国による恋人マッチングシステムを使ったら、選ばれたのは隣の席の大嫌いな女子だった。

新名天生

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システムに繋がれた二人

初めまして五十川です

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 月夜野は帰り際教室で友達に捕まったらしく、今日は俺が先に喫茶店に到着した。

 いつもの様に店奥のテーブルに座ってコーヒーを頼む。

 学校から駅に向かうのとは逆方向、さらに学校からここに来る手前に大手喫茶チェーン店がある為うちの生徒はまず居ない穴場となっていた。

 俺はスマホを眺めぼんやりと待っていると、相も変わらず不機嫌そうな顔で喫茶店に月夜野が入って来た。

 水を持ってきた店員のお姉さんに笑顔でカフェオレをオーダーし、返す刀で俺をジロリと睨みつけた。
 いや……怖いんですけど、なんでそんなに初手から怒ってるんだろう? そう思っていたがその理由は3秒後に判明した。

「あんたさあ、私の事を他の娘に言ってんじゃないわよ……本当最低、キモ」
 初手から喧嘩腰の月夜野……いや誤解なんでじっくりと話せばわかると俺は落ち着いて口を開いた。

「はあ? お前の事なんて何も言ってねえよ、自意識過剰なんだよ、ばーーか」
 うん、落ち着いて言ってるね俺……だって何も悪く無いもん、そしてさすがにその言い方はないよね?

「馬鹿にバカって言われるのはホント心外ね、あんた高麗川さんに言ってたでしょ聞いてんのよ私は! なに言い訳とかしてんの、ホント最低ね男って」

「別に言い訳とかしてねえよ、なんで俺がわざわざ高麗川にお前の事を言わないといけないんだよ?」
 そしてなんで俺が男全員の代表みたいになってんの? なんなの俺? 救世主かなんかなの? そして悪魔はお前な!

「ホントマジバカ言ってたでしょ? 高麗川さんがアンタと私の仲を聞いてたでしょ! そうしたら俺はもう大人だとかなんとか、なに? 私あんたの女なの? そういう関係なの? あんたカップリングされて勘違いしてんじゃないの? 最低、キモ」

「はああああ? そんな事言ってねえし、そもそも俺はお前なんか興味ないんだよ、誰がお前なんか相手にするかよ!」

「はん、よく言う、私知ってるんだからね、あんた私と一緒に歩いている時少しドヤってるでしょ? 俺はこんな可愛い娘連れてあるいてるんだぜ、とか思ってるんでしょ!」

「ああ? だから自意識過剰だっつてんだよ! 少しくらい可愛くたってなあ、お前は顔に性格悪いオーラが滲みでてるんだよ! それがわからないバカ男が振り向いてるだけだろ? そんな事もわからない奴に俺がドヤ顔なんてするかよ!」

「あ、あのおおおお」

「何よ!」
「なんだよ!」

「か、カフェオレをお持ちしました……あと……その……他のお客さまも居ますので、もう少しお静かにお願いいたします」

「「す、すみません……」」
 それほど多くは無かったが、周囲にいた他のお客が俺達を見ていた。

「だから大きな声を出さないでって言ってるでしょ、ああ、恥ずかしい」

「いや、今のは! もういい……」

「ふん、負けを認めたわね、もっと早く負けを認める勇気がもう少しあなたには必要ね」

「…………」
 まただ……また何か違和感が……いや、今はそれどころじゃなかった。
 俺は少し冷めたコーヒーをグッと飲み干し、自分を落ち着かせてから言った。

「これだよ……」

「これって何よ!」
 俺は机に両肘を付き手を顔の前で組みどこかの司令官の様に月夜野を上目遣いで睨んだ……今日眼鏡あったらよかったのに……。

「……俺達こんな言い争いばかりしてただろ」

「ほ、本当最低よね……」
 興奮しているのか、月夜野の顔が赤く染まる……。

「ああ最低だな……でも気になったんだとよ俺達が最近大人しいから」

「気になった……」

「『最近喧嘩してませんねえ、何かあったんですか?』ってね」

「随分と気持ち悪い裏声ね、ひょっとして高麗川さんの真似かしら」
 くっ……恥ずかしい……だが大丈夫だ、もしこの物語がアニメだったら俺の声優がきっと似た声でやってくれるはずだから……。

「とにかく、高麗川は俺達の事を心配してただけだ。だから俺は大人になったからじゃないかって誤魔化しただけ……それだけだ」

「ふん、高麗川さんのお節介って事ね」

「あいつの事を悪く言うのは止めろ」

「な、何よ、あ、あんた気があるの、あの女に」

「そんなんじゃねえ!」
 俺は出来る限り小さな声で月夜野を怒鳴った。

「な! だ、だから大きな声を」
 月夜野が俺の声に初めてたじろいだ、声の大きさにではない、恐らく言い方にだ。しかし負けん気の強い彼女はそれでもお決まりの台詞を吐こうとした。

「うるせえ、いいから聞け!」
 でも言わせなかった、今回だけは言わせたくなかった。

「ひっ……」

「……ごめん……ただこれだけは聞いてくれないかな?」
 俺が声のトーンを抑えそう言うと、怒り顔で少し涙を浮かべている月夜野は、俺の顔を真剣に見て小さくうなずいた。

「……月夜野がさ、男を嫌う理由は知らない、言いたくないんだろうから聞かない……でもさ……何でもかんでもとにかく嫌うのはやめてくれ……それは男嫌いじゃない、人間嫌いだ」

「…………」

「俺は一応だけど今、月夜野と付き合ってるんだ。これからまだ当分付き合わなきゃいけないんだ……でもさ、どうせ付き合うんだから前向きに付き合いたい、ちゃんと月夜野と向き合いたい……」

「……だからさ……ちょっとだけでいい、俺を、俺自身を見てくれ、ちょっとだけでいい、俺の話を、声を聞いてくれ、そして……少しで良いから……俺の事を……信用してくれないかな?」
 俺が笑顔でそう言うと、月夜野はポロリと一粒だけ涙をこぼした。
 
 そして、俺を見つめながら、瞬きもせずに……俺の目をじっと見つめたまま言った。

「ごめん……なさい」
 
 そう言って目を閉じた。そしてその後は何も言わなかった。でもなんだか今日、月夜野が初めて俺を見てくれた気がした。男の中の一人じゃなく、俺を、俺自身を初めて見てくれた気がした。

 それが凄く嬉しかった。

 だから押し黙る月夜野に俺は心の中でこう言った。

『初めまして、五十川 瞬です、今後も宜しく』

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