
 システムにはきっちり書いた。趣味の欄にも嘘偽りなくきっちりと書いた。
 なのに……何故か選ばれたのはあいつだ。

 1年の頃から何故か近くにいた。なんだか教室ではいつもボーーっとしていた。

 背格好も普通、顔は少し整っているけど平均くらい?……ただ一つ気にくわなかった事があった。
 あいつに少し似ている……中学の時好きだったあいつ……私を裏切った……あいつに……。

 だから彼と話すとイライラした……顔を見るのが嫌だった。

 せめてクラスのオタグループにでも居てくれたら少しは気が紛れたのに……でも彼は常に一人でいた。ボッチというよりは、孤高を気に入っている様なそんな痛いイメージだった。

「ああ、もう! なんで今そんな事を思い出すの!」
 これから至福の時間の始まりだというのに……私は頭を振りお下げを武器のように左右に振り回しあいつの事を頭から追い払う。

 「よし!」そう気合いを入れて私は意気揚々と乙女ロードに向かうと、追い払った筈の彼が再び目の前に現れる。

「ああもう、一体なんなの私の頭は、なんでまた浮かんで来るの?」
 さっきと同じ服装の彼が、私のとっておきのお店の前で周囲をキョロキョロしている……………………え!!

「ほ、本物?!」

 私は慌てて物陰に隠れた。な、何故彼がここに?
 まさか……私……後をつけられた? 私は恐怖と怒りが込み上げる。

「向き合うって、そういう意味だったの!」
 がっかりだ、やっぱり男なんてこんな奴ばかりだ! 私の弱味を見つけようとしてこんな事を!
 
「…………でも……なんか様子が……」
 キョロキョロしているのは私を探してるというよりは、誰かに見られない様にって感じがした。

 そして彼は私の一番のお気に入りのお店、BL同人が最も豊富なお店に入って行く。

「えええええ!」

 ま、まさか……彼ってBL好き♡ いやいや、さすがにそれは妄想のしすぎか……でもだったら……。
 
 確かにあそこはBL専門的ってわけじゃない、男子も多少はいる店……しかし……それには大きな疑問が生じる。
 
 そう、一般人、オタ以外はまず入らないお店……。

「ど、どういう事?」
 私は暫くお店の入口を見ていた……仮に、仮に私を探してるとしたら、すぐに出てくるだろう、それほど大きい店ではない。
 しかし……5分経っても10分経っても彼は出てこない……どういう事なのかさっぱりわからない。

「行くしか……ない?」
 鉢合わせる可能性が高い、でも今の私の格好ならバレない可能性は高い。一瞬なら大丈夫だと思う。あそこのフロア構成は頭の中に焼き付いている。行けるかも知れない!

 私は意を決して、店舗に向かった。


 フロアは地上6階地下1階構成、各フロアーに行くには、エレベーターと階段がある。
 エレベーターは危険と私は階段を選んだ。
 
 向かうは2階、唯一の男性フロアだ。

 階段で鉢合わせる可能性を考慮し、上から誰か来ないか確認しつつ慎重に一歩一歩登って行く。何この緊張感、まるでFPSで芋砂に狙われているようだ。

 手の平から汗がにじみ出る、緊張で足が震える。なんでこんなに緊張しているんだろうか……私のオタがバレるから? いや、違う……私は緊張しているんじゃない、期待しているんだ。

 ひょっとしたら……彼は隠れオタクなのかもって……。

 考えてみればおかしいんだ、今日だって上野だって、共通点を探すとショッピングくらいしか考えられない、でも彼の趣味は読書だって言っていた。私も時々ショッピングはするけれど上野にはまず行かない。

 つまり……システムは選べと言っていたんじゃないかと……日暮里か秋葉原かを……。

 彼と私の共通点は……オタク……そしてもしかしたら……コスプレ?

 そう私の秘密……それはこのBLと……コスプレ。

 ただ、今の所一人で楽しんでいるだけ、とても人前には出られない。
 だから彼を家に呼べなかった。
 あの大量の衣装は隠せない……。

 そんな事を考えている間に2階に到着、階段の扉をゆっくりと開け外に誰か居ないか確認した。
 彼が居ないのを確認しフロアをそっと覗く。

「……いなさそう……」
 やはり2階は人が少ない、数人の男子がいるも彼の姿は見えない。

「帰った?」
 私が階段を登っている間にエレベーターに乗って帰ったのかも知れない。
 どうする、彼を追いかけるか……私はそう思いエレベーターホールに行くと、そこにはポスターが貼ってあった。

「た、タイムセール!」
 その文字に彼の事は頭の中から一瞬で吹っ飛んだ。
 行かなくては! グッズ待っている! はううううううう!。

 私はエレベーターに乗り込むと迷わずタイムセールのフロアのボタンを押す。

 時間はまだある、吟味するだけの時間は十分に残されている。

 エレベーターが到着、喜び勇んでフロア入る…………え!

 い、いたあああああああ!

 タイムセールに来ていた多くの女子の中に彼がいた……一人で商品を見ていた。

 ええええええええええ!?

 なんで彼がここに、そしてなんで商品を見てるの?
 私は彼に見つから無いように反対側の棚に回った。

 ど、ど、どうしよう……。
 声をかける? ううん、彼の意図がわからない……私を探してるようには全く見えない。

 彼の動きわからない以上ここにいるの危険だ、このフロアは死角が少ない。

 撤退、その文字が頭に浮かんだ……しかし、しかしだ。

 タイムセールの終了時間が迫っている……彼がそれまでにいなくなるかはわからない。

 彼にバレない方を取るか、タイムセールを取るか……。

 そんなの決まっているじゃない!

 私は考えるまでもなく彼に構わず、セール品の物色を始めた。



 


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